第8話 大団円

 実際の実行犯が、

「普通の男性ではない」

 ということになれば、話は変わってくる。

 それを知られたくないという思いから、

「犯人は男だ」

 ということにしたかったのかも知れない。

 そうなると、

「スカウトではないか?」

 と思わせることは、犯人側にとっては、

「実に都合のいいことであろう」

 そのための、偽装工作だと考えれば、最初に感じた不思議なことも理解できるというものだ。

 そこに、さらに

「逆転の発想」

 というものが含まれていると考えたのは、

「樋口刑事だった」

 からだろう。

 樋口刑事は、自分の考えが至っていなかったことを恥ずかしく感じた。

 そこで、

「新しく勉強した」

 という頭で持って、再度事件を見た時、他の人に見えない疑問が浮かんできたことから、この発想が生まれたのだ。

 しかし、

「男性が、それだけで満足する」

 ということをできるものか?

 と考えた時、

「部屋が必要以上に荒らされていたというのも、満足したことへのカモフラージュだったのだ」

 元々、男としての機能がない人を男として見せようというのだから、カモフラージュは絶対に必要であり、それが、

「ひょっとして看破されるのではないか?」

 と思ったとしてもそれは、

「無理でも通すしかない」

 と考えた時、一種の、

「一カバチかという賭けに出た」

 といってもいいかもかもしれない。

 そこまで考えてくると、

「まったく逆な方向からも見えてくるものもある」

 というもので、まさか犯罪組織も、警察がそこまで見えているとは思わないとタカをくくっていたのだ。

「自分たちが計画したことを、自分たちがやられる」

 ということに気づかないということが、やつらにとっての、

「命取り」

 ということだったといってもいいだろう。

 事件は、ここまで考えられると、あとは、推理というよりも、実際の捜査において、

「時間が、解決してくれる」

 ということで、

「物証を集める」

 ということであった。

 容疑者は、敷居を下げて、幅を広げれば、数人出てくることになったわけで、しかも、

「犯人は、男性ではない」

 ということであれば、探しやすかった。

 といって、

「男性ではない」

 ということは、別に、

「女性だ」

 といっているわけではない。

「男装をする女性」

 であったり、

「同性愛者である女性」

 ということでもいいわけだ。

 実際には、後者だった。

 しかも、実行犯は意外にも、

「被害者の親友」

 ということであった、

 この業界では、同業者が友達になるというのは、そこまではないだろう。

 特に、同じ店の女の子同士、顔見知りということはまずないといえる。

 確かに、

「ホームページなどで意識はする」

 ということであろうが、同じ屋根の下にいるとしても、

「自分をいつも指名する人がために、別の女の子を指名する場合があったりして、それは客の自由なのだろうが、もし、二人が鉢合わせをすれば気まずくなり、その客が二度と店に来なくなれば、太客を失いかねない」

 それは店としても、大きな損失になるということで、

「店の中ではなるべく、女の子は、その日の指名してくれた客か、男性スタッフ以外とは合わないように、男性スタッフの方で気を遣っている」

 ということになる。

 だから、基本的に、女の子同士が仲良くなるということは珍しかったりするだろう。

 しかし、つかさは、仲がいい女の子がいた。

 そもそも、つかさが彼女をこの世界に誘ったわけで、そういう意味で、嫉妬が生まれたというのは、

「仲がいい」

 ということの裏返しだったといってもいいだろう。

 今までも、実行犯がつかさを誘ったり、逆につかさが、実行犯を呼ぶということもあった。

 そこに、犯人グループは目を付けたのだった。

 彼女が逮捕されれば、あとは芋ずる式だった。

 実行犯を見た樋口刑事は愕然とした。

「この子は洗脳されている」

 と感じたからだ。

「ここまでするなんて」

 と、犯人グループのやり方に、苛立ちを覚えるというのも無理もないことで、

「そこまでしないと守れない組織なんて、すぐに潰れるわ」

 と思っていたが、この事件がきっかけで、本当に、やつらの組織は潰れることになったのである。

 そもそも、捕まったことで、実行犯の洗脳もとけた。それには、神経内科の先生であったり、

「催眠療法のプロ」

 といわれる先生に催眠を解いてもらったことで、事件が、ハッキリとしてきたからであった。

 実際に、組織の解体は、

「公安」

 に引き継がれることになったが、これほど、

「分かってしまえば、ある意味単純な事件」

 というものを、

「余計な細工」

 というものをすることで、実に簡単に看破されることになるとは、犯罪グループは、

「自分たちがプロだ」

 という意識があっただけに、相当ショックだっただろう。

 もっとも、それぞれプロなのだから、自分たちの間で、いくら仲間のスタッフということで、

「あいつには負けられない」

 という意識が強くでれば、結局は、

「一枚岩ではないのだ」

 つまりは、

「壊れ始めると早い」

 ということで、その元は、

「結局、風俗業界を甘く見ていた」

 ということである。

 警察は、

「樋口刑事のその感覚が、功を奏した」

 ということになるが、犯人側は、

「それが命取りになってしまった」

 ということになる。

「表裏がハッキリと別れた事件」

 ということになるのだろう。


                 (  完  )

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表裏別離殺人事件 森本 晃次 @kakku

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