芥川龍之介　現代ニマヨイ込ム

羅生門の筆を置き、微睡むつもりで目を閉じた。だが、開けた先には、奇怪なる光景が広がっていた。

渋谷。幻惑する如く、巨大なる広告が虚空に浮かぶかの如く輝いていた。人の群れは波のように交差点を行き交い、まるで一つの生き物の呼吸のように動いている。彼は呆然として立ち尽くし、思わず口元を押さえた。「この街は何を求め、かくも喘ぐのか…？」ビルの硝子に映る己の姿は、異国の客のように見えた。

浅草。雷門の赤は時の流れを嘲笑うかのように変わらず立っていた。しかし、その門の向こうに広がる光景は、彼の記憶にあるものとは違う。異国の言葉が混ざり合い、奇妙な服を纏った者が歩む。人々は何か小さき器を手にし、光を浴びせながら覗き込む。「果たして、これが人の生業というものか…？」彼は己の胸を探り、未だ確かに鼓動を感じた。

成田空港周辺。巨き鉄の翼が空へと舞い、雲を裂く如く進む。「人はついに天の支配者と化したか…」彼は唇を嚙み締め、ふと遠い過去を思う。夢か、現か。その定かならぬ感覚に酔いながら、彼はゆるりと瞼を閉じた。

気がつけば、筆の上に己の手があった。すべては夢であったのか？あるいは、見たものこそ現実か？彼は慎重に筆をとり、その記憶を物語として紡ぎ始める。羅生門の世界の陰に、ひそやかなる未来の影を滲ませながら。