紀元二三四年。蜀漢の巨星、堕つ。一方、曹魏の司馬懿は「芝居」をしていた

舞台は中華世界。漢帝国が滅び、三人の君主がしのぎを削る三国時代の出来事。
『三国志演義』が好きな方なら誰もが知っている名場面、「死せる孔明、生ける仲達を走らす」に大胆なアレンジが加えられた一作です。

話の流れは『三国志演義』と大きく変わっていないのですが、この作品では主に曹魏の軍師である司馬懿仲達の心情描写にスポットが当てられており、まさにその部分が本作の見どころになっています。

諸葛亮孔明から、女性が着る婦人服を贈られて、司馬懿は怒りに震えるかと思ったら、

(まさか、これは……結婚の申し込みでは?)

と心中で勝手に解釈し、開幕早々に恋愛脳をフル回転!

その後に繰り広げられるエピソードも、話の流れは『三国志演義』のままなのに、司馬懿の独白があるおかげで、どこか「遠距離恋愛をしているカップルの恋物語」に思えてきて、しかたがありません。

そして最後の、そう、諸葛亮孔明が最期を迎えた時の「あの計略」でさえも、司馬懿が子供のようにわんわん泣きじゃくる姿を読むうちに、「今世ではもう会えないカップルの悲しい別れ」に見えてきて、自分も思わずもらい泣きしてしまいました。

いやあ、面白い!
こういった作品の作り方もあるのかと、うならされた一作でした。

司馬懿による一世一代の「芝居」、一読の価値がありました!

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