クローバーの花冠は今世まで
藤泉都理
クローバーの花冠は今世まで
始まりはいつだっただろうか。
一人の女性、
確か、令和時代の日本。
放課後の部活動のグラウンド使用で喧嘩していたサッカー部の
(私はいつまであんたたちの世話をすればいいのよ?)
これは何度目の人生だろうか。
ずっとずっとずっと、前世の記憶を引き継いで生きて来た。
ずっとずっとずっと、二人の男性の間に挟まれて生きて来た。
今世もまた、
ただし、ほとんどの人生で前世の記憶を思い出すのは、成人年齢を迎えた時だったけれど、今世はどうやら毛色が違うらしい。
この世に誕生して十月間十日目を迎えた時に、前世の記憶を思い出してしまったのだ。
つかまり立ちが安定して伝い歩きができるようになり、手指がさらに器用になり手づかみ食べもできるようになったお年頃である。
他のご家庭は存じないけれど、母乳やミルクを卒業して、離乳食一本になったお年頃である。
何故か実家から引き離されて一人の男性の下に引き取られたお年頃である。
男性の名前は、貴。
毎度お馴染みのあの貴である。
今世では魔法や魔術を研究している魔導士であり、魔力が桁違いに高い阿可流の調査と無事に魔力操作ができるように指導を任されたらしい。
「ん~~~」
「我が儘を言うな。早く食べろ」
「ん~~~」
「これを食べないと魔力が身体に溜まって爆散してしまうぞ」
「んんん~~~」
「ほおら。あむあむ。美味いなあ。美味いぞ」
「………」
「何だその疑わしいと言わんばかりの目は。美味いに決まっているだろう。なんせこの国で一番優秀なハウスキーパーの潤が作ったんだからな」
毎度お馴染みの潤は今世では貴の家のハウスキーパーらしい。
とりあえず二人はもう出会っていたのかと、阿可流は思った。
(はあ。でもまたグダグダモダモダしているのかなあ。また私が仲裁しないといけないのかなあ。潤は私の前に姿を見せないのよねえ。何でかしら?)
「ほおら。あむあむ。美味いなあ。美味すぎてほっぺたが落っこちちゃうなあ」
貴は潤と貴特製の離乳食を乗せたベビースプーンを、ベビーチェアに座る阿可流の口元に近づけて食べさせようとするが、阿可流は口を結んで開けようとしなかった。
何故口を開けようとしないのか。
単純明快。
不味いのである。
身体によさそうな薬草満載なのが分かる味である。
う~ん不味いもう一杯の味である。
不味いのだからもう一杯も何もないのである。
(魔力が桁違いって言うけど。私、魔法全然使えないし。不思議な事もできないし。きっと勘違いされているのよね。何か、金色の髪の毛と瞳って魔力が高い人の特徴らしいけど。全員が全員そうじゃないでしょ。うん。だから食べない。いやよ。これ以上無理に食べさせようとしたら、泣き喚くわよ。今は感情の操作が難しいんだからね。一度泣き喚かせたら、当分は泣き止まないわよ)
「なあ。頼むよ。食べてくれよ。おまえを死なせるわけにはいかないんだよ。おまえの世話と引き換えにおまえの家から莫大な金を支援してもらえる事になってんだからな」
(………うん。まあ。まあ。ね。事情は十分理解しているけど。何だろう。金かって。お金は大事だよ。研究費はどんどん削られているからね。支援金は喉から手が出るほどほしいよね。うん。分かる。分かるんだけど。あれ? 何だろう。なんか。悲しくなってきた。寂しくなってきた。うっ。やばい。涙が。やばいやばいやばい)
「ふぇ。ふっ。ん。んにゃ。にゃ。ば………あ゛~~~!!!」
「えええええ~。そんなに食べるの嫌だったのか? ああ。ほらほら。分かった。今は食べなくていいからな~。また今度にしようなあ~」
「あ゛~~~あ゛~~~!!!」
「ほらほら。そんな全身真っ赤にしないでいいんだぞ~。全身震わせなくていいんだぞ~。あばばばばばぶぶ~~~」
「あ゛~~~あ゛~~~!!!」
「あああ。ほら。そんなに感情を爆発させたら身体も爆発しちまうぞ~~~」
「あ゛~~~あ゛~~~!!!」
「っやば。あああしょうがない強制的に眠らせ。いや。ちょ。待、間に合わな、」
「あ゛~~~あ゛~~~」
「貴さんっ!!!」
「潤っ!!!」
阿可流はこの時の事はほとんど覚えていなかったが、増大し続ける魔力が放出されずに肉体に溜まり続けては爆発するという危機的状況だったところに、頭から二本の角を生やす男性の姿の潤が駆けつけて来ては片目に装着する眼帯を外し、その眼帯に隠された二つある目で阿可流の魔力を吸い取ったらしい。
潤は今世では三つ目の竜人であった。
同性同士の恋愛が禁止されていて、なおかつ、人外と人間の恋愛も禁止されているという今世の中で、潤と貴はお互いに気持ちを封じ込めているらしい。
(………はあ。まあ。いいわ。私を利用して、二人で居られる時間を作りなさい)
「おまえがいると、阿可流も頑張って食べてくれるから。一緒にいてくれないか?」
「はい。ですが。僕の姿を見ても怖がらないなんて。将来が不安ですね」
「何を言っている。おまえが素敵なやつだと見抜いているんだ。将来楽しみでしかないだろう」
「………素敵なやつ、ですか。ふふ。ありがとうございます」
「礼を、言われる事は、」
(あ~~~。はいはい。ごちそうさま~~~)
「げふぅえっ」
「………前言撤回するかな。こんな下品なげっぷを出すなんて将来不安でしかないな」
「元気な証拠ですよ。僕も前言撤回します。阿可流ちゃんの将来が楽しみになりました」
「なら、せめて阿可流が成人するまでは、ハウスキーパーを続けて、くれないか?」
「阿可流ちゃんが、成人するまで、ですか?」
「ああいや。その。なあ?」
(っう。供給量が多すぎて吐きそう。でも。我慢………よし。耐えた。私。よくやった。はあ。まったく。しょうがないわね。二人のラブラブを見守るのが私の役割………いえ。早く解放してほしいわ。いつまで私は世話役をすればいいのよ。もはや、呪いよ。呪い。成長したらこの呪いを解く為に色々調べよう。魔力が桁違いに高いらしいし。どうにかできそうかも。ふふ。あんたたちに付き合うのは今世までだからねっ。だから、今世でもラブラブしなさいよねっ!)
「クローバーで花冠を作ったんです。一つは阿可流ちゃんに。もう一つは。あの。貴さんに。どうぞ」
「………ああ」
「綺麗です。とても、」
「阿可流が。だろ」
「阿可流ちゃんも、貴さんも。です」
(耐えろ。耐えるのよ。私っ!!!)
(2025.5.9)
クローバーの花冠は今世まで 藤泉都理 @fujitori
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