モーニングルーティン

ヤマ

モーニングルーティン

 その家の新聞は、いつも少し汚れている。






 彼の朝は、早い。


 いつも通りの時間に起きて、軽く支度をし、玄関を出る。


 天気は晴れ。


 太陽の熱が伝わり切る前のひんやりとした空気が、彼は好きだった。


 庭を抜け、家の前の道に出て、右に進む。


 慣れ親しんだ道。


 しばらく歩くと、欠伸をしている彼女を見つける。


 特に親しいわけではなく、顔を知っている程度の関係。


 朝が苦手らしい彼女のぼんやりとした表情を横目に、彼はその前を通り過ぎた。


 またしばらく進み、角を曲がると、少し広い通りに出る。


 この時間は交通量がほとんどなく、鳥のさえずりが聞こえる程度の喧騒。


 彼はのんびり歩く。


 陽の光を全身に浴びる。


 途中、道端の花に目を向けたり、彼と同じように散歩する人々とすれ違う。


 パン屋から漂う美味しそうな匂いに鼻をくすぐられる。


 近所の家から聞こえてくる、寝坊したのか、慌ただしく準備しているであろう騒音をBGMにする。


 名前も知らない、関わりもない存在たち。


 けれど、いつも通りの風景。


 穏やかな朝。


 決して寄り道をすることなく、角を二回曲がり、変わらぬ歩調で進むと、やがて我が家の前に戻ってきた。


 郵便受けに差し込まれた朝刊を見つけ、抜き取る。


 それは、彼の仕事だった。


 門扉を抜けた頃、玄関の扉が開く。


 この家のあるじが現れる。


 毎朝の日課から帰ってきた彼と目が合い、主は表情を崩すと、声を掛けた。


 朝食の用意ができているらしい。


 彼が、それに応えると――











 当然、咥えた新聞は、地面に落ちる。

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モーニングルーティン ヤマ @ymhr0926

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