第9話 新しい魔法
その言葉が、新たな魔法を呼び起こした。
リツの体から金色の光が広がり、泉から流れ出たいえぞうの記憶の光と交わり始めた。空間が共鳴するように震え、光の渦が形成される。
「なにが起きてるの?」アクアティカが驚きの声を上げた。
クロウが目を見開いた。「古い伝説にあった『記憶の継承』だ。リツが新しい魔法を発動させた!」
光の渦は大きくなり、空の裂け目へと向かっていった。光は闇に触れると、まるで針と糸のように裂け目を縫い始めた。
「リツちゃん...」弱々しいいえぞうの声が聞こえた。「あなたが...魔法を...」
リツは目を閉じ、心の中の家族の記憶をすべて呼び起こした。父の笑い声、母の歌声、祖母の知恵。そのすべてが彼女の中から溢れ出し、光となって空間を満たしていく。
「わたしが覚えてる。わたしが語り継ぐ。だから、消えない!」
光は空の裂け目を完全に閉じ、闇は後退していった。地面の揺れも収まる。しかし、儀式の代償は避けられなかった。
いえぞうの姿は半透明になり、かつての輝きを失っていた。話すこともできなくなった。
リツは黙ってうなだれた。それでも、彼女は微笑んだ。
「ありがとう、いえぞう。わたし、ずっと覚えてるからね」
帰還
世界の崩壊は止まった。だが、彼らの旅はまだ終わらない。泉の力を借りて、リツたちは元の世界へ戻る準備を始めた。
ルナはリツの前に立ち、彼女の手を取った。
「リツ、君は本当にすごいよ。新しい魔法を生み出すなんて」
「わたしじゃない」リツは首を振った。「家族の絆が、この魔法を作ったんだ」
別れの時が来た。クロウとアクアティカはこの異世界に残ることを選んだ。
「またいつか会えるさ」クロウが言った。「世界は繋がってるんだからな」
アクアティカはリツに水晶のペンダントを渡した。「これを持っていて。あなたの記憶が薄れそうになったら、これが助けになるわ」
最後の別れを告げ、リツとルナ、そして黙したいえぞうは泉の光に包まれた。光が消えると、彼らは元の世界に戻っていた。
古民家は元の場所に戻っていた。しかし、もはや家は話さない。いえぞうは普通の古い家に戻ったように見えた。
「終わったんだね...」リツはつぶやいた。
ルナは彼女の隣に立ち、彼女の肩に手を置いた。「いいや、始まったんだ」
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