第6話 誰にも遭わない
今までは、警察側の初動捜査について考えたが、犯人側、特に実行犯のことを考えてみることにしよう。
この事件は、実は、
「実行犯は、つかさに嫉妬していた」
といってもいい。
もっといえば、
「つかさの正義感」
というか、
「完全懲悪ぶっているように見える」
ということが、自分の中で許せなかったのだ。
「そんなことで、人を殺す?」
といってしまえばそうなのだろうが、実は、つかさという女に、いろいろマズいと思われる秘密を握られた組織。
この業界で店を経営していくうえで、
「つかさに生きていられると困る」
と感じた連中が、
「実行犯をけしかけて、殺しにかかった」
ということであった。
そのことを、今のところ知っている人はいないが、
「何となく、胸騒ぎレベルで感じている」
という人がいないわけではなかった。
差し当たって、この計画は、組織としては、
「警察には、自分たちが計画したシナリオに沿って、捜査が進む」
ということを、
「期待して」
いや、
「進んでくれなければ困る」
ということで考えていたのだが、結果としては、
「やはり、そこが大きなターニングポイントだった」
ということである。
犯行グループが、実行犯にキーになる話を一つしたのだった。
元々、犯罪計画に関しては、実行犯の、
「耳にタコができる」
というくらいに、徹底していたので、実行犯も、しっかり把握していた。
そもそも、組織としては、
「実行犯には、洗脳されやすい人物」
ということで、選定したのだった。
この計画は、実は、結構前から計画されていて、
「つかさを殺す」
ということが決定してから、実際に実行されるまでに、半年近くがかかったということだ。
その間に、
「入念な計画」
というものが寝られ、それに対しての、
「キャストの人選」
さらに、シナリオも入念にチェックされ、
「もし、万が一ということがあった時、どこで見極めて、復旧作業に入るか?」
ということまで考えられていた。
計画遂行のスタッフ」
である、
「シナリオライター」
「演出家」
などと呼ばれる人は、
「いろいろな業界でのプロ」
と呼ばれていた人たちだった。
「医学や精神関係に従事してきた」
という人は、
「洗脳であったり、そこから計画の骨子」
を組み立て、
「システム関係に従事してきた」
という人は、
「万が一の時、どこで辞め、原状回復ということを行うか」
ということを入念に計画して、
「選定された実行犯であったり、援助するというキャストに教え込む」
ということになるのだ。
だから、今回の計画に関しては、
「複数犯」
というか、
「団体による犯罪計画だった」
ということになるのだ。
その中で、キーとなるのが、
「誰にも遭わない」
ということであった。
そこには二つの意味があり、
「自分たちと関係のない人とも会わない」
ということは、計画を遂行するうえで大切なことだった。
それは、まわりのエキストラたちが、そちらの計画遂行にまい進しているので、
「もし、誰かにあったとすれば、それは、計画の中止を意味している」
ということになるのだ。
しかも、それを実行するうえで、
「エキストラとの協力が不可欠」
ということで、計画が、狂いなく進んでいっているとすれば、
「実行犯が、誰とも会うことはない」
ということになるのだった。
つまり、
「誰か、予定にない人と遭うという場合は、計画の中止を意味している」
ということになるのだった。
実際の計画の中には、
「この計画は、一人ではできない」
ということで、
「成功するための、実際に洗脳された計画の中には、実際に出会う人のことはインプットされている」
ということになるので、
「それ以外の人と遭うことは、ありえない」
といえたのだ。
この事件において、
「これが一番大きな骨子」
ということであったが、もう一つ言えることは、
「実行犯が、ただの実行犯である」
ということが警察に分かってしまうと、それは、
「自分たちがヤバくなる」
ということから、
「実行犯に対しての洗脳」
というものが、かなり大きな意味があったともいえるだろう。
この団体というのは、
「結構な悪徳団体」
ということであった。
というのは、何やら、バックに大きな力というものがあるようで、その力の源になっているのは、
「政府組織だ」
といわれているようだった。
この時点では、刑事課の人たちにとって、
「そんなことは夢にも思わない」
ということだったのだろう。
ただ、その組織というのは、
「公安に目をつけられている」
という団体であることに違いはなかった。
そのことは組織も分かっている。
だから、自分たちへの捜査の目をかく乱するということでも、一つ、何かを起こし、いずれは、その事件に、公安の目を向けることで、ちょっとした時間稼ぎを考えていたのかも知れない。
だから、
「ある地点から、自分たちの関与を、公安に感じさせないといけない」
ということを考えた。
警察と、公安が、どこまで協力体制が取れるのか、正直分からないが、組織とすれば、
「この二つの異なる組織を利用しよう」
と思っただろう。
そもそも、
「警察組織だって、自分たちの縄張り意識だったり、上下関係においての、階級社会ということでの確執があったりすることで、ちょっと刺激すれば、壊れてしまうのではないか?」
と考えられる。
しかし、それを、
「国家権力」
という形で必死になってその体制を守ろうとすることで、
「そう簡単に組織の体制が崩れる」
というものではないといえるだろう。
それを考えると、
「組織が、警察と公安の間をかく乱することで、少しでも、時間稼ぎができれば、その間に、本来の目的を達成しよう」
ということなのだろうか?
それが、
「警察と公安が仲たがい」
ということをしていたり、
「お互いに足の引っ張り合い」
などをしてくれると、余計に計画がやりやすくなるということではないだろうか?
ただ、その組織というのは、
「自分たちが計画したことを、自分たちがやられる」
ということに意外と気づいていなかったのだ。
それこそ、
「灯台下暗し」
というべきか、
「組織が大きいだけに、見落としてしまう部分も、多々ある」
ということになるのだろう。
そんなことを考えていると、
「今回の事件は、本当に成功するのだろうか?」
という思いを一番抱いている人がいた。
その人物は、
「実行犯」
であり、そのことを、計画した連中が一番失念していたということであった。
実行犯は、
「確かに、被害者に対して、殺意を持っていた」
というのは事実だろうが、
「実際には、そこまで激しい憎悪があったり、本当に、最初から、殺してやりたい」
というところまで思っていたのかどうかというのは難しいところであった。
「つかさを殺さないとまずい」
と組織が感じた時、組織は、つかさのまわりで、
「彼女に対して、一番大きな動機を持っている人」
ということで探していたようだ。
しかし、実際には、そこまでの人はいなかった。
これが、最初の組織の中で、計算が狂ったともいえる場面であった。
もちろん、それくらいのことは、犯罪計画を立てるうえで、十分にありえるということは分かっていたことだろう。
しかし、
「あの女位だったら、たくさんいる」
と思ったのは、組織の連中が、
「風俗」
というものを舐めていたといってもいい。
というのは、
「その組織の連中は、基本的にエリートだ」
ということである。
特に、犯罪計画を練ったり、洗脳をかけたりする連中は、それぞれに、
「その道のプロフェッショナル」
といってもいい。
だから、
「風俗」
というものを、どう考えても、
「低俗といえる業界」
としか思っておらず、明らかに、
「差別的な目」
で見ていて、
「優越感に浸っていた」
といってもいいだろう。
そんな連中なので、計画も、
「どこまでカッチリとしたものだったのか?」
というのも怪しいものだ。
だから、
「風俗嬢なんだから、殺意を持った人間を探すくらいはわけもないこと」
と思っていたのだ。
しかも、見つからないということで、
「自分たちが甘い考えだった」
ということにはならない。
「なぜなんだ?」
とは思うが、相変わらずの、
「相手を差別的な目で見ている」
ということで、
「これでは永遠に見えるわけはない」
ということで、
「永遠に交わることのない平行線を描いている」
ということになるであろう。
それがやつらにとっての、
「計画とん挫」
あるいは、
「完璧な計画」
と思っているところに空いた、
「小さなアリの穴」
といってもいいのではないだろうか?
問題は、
「警察がいつそのことに気づくのか?」
ということであり、
「この事件は、そういう意味では、一つが崩れれば、簡単に崩壊する犯罪計画だ:
ということを絵に描いているようなものだといえるだろう。
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