遠い日の思い出
とろり。
遠い日の思い出
子どもの頃、夏休みに母方の実家の近くに公園があって、よく
その公園には巨人がいたんだ。過去形にしたけど、伝説の巨人像はまだそこにある。
公園に着くとその巨人像を上るのだ。中に入れるようになっていて、夏だけど少し涼しかった。階段は子どもの僕たちにでも登りやすく段差が低い。この時、僕たち特に僕は年上だから年下の従兄弟に合わせて登った。途中、巨人の背中側から抜けることができるのだが、僕たちはてっぺんを目指した。
てっぺんってほどてっぺんではなかった。だいたい3分の2くらいの高さ。巨人の頭上には階段は繋がっていない。その3分の2くらいの高さにちょこんと身を乗り出せるくらいのスペースがあって、僕たちはそこから地上を眺めていた。
祖父が下で煙草を吸って待っていた。煙草が好きな祖父だった。その印象が今も記憶に残っている。
「降りようか」
「そうだね、みつ
僕たちは登りよりゆっくりと階段を降りた。1階に着くとでっかい手がある。だいたい2メートルぐらいだろう。祖父のところに行く前に僕たちはそこに寝転んだ。その手は冷え症で冷たかった。巨人の手の模型だから。
巨人の手で寝転んでいると、祖父がやってきた。しかし何も言わない。優しい目で僕たちを見守っていた。
寝転び飽きた僕たちは広場に向かった。ボール遊びだ。蹴ったり投げたりして遊んだ。従兄弟がずっこけて泣くと僕は水飲み場まで連れて行き、擦りむいた傷を水で洗い流してやった。傷口に染みて余計に泣き声を荒げる。祖父も心配そうに、けれど煙草をくわえベンチを立たなかった。
従兄弟の泣き声が治まるまで自動販売機で買ったジュースを二人して飲んでいた。
「美味しいね、みつ
「だいちゃん、もう痛くない?」
「こんなのへっちゃらだよ」
だいちゃんは笑った。
ボール遊びの続きをした。僕の蹴ったボールはだいちゃんの頭の上を越え、巨人の足跡に落ちた。巨人の足跡をかたどった池には鯉が優雅に泳いでいたが、いきなり落ちたボールに一斉に散らばった。
「どうしよ、みつ
「木の棒持ってくる」
幸い、木々の多い公園だから枝がいくらか落ちていた。
僕が長い木の棒を探して戻ったころにはだいちゃんがボールを拾い上げていた。
「ボール、取れたの?」
「ボールが勝手に端の方まで来た」
僕は木の棒を放り投げ、またボール遊びの続きをした。
暑いから午前中だけ、そう祖母は僕たちに注意していた。だから僕たちはお昼の鐘が鳴ると少し残念に思いながらもボール遊びを諦めて帰ることにした。
帰り道は僕と祖父そしてだいちゃん、三人並んで帰った。田圃道を抜け松の木畑を抜ける近道。夏の日差しによく似合う麦わら帽子のだいちゃん。時折吹く風に麦わら帽子を両手で押さえる。とても、とても、僕は夏を感じていた。
近道ルートには個人商店があって、僕たちは祖父にアイスクリームをおねだりした。「それぞれ1個だけ」とお駄賃を貰いアイスの冷凍庫をガラス越しに見る。
「だいちゃん、どれにする?」
「僕はバニラアイスクリーム!」
「じゃ僕も同じのにしよ」
二人、同じアイスクリームを買い、食べながら帰るのであった。
家に戻ると僕のお母さんとだいちゃんのお母さんが仕事を終えて、僕たちを迎えに来ていた。僕はだいちゃんにまた遊ぶ約束をした。先にだいちゃんはお母さんの車に乗り、帰っていった。帰り際、僕はだいちゃんに大きく手を振り続けた。車が小さくなり見えなくなるまで僕は手を振り続けた。
僕もお母さんの車に乗ると母方の実家を後にした。祖父母もやはり僕が見えなくなるまで手を振ってくれた。それが僕たちにとって当たり前だった。
その時はこの当たり前の時間がずっと続くと思っていた……。
遠い、遠い、僕の思い出……。
遠い日の思い出 とろり。 @towanosakura
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