魔法

神大誠

魔法

「私、魔法が使えるんだ!」馬鹿らしい。この世に魔法使いなんているはずがないのに。


そう思った。私は彼女にこう言った。


「へえ、魔法が使えるんだ。じゃあ使って見せてよ」


すると彼女は、1つのシャボン玉の液と、吹き具を取り出した。


「見ててね!」


ああ、彼女は幼稚だな。もう20にもなるのに。

そんなことを考えながら、ただただ彼女が吹くシャボン玉を眺めていた。しばらく液体を膨らましていた吹き具を口から離し、彼女は私に問いかけた


「ねえ、何か分かった?」


急にどうしたんだ。ついに頭がおかしくなったのか。

 すると続けて彼女はこんな言葉を発した。


「今シャボン玉に写っていたのは、なんだと思う?」


私は急な問い掛けに答えが思い浮かばず、黙っていた。


彼女は伏せ目がちに、ぽつりぽつりと言葉を零す。


「私はね、このシャボン玉に映る全てが、今を物語っていると思うんだ。

人、車、子供、大人そして自然の葉や花。

全てがこのシャボン玉に写ってる。

人って、明日死ぬかもしれないし、今日死ぬかもしれない。地球だって、明日には消えてるかもしれない。


でもそれは誰にも分からないでしょ?


急に消えるシャボン玉や、ずっと浮いてるシャボン玉。


でもいつかは消えてなくなってしまう。


そこがとても、似てると思ったの。

でも子供は、そんなことは思わずに分からずに、無邪気に吹いてるでしょ?」「だから、このシャボン玉を吹いてる今は、子供の頃の無邪気な気持ちになって、全てを忘れて楽しめたらいいなって…そう思ったんだ。


これが私の魔法だよ」


彼女の目が私に向く。私の答えを待っているかのように。



________それからと言うもの、公園に彼女が現れることはなくなった。


数日後、彼女と過ごしたあの場所で、一通の手紙がベンチに置いてあった。



手紙をおそるおそる開いてみる



「私の魔法使い、ありがとう」



私は手紙の意味を考えた。でもいくら時間をかけて考えても、今の私には分からなかった。謎の不安を消すために咄嗟に会おうと考えたが、会えない。それは自分でも分かっている。


いつの間にか私は、あの無邪気な彼女を求めるようになっていた。何か書かれてないか。微かな希望を持ち、裏面を見る。今日の夕方頃、桜の木の下で待つ。そう書かれてあった。私は夕方頃、向かった。


彼女がいた。手を振っている


 ああ、幻じゃなかった。よかった。咄嗟に出てきた想いだ。私は彼女の元へ駆け寄り、手を握り、一つ一つ言葉を選んで話し出す。


「手紙を見て…私、魔法っていうものをよくわかってなかったのかなって…」


彼女は無言だった。静寂の時が流れる


「あはははっ!」彼女は笑った。

「あー、おかしい!」


私は頭の中がハテナで一杯だった、変なことを言っただろうか?


「ふふふ、あれほど魔法に興味が無さそうだったのに…」


「それは…」

私は口篭る


「ううん、そんなことはどうでもいいの!それより、貴方が魔法を使ってくれたんだよ」


え?私が?彼女から出る意外な言葉に、目を見開く


「貴方は私の質問に答えて、それを口に出して馬鹿にすることをしなかった。

私が今まで会ってきた人達はみんな、お前はおかしい人だーって馬鹿にしてきたよ。

でも信じてくれて、またここに来てくれたのは貴方だけだった。」


途端に申し訳なく思った。

私も「馬鹿らしい」この言葉を口に出していたら、彼女との関係はもうとっくに終わっていただろう。

申し訳なかった私は、正直なことを話そうか悩んだ。でも、ここで話をして関係が終わるのは勿体無い気もする。


黙ったままでいたら、彼女が察したのか、空の彼方に体、目を向け、話し出した。


「馬鹿らしい、おかしい人だなって、貴方も本当は思ってたこと私も分かってる。

だって自分でもおかしいって思うもん。


でもね、それを言葉にしないで心に留めて置いてくれたのは貴方なんだよ」


私は真剣に相手の話に耳を傾ける。


「助けてくれたんだよ」


また、彼女にビックリさせられた。私が助けた?何もしてないのに。

「実はね、あの時私も人生に疲れて、シャボン玉を吹き終わったら私も消えて居なくなろうと思ってたんだ。」



「え?」

思っても、考えてもいなかった。



この陽気な彼女が、死のうと考えていた?衝撃的な言葉に雷が落ちたような感覚を覚える


「でもね、ほら見て」

彼女はシャボン玉の液が入っていたであろう容器を取り出し、私に中を見せた。


そこにはまだ1口吹ける量の液体が残っている。


「なんか貴方と話してると、不安がすっと軽くなってさ、

この液体、あなたの為に残しておこうって。そう思えたんだ。」

すると彼女は鞄からもう1つの吹き具を取り出し、私に渡した。「やってみてよ!」


私はおそるおそる彼女が持ってる吹き具を手に取り、液をつける。ふーーっ____


 吹いた。



 私の口から出たシャボン玉が空に放たれ、ふわふわと浮かんでいく。



空に浮かんだシャボン玉を見て、

彼女の話を聞いて、

やっと今までの全てが理解が出来たように思えた。


彼女も私と同じだったんだ。

分かっていなかったのは私の方だった。

”魔法”というものを理解出来ていないのは、幼稚だったのは、私の方だった。

彼女は私の抱えてる闇を既に見据えていて、それを今だけは無くそうとしていてくれたのだ。なんで気付かなかったのだろう。彼女も辛かったはずなのに。


 彼女は満面の笑みで、私に言う。


「私と同じ魔法だね!」

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魔法 神大誠 @shindai_m

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