上から落ちてきた

 ルネと神崎たちの戦いを上の部屋から眺める男は違和感を感じていた。

 「何やら近づいてきているな」

 夢のアパート、その積み重なる部屋を落ちてくるものが居る。その気配をこの男―フロイトは感じていた。

 フロイトは覚悟する。最悪己が戦う羽目になると。

 気配は段々と近づく。

 (あと三層、二、一。…来たな)

 フロイトの居る部屋、その天井を破り、男が一人落ちてきた。

 「いてっ、…誰だ、お前?」

 男の挙動を見逃さまいとフロイトは身構える。何せ相手は上層より落ちてきた。いわば神崎やルネ、フロイト自身を夢見ている者だ。何をしてくるか想像すら出来ない。想像したとしてもそれはこの男が夢見た想像である。

 「私はフロイト、この部屋の住人だ。‥お前は?」

 「俺は出雲という。探偵をしている」

 二人は互いを見つめる。フロイトはこの部屋においては何の影響力も無い。しかし出雲は上の住人である。同じ部屋にいるがアドバンテージの差は歴然だ。

 「探偵さんか…、何しにここへ?」

 「うっかり手持ちの銃を撃ってしまって、床が脆かったのかそのままここに落ちてしまった。ほんとただの事故でも何かしに来たわけじゃない」

 出雲はそういうがフロイトは半信半疑であった。もといこの男に信じ切る選択肢は無いが。

 「ではお帰りを手伝いましょうか?」

 出雲の様子を窺いながら帰りの提案をしてみる。フロイトからすればこのまますんなり帰ってほしかった。

 しかし出雲は帰らない。

 「でもあなた、どうやら二人の住人と敵対してるよね?夢で見たよ」

 出雲は自身の懐にあるリボルバーを取り出した。

 「撃つ気か」

 「ああ、撃つよ」

 その宣言にフロイトの手は緊張からの汗を滲ませる。その緊張と警戒は下の部屋のルネを夢見るすら忘れさせるほどだった。

 「でも君は撃たないけどね」

 と出雲は下に向けて銃を撃つ。床は砕け、そのまま彼は神崎達に会いに行った。

 「…不味いかもしれない」

 落ちていった出雲の背中を見て、フロイトは出雲との遭遇を不運に思った。

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N階の夢アパート 松ノ枝 @yugatyusiark

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