ルネという男
探偵は未だ夢アパートを落ちている。床をぶち抜き、層を突き抜ける。
落ちる先はどこなのか。それは落ちている本人すらも分からない。
男は宙に浮き、特異点は次第に消滅に向かう。彼も神崎達と同様に宇宙空間を平気な顔で佇んでいる。
大気無き真空で彼らは体の形を保ち、互いを見つめる。
先に口を開いたのは男。
「すまない。驚かせるつもりは無かったんだ」
そういい、謝罪と共に頭を軽く下げる。
その行動に神崎は警戒心を緩める。しかし細川はより警戒を強めた。
「こちらに怪我は無いので良いですが、あなたは?」
細川が問う。相手の口調に合わせ、慎重に。
「私はこの部屋の住人のルネだ」
「僕は神崎です。こちらの方は細川さんで。よろしくお願いします」
神崎はルネに会釈する。その言葉にルネもよろしくと返す。
そんな二人を見つめながら細川は考えている。
この後ルネがどう動くのかと。
「ルネさん、一つお聞きしたいことが」
細川がそう言い切る前にルネは口を挟む。
「ああ、上の者のことだろう?彼なら確かに私と繋がっているよ」
その言葉を聞いてなお、細川の表情に変化はない。しかし彼女の手のひらを一筋の汗が伝う。
冷や汗だった。自身の推測ではなく、ルネからの確実な情報。その違いが彼女に冷や汗をかかせた。
(つまり上の者も夢と気づいている‥)
上の者が夢を変えるだけで次の瞬間には死んでいるかもしれないと、そんな考えが細川の思考を流れていく。
「そうですか。聞きたいことはそれだけで」
これ以上聞くのも危険かと細川は質問を止める。
しかし神崎は止めない。
「ルネさんは何故ここに?」
細川も気になっていたことだが、この人は警戒心が無いのかと神崎を見て少し呆れた。
「うん?あぁ‥、そうだね。何しに来たか‥、やりたいわけじゃないんだが」
ルネは一度頭を上に向け、また神崎達に向き直る。
「君たちを攻撃しに来た。上の者の命令でね。謝るとしよう、ごめん」
「えっ」
ルネの目つきが鋭くなる。別人の様に。
神崎と細川は身構える。何が起こるが分からない、そんな恐怖を受け止めるために。
「神崎さん、私の方へ」
「はい」
二人は一点に集まり、ルネの動きを注視する。
突如、二人の元に五人のルネが現れる。
「そんな!」
細川が驚きの声を漏らす。
「五人のルネだ、逃げ切れるかな」
と目つきの違うルネが宙から見下げ、様子を窺う。
現れた五人のルネは二人に襲い掛かる。
「細川さん、あっちへ逃げましょう」
神崎が指で方向を指し示す。
その先には星々が点在している。
二人は地面を蹴り上げ、星を渡り逃げ始めた。
「ほお‥、星を渡るか。夢であることを良く理解している。良い考えだ」
ルネは二人を見ながら、五人のルネに追いかけさせる。
「まあ、逃がさんが」
その口調はルネのものでなく、上の者のそれであった。
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