しあわせになりたい
夜賀千速
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予測変換からきみの名前が消えて、あぁどこかでしあわせになったのかなって爪を噛んだ。擦った瞼から汚れたラメがこぼれ落ちて、もう十五歳じゃないんだと思った。わたし、ミニスカートをはくようになったよ。わたし、前髪を薄くするようになった。もうきみは過去になったんだね、過去になって春が来て、綺麗に夏が来たみたい。このまま綺麗に秋になるかな、去年の夏は暑かったからね、そんなに綺麗にはいかないかな。
充電6%の携帯を放り投げて、埃をかぶったノートパソコンを開く。マウスが上手く動かなくてしばらくカチカチやって、やっとのことでWordを立ち上げる。白い画面が眩しくて光度を下げて、くらっとしてしにたくなる。貧血の身体と暗い部屋がそれっぽくてふっと笑う。それっぽいエモとか死んでくれ、夜はまだまだ長いよ。
書く言葉が、降ってくる言葉が、止まないような人生。恵まれているのかもしれない。不幸は言葉を紡ぐ行為において、きらきらのサファイアになるよ。
きれいなことばをうみだせない
新学期の自己紹介は音楽が好きですって、趣味はカフェ巡りですって濁して。カフェに行くお金なんてこれっぽっちもないのに、しあわせに生きているふりをする。小説なんて書いてないよ、そんなもの書いてる気がしないんだから。読書も嫌いです。物語とかないし語れるものもないししあわせになれないし、並び立てた気持ちのわるい文章、ただの文字の羅列だよって、舌打ちした夜に書き殴る1465字のショートショート、それは祈りに近いもの。
しあわせになるために生きたい。課題が終わらなくてしにたいって思うのも偏頭痛がなおらなくてしにたいって思うのも、しにたくてしにたいのも、どうすればいいのかわからなくて、全部かわいい誰かに恨まれればいいんだ。あーめんへらでごめんなさい。
すぐ消しちゃうんだ、ばらばらで痛い文章とか。すぐしにたいって思っちゃうのにすぐ愛したりとかしちゃうんだ、ずっとひとりで生きているからかな。そうやって過ごす夜、きみは元気ですか、桜はとうに散ってしまったね。
いつでもきみをさがしている
いつでもきみの言葉をなぞっている
いつでもきみを救いたがっている
きみの傷を癒すだれかになりたかった
なれるはずないのにね
しにたい人に見せるべきなのはありきたりな言葉とか届くはずのない救いの手とかじゃなくて、ただただ綺麗な世界なんじゃないかって、最近思うようになったよ。わたしもしにたい人のなかの一人なのに、そんなこと、ごめんなさい。
取り戻すことのないものに、取り戻せないはずのものに、届かない場所から恋をしている。そういう言葉とそういう人生、そういうわたし。
そういうことを、そういうふうに書いていく。
大人になりかけた自分を、いらない自分を、留めるために書いていく。
非現実的なストーリーを書く、なかったはずの青春を書く、なんにもないような人生を美しく書く、愛する人の声を書く、揺れ動いた世界を書く、昨日の空の夕凪を書く。
苦しいから書く、頭が痛いから書く、さよならの温度が切ないから書く、消えたいから書く、だから書く。
泣きそうだね、自分。泣きそうだね、世界。ありえない、ありえない。それでもわたしは生きている、なんにもないこの世界に、だから、今は、それでいいの。
。
。
。
いつまでもきみを書いている。きみの横顔を、きみの仕草を、万年筆でもシャーペンでもない、旧型のWindowsで書いている。しあわせになりたかった、しあわせになれなかった、それでもきみを反芻する。
しあわせになるための文章を、いや、小説を書いている。
しあわせになりたい 夜賀千速 @ChihayaYoruga39
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