タイトル通り遠い夏の日を回想したエッセイである。
カクヨムは異世界ファンタジーやホラーが人気だが、エッセイも逸品が多く、中でも本作は強い印象に残った。
「僕」はいとこのだいちゃんと公園に行く。
祖父が付き添う。
二人は公園で遊び、祖父は煙草を吸いながらそれを見守る。
ただそれだけの話が胸に迫る。
文章に気品と緊張感がある。
語られる内容は穏やかだが、文章に静かな緊張感があるから読者の背筋が自然に伸びる。
妙な感想だが、これと同じ文体でホラーを書いたら相当こわいと思う。
公園の遊具の巨人で遊ぶ場面がよかった。
巨人の内部が涼しかったり、寝転がったてのひらが冷たかったりする場面に郷愁を感じた。
こういう夏の涼味は、今では味わえないと思う。
本作の主調低音は「喪失感」であろうか。最後の
「この当たり前の時間がずっと続くと思っていた」
に、喪失の痛みがあらわれている。
ともかく名文です。
ぜひご一読をおすすめします。