第7話 事件の核心
警察はまだそこまで分かっていなかったので、まずは、
「事件を一つ一つ紐置いていく」
という作業から入ることにした。
それが警察組織の基本であり、それが、
「禍する」
ということもあるが、今回の事件の場合は、
「功を奏した」
といってもいい。
それだけ、相手組織というのが、
「表向きには強力であるが、裏を返すと、実に脆弱な部分を持っている」
ということなのであろう。
「裏表が、ここまでハッキリしていると、一度壊れてしまうと、あとは、雪崩のごとくではないか」
ということになってしまうのであった。
捜査本部の中では、一つ一つの疑問点が、話し合われていた。
まず最初は、
「一番の疑問」
といってもいいかも知れないことであり、それは、
「なぜ、お湯が出しっぱなしだったのか?」
ということであった。
このことは、以前現場で、
「樋口刑事が看破した」
ということで、もう一度、樋口刑事の意見が発表されたが、
「なるほど、それは確かにいえるかも知れないな」
と本部でも考えられた。
しかし、すぐには、
「そうだ」
という結論にならなかったのは、他の意見もあるからだった。
最初に、樋口刑事の考えが、
「間違いない」
とまで感じたのは、その場所が諸相捜査の場面で、しかも、現場ということで、
「生々しさが残った状態」
ということから、何か、
「見誤った」
というべきか、
「見間違えた」
といっていいのか、錯覚があったのかも知れない。
ただ、一つの問題として、樋口刑事の中にも、
「被害者が風俗嬢」
ということで、どこか、
「差別的」
とまではいかないが、
「自分の想像を絶する世界」
ということで、
「過大妄想のようなものがあった」
といってもいいかも知れない。
ただ、樋口刑事もいいところまでは行っていたのだが、
「最後の一押しがなかった」
ということであった。
「風呂の栓を開けて、さらにお湯を出していた」
というのは、要するに、再度風呂に入る」
ということであった。
それは、犯人の計画であり、その計画というのが、
「警察ならそこまで考えてくれるだろう?」
という計画だったのだが、悲しいかな、樋口刑事にはそこまで思わなかった。
というのは、
「実は、犯人が、もう一人誰かを呼ぶつもりだった」
と思わせようとしたのだ。
もしこれが普通の客であれば、いいのだが、中には、
「スカウト」
という連中もいるわけで、店を契約をし、
「人気嬢を引き抜く」
ということを商売にしている連中がいる。
だから、ホテルの部屋をフリータイムで貸切って、その間に数人の女の子を呼ぶというっことだって普通にあるだろう。
ホテルの人は、それくらいのことを分かっているので、怪しむことはない。
組織としても、
「警察はホテルの人からも話を聞くだろうし、それくらいのことは分かり切っている」
というように警察に対して、
「過大評価」
をしていたといってもいい。
しかし、そこまで警察は考えなかった。
そもそも、
「風俗をあまり知らない樋口刑事が最初の担当だった」
ということも、犯人側には失念していたことだろう。
だが、捜査本部では、そのことが話し合われた。
そこで、
「俺は本当に無知なんだな」
と、樋口刑事は、感じたが、
「待てよ?」
とも感じたのだ。
「あくまでも俺が気づかなかっただけで、捜査本部のほとんどの人は、実際に見ているわけではないのに、話を聞いただけで、分かっているではないか?」
と感じると、
「何か、からくりがあるに違いない」
と考えたのだ。
「フェイクということはありませんかね?」
と樋口刑事は言った。
「自分は、そこまでまったく思いつかなかったのに、皆さんは、お話を聞いただけで、すぐに事情を看破することができたわけじゃないですか? 犯人だって、きっと看破されるということを分かっていたのだとすれば、その裏に何かあると思うのは無理なんでしょうかね?」
というのだった。
「いやいや。それは考えすぎではないか?」
という意見が多数だったが、樋口刑事は、どうにも納得がいかなかった。
「お前だけが気づかなかったということで、それを悲観してなのか、まわりにその考えを押し付けるのは、どのようなものか?」
と考えていることは、他の刑事の、
「樋口刑事を見る目」
で分かるというものだった。
だが、樋口刑事は、そのことにあまり気にすることはなかった。
その上で、さらに、
「自分なりの考えを組み立てる」
ということであった。
「動機というのは、どうなんでしょうかね?」
と樋口刑事がいうと、少し、その場が重苦しい環境になった。
捜査副本部長といってもいいくらいの、
「現場の責任者」
という意味での、
「桜井警部補」
が、口を開いた。
「そうなんだ。この事件で考えたところが、動機という意味で、被害者を恨んでいる人も、いないわけではないが、殺したいというほど恨んでいる人がいるとは思えない。それは捜査員が聞き込みを繰り返す中でも同じなんだ」
ということであった。
「じゃあ、あと考えられることとして、彼女が殺されることで、一番得をする人というのはいるんですかね?」
と聞いてみたが、
「それも、今のところは皆無なんだ。彼女が、莫大な遺産を相続するということであったり、彼女に弱みを握られているというような人も今のところ、捜査線上に上がってくるわけではないんだ」
ということであった。
つまりは、
「容疑者になりそうな人が出てこない」
ということであった。
「そうなると、まわりの人間関係の敷居を低くするか、さらに広く探ってみるかということをしないと、何も出てこないということになるんでしょうか?」
と樋口刑事はいうのだった。
それを考えながら、初動捜査の中で感じた疑問点を書いたメモを開いてみていた。
「お湯の栓の出しっぱなし」
ということであったり、
「ガウンを脱ぎ捨てている」
ということであったりが問題だったが、それも、
「樋口刑事の勘違い」
ということで実際には、まわりの意見に納得させられたのだが、そこで簡単に転ばないのが樋口刑事であり、それが、彼のいいところでもあった。
樋口刑事が気になったのは、
「女性が乱れたというのは分かっているが、男性側が、最後まで満足できたのか?」
ということが、軽い疑問として残っていた。
「男性の中には、最後までいかなくても、満足する人もいるからな」
ということであった。
そういう意味で、それを逆に感じると、
「実際には、いくことのできない身体だったのでは?」
ということである。
最近では、
「LGBTなどということで、性同一性障害」
というものがある。
そのことが、樋口刑事の頭をもたげてきたのだ。
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