第10話 語り継がれる記憶

それから数ヶ月が経った。

リツとルナは古民家を修復し、二人で暮らし始めていた。ルナは異世界からやってきた孤児だったが、今ではリツの新しい家族となっていた。

ある夕暮れ、二人は縁側に座り、夕日を眺めていた。

「ねえ、今日はどんな話をしてくれる?」ルナが尋ねた。

リツは微笑み、アクアティカからもらったペンダントを握りしめた。

「今日は、お母さんが初めて作ってくれた味噌汁の話をしようかな」

彼女が語り始めると、不思議なことに家の中から温かい味噌の香りが漂い始めた。二人は驚いて顔を見合わせた。

「いえぞう...?」

返事はなかった。しかし、古い柱がかすかに震えるのを二人は感じた。

リツはにっこりと笑った。「やっぱり、思い出を語り合う限り、家族は消えないんだ」

彼女は立ち上がり、家の柱に手をあてた。暖かさが手のひらに伝わってくる。

「これからも、たくさんお話しするからね。わたしたちの思い出、みんなの思い出...全部語り継いでいくから」

夕日が沈み、星空が広がり始めた。家は静かに二人を包み込んでいた。別の形で、しかし確かにそこにいる家族の存在を感じながら。

リツは小さな声で言った。

「いつか、この家に新しい家族を迎えるんだ。そしたら、また新しい思い出が生まれる。それをまた語り継いでいく...」

彼女が語るたびに、家は微かに反応した。柱がきしむ音、窓を通り抜ける風の音、それらすべてが応えているかのようだった。

リツは空を見上げた。どこかで、異世界のクロウやアクアティカも見上げているかもしれない同じ星空を。

「ねえ、いえぞう」リツはささやいた。「わたしたちの物語は、まだ終わってないよね」

答えはなかった。しかし、彼女の心の中では確かに、いえぞうの声が響いていた。

「うん、まだまだ続くよ、リツちゃん」


その夜、古民家の屋根の上で、一羽のカラスが月を見上げていた。それはクロウにそっくりだった。

世界は確かに繋がっていた。思い出と共に、新たな物語が始まろうとしていた。

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家ごと転生しました 〜この家、しゃべります〜 すぎやま よういち @sugi7862147

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