第10話 シェアハウスよ、永遠に。

 それからのことは、正直言って、よく覚えていません。

その後は、大騒ぎの大宴会になりました。

結城さんと如月さんが、お酒を飲んで、酔っぱらって、私たちをからかいます。

「おい、何で、お前、紋付き袴なんて着てんだ?」

「そうよ、いつもの虎の半纏はどうしたのよ?」

「めでたい婚儀の場は、紋付き袴に決まっておろうが」

「お前、いつの時代なんだよ。バカだな」

「そうよ、格好なんて、どうでもいいじゃない」

 今の錠之助さんの姿は、黒い紋付き袴の武士の正装の姿をしていた。

いつもの虎模様の法被姿ではない。見慣れない着飾った衣装に、私もおかしくなりました。

「それより、めでたいことには変わりない。わしは、錠之助を見直したぞ」

「なにを言ってんだ。さっきまで、男を紹介してやるとか言ってたくせに」

 結城さんに言われて、大笑いするヘルさんと地獄さんです。

「あたしは、錠之助を見直したよ。やっぱり、アンタは、男の中の男だね」

「これこれ、ドロンジョ、あまり褒めるでない」

 ヘルさんに言われてもちっとも悪気かないドロンジョさんです。

「それより、式は、どうするのよ?」

「式って、結婚式か?」

「そうよ。決まったんなら、早い方がいいでしょ」

「そうだな。気が変わらないうちに、挙げたほうがいいかもしれんな」

「仲人はどうする?」

「わしがやろうか」

「アンタ、結婚してないだろ」

「あたしがいるでしょ」

「お前は、ただの愛人だろうが」

「それじゃ、誰がいるの?」

「おい、チビネコ、お前の親がいるだろ。話を付けろ」

「うん、お父さんもお母さんも喜ぶよ」

 そう言うと、ニャンギラスくんは、外に飛び出していきました。

「よし、次は、参列者だ」

「挨拶は、わしに任せろ」

「乾杯は、俺がやる」

「待て待て、皆の衆、落ち着け。わしらだけが盛り上がってどうする。

めでたい大家さんの結婚式だぞ。ここで世話になった者たちが大勢いるはずじゃ。

そやつらにも連絡して、来るように言うんじゃ」

「それじゃ、あたしは、妖怪横丁のみんなに教えてくる」

「宇宙警察を上げて、盛り上げてやるからな」

「悪魔や海底人、地底人たちにも連絡した方がいいな」

「こりゃ、忙しくなるぞ」

 私と錠之助さんは、すっかり蚊帳の外で、お客様たちだけで話がどんどん進んでいく。

「あの、皆さん、お気持ちはわかりますけど、そんなに大事にしなくても・・・」

 私は、なるべく落ち着いた声で言うと、即座に地獄さんに叱られました。

「なにを言うか。大家さんと錠之助のめでたい門出を、祝ってどこが悪い。

むしろ、黙って見ているだけなど、出来るわけがなかろう」

「そうよ。これからも、ここに来るんだから、何も知りませんでしたなんて言ったら、もう、ここに来れないじゃない」

 如月さんが呆れたように言いました。

「おぅ、俺だ。宇宙警察の結城だ。あのな、お前に話がある。えっ? 宇宙会議が始まるから、忙しい? ふざけんな、そんなの後回しだ。よく聞け。大家と錠之助が・・・」

「もしもし、砂かけか、しばらくだな。地獄大使じゃ。実はな、めでたい話があってな・・・」

「久しぶり、怪子ちゃん、元気。ハニーだけど、ついに、沙織ちゃんがジョーさんと結婚するのよ。それでさ・・・」

「虎おじちゃん、お姉ちゃん、お父さんとお母さんが、仲人してくれるって」

 私たちのことなどお構いなしに、話がどんどん進んでいきます。

私も錠之助さんも、口を挟む余地がありません。

私たちは、二人で顔を合わせて、それを聞いていることしかできませんでした。

「沙織殿、なんか、すごいことになってきたでござるな」

「どうしよう錠之助さん、私、心配なんだけど」

「大丈夫でござる。拙者がそばについているでござる」

「でもさ、なんだか、話がどんどん大きくなってきてるような気がするんだけど」

 そんなこんなで、話は、張本人たちを置いてけぼりにして、勝手に進みだしたのでした。


 それから、数日後。ホントに、私たちの結婚式が、このシェアハウスで執り行われました。仲人は、ニャンギラスさんご夫婦が勤めてくれます。

妖怪横丁の皆さんたちが私のために縫ってくれた、白無垢の花嫁衣装を着て、

錠之助さんも紋付き袴姿です。こんな時でも、背中の刀は離さないでいるのがおかしい。

 シェアハウスの前には、巨大な献花や花が大量に並んでいました。

ただし、地球上の私が知ってる花ではなくて、宇宙や地底王国など、見たこともない花ばかりです。

花輪は、宇宙警察、地獄界、悪魔界、天上界、地底王国、海底世界、魔法界などなど

私が知らない世界から、大量に送られてきました。

 庭に並んだテーブルには、これまた、見たこともない料理がズラッと並んでいます。地獄さんが呼んだ、黒子人さんたちが、忙しく立ち回って、すべてがセッティングされました。

 正面には、私たちの席が用意されています。でも、出席者があまりにも多すぎて、席が足りずみんな立ったままで、押し合いへし合いの状況です。

 挨拶は、宇宙警察から、最高長官のドックポリスさん。地獄界からは、エンマ大王の名代で雪女さん。怪物ランドからは、新たに大王に就任した、怪物大王さん。そして怪物大王と結婚した怪子さん。魔法界からは、新女王のメグさん。妖怪横丁の妖怪さんたち、宇宙からは、ベガさん、バルさん、メロトンさん

ダックルさんなど、宇宙人の皆さんたちが大挙してやってきました。

もちろん、この場をセッティングしてくれた結城さん、ドクターヘルさん、地獄大使さん、如月さんも来ています。

「沙織さん、きれいですよ」

 衣装やメイクをしてくれたのは、カッパの奥さんと仲人のニャンギラスさんの奥さまです。

「なにからなにまで、ありがとうございます」

「あたしも大家さんの結婚式をお手伝いで来て、うれしいケロ」

「今日の主役は、大家さんなんだから、気にしないでください」

 二人に慰められて恐縮です。それに、感謝の気持ちで一杯でした。

そこに、怪子さんが勢いよくドアを開けて入ってきました。

「怪子さん!」

 私は、驚いて顔を上げると、そこには、ものすごく豪華な衣装を着た怪子さんが立っていました。そして、私の前に歩み寄ると、厳しい顔で言いました。

「沙織、絶対、幸せになるのよ。それと、錠之助さまを離しちゃダメだからね。わかったわね」

「うん、ありがとう、怪子さん」

「いい、約束よ」

「ハイ」

 それだけ言うと、怪子さんは、振り向いて部屋を出て行きます。

「怪子お嬢様、こんなとこに・・・ もう、時間でザマス」

「姫様、席に着くでガンス」

「わかってるわよ」

 怪子さんを探しに来た、ドラキュラさんとオオカミ男さんがやってきました。

怪子さんは、二人に連れられて、部屋から連行されていきます。

その時、一瞬、足が止まり、背中越しで怪子さんが言いました。

「沙織、おめでとう。きれいよ。あたしの次だけどね」

 そう言ってドアを閉めました。怪子さんらしいなと、つい頬が緩んでしまいます。

「さて、私たちは、先に行ってるわね。ウチの子が、呼びに来るまで、少し休んでいてね」

「ハイ」

 ニャンギラスさんの奥様に言われて、私は、肩の力を抜きます。

「緊張しなくても、大丈夫ケロ」

「ハイ、ありがとうございます」

 カッパの奥さんに言われて、私は、笑顔で返しました。

一人になると、やっぱり緊張します。鏡に映る自分の姿を見て、正直言って、別人に見えました。

着ている花嫁衣装が、まるで幸せを纏っているように感じました。

「ハァ・・・ ドキドキするなぁ」

 独り言のように呟くと、ドアが開きました。

そこに、紋付き袴姿の正装した、錠之助さんがいました。

「錠之助さん、いよいよですね」

 私は、緊張を隠しながら微笑みました。

「錠之助さん?」

 なぜか、そこに硬直したまま動かない錠之助さんを見ました。

「沙織殿、美しいでござる。拙者には、もったいないでござる」

「錠之助さんも素敵ですよ」

 緊張でガチガチの錠之助さんを見て、私の緊張の糸がほぐれました。

私より、錠之助さんのが緊張しているのが、見てわかりました。

「お待たせしました。お姉ちゃん、時間です。あっ、虎おじちゃんも、皆さん待ってますよ」

 迎えに来たニャンギラスくんが言いました。

「それじゃ、行きましょうか」

 私は、ゆっくり立ち上がります。錠之助さんが、すかさず私の手を取りました。

「お二人とも、とてもきれいです」

「ありがとう」

 今日のために、ニャンギラスくんも子供用のスーツを着ていました。

私たちは、二人で玄関から外に出ます。

「皆さん、お待たせしました。新郎新婦の入場です」

 ニャンギラスくんに紹介されて、私たちは、並んで外に出ました。

すると、盛大な拍手が私たちを迎えました。

「大家さん、きれいですぞ」

「ジョーさん、素敵よ」

「沙織ちゃん、最高よ」

 あちこちから声がかかります。私たちは、軽く会釈しながら、ニャンギラスくんに案内されて正面の席に座りました。

両隣には、仲人役をしてくれる、ニャンギラスさんご夫婦が揃っていました。

「それでは、これより、虎錠之助くんと月本沙織さんの結婚式、並びに披露宴を始めます。たくさんのご来賓、二人に成り代わり、仲人として、お礼申し上げます。

申し遅れました。私たちは、仲人役を仰せつかった、ニャンギラスでございます。

それでは、皆さん、本日は、二人の門出を大いに祝ってあげてください」

 そう言うと、ものすごい歓声と拍手が起きました。

さらに、花火が上がりました。でも、私が知っているような打ち上げ花火ではありません。

地獄界や悪魔界の皆さんたちが打ち上げた、この世の終わりのような、ものすごい花火でした。こんなの上げたら、大騒ぎになりそうです。

「それでは、まずは、わしから挨拶を。この二人は・・・」

「悪の大幹部が、祝辞なんてするな」

「やかましい。わしの挨拶を黙って聞け」

 元・秘密結社の大幹部のドクターヘルさんと宇宙刑事の結城さんのケンカが始まりました。

「それじゃ、あたしが一言。沙織さん、ジョーさん、結婚おめでとう」

「ちょっと、あたしが先よ」

「なによ、割り込まないでよ」

 如月さんがスピーチしようとするのを怪子さんが割り込みます。

「錠之助さま、私よりもその人間を選んだんですね」

「そこの怪物女、水を差すでない」

「うるさい、妖怪ばばあ!」

「なんじゃと」

 今度は、怪子さんと砂かけさんの口ゲンカが始まりました。

「とにかく、めでたい。これから、二人で幸せになるんだぞ」

 地獄さんが私たちに優しく語りかけてくれました。

「ホントによかった。宇宙警察を代表して、二人に乾杯」

 宇宙警察のたぶん、一番偉いだろう、ドックポリスさんが祝ってくれました。

「我々の星では、有名になりますな」

 何度もシェアハウスを利用してくれる、ダックス星人さんがうれしそうに言いました。

それにしても、こんなにたくさんの人に祝ってくれるなんて、夢を見ているようでした。隣の錠之助さんは、ずっと緊張しっ放しで、一言も話しません。

 すると、玄関の外から、一際大きな歓声が上がりました。

見ると、やってきたのは、私の知らない男性が数人やってきました。

その中から、知った顔の人が、私たちの前にやってきました。

「沙織さん、錠之助、結婚おめでとう。ここにいるのは、私の兄弟たちだ」

 それは、諸星さんでした。相変らず、ホッとさせてくれる笑顔が印象的な人でした。その横には、癒しの怪獣、アギラさんが花束を抱えて立っていました。

そして、黒いスーツに胸になんか知らない文字がプリントされている男の人たちが笑顔で言いました。

「おめでとうございます。初めまして、早田です」

「郷です」

「北斗です」

「東光太郎です」

 そう言われても、全然知らない人たちです。

すると、横にいる、ニャンギラスさんがそっと教えてくれました。

「この人たちは、ウルトラ兄弟ですよ。宇宙警備隊の人たちです」

 私は、それを聞いて、心臓が飛び出すかと思いました。

恐縮するやら、緊張するやら、顔が゛引きつってきます。

そんなすごい人たちまでがやってくるなんて、私は、言葉を失います。

その横の錠之助さんは、片目を見開いたまま固まっています。

 さらに、人をかき分けてやってきたのは、あのギルさんでした。

「タイガージョー、まさか、お前さんが結婚するとは、思わなかった。

なんにしても、めでたいことだ。大家さん、この男のこと、絶対に離してはいかんぞ」

「ハイ、ありがとうございます」

 私は、ギルさんにお礼を言いながら、ある人を探していました。ハカイダーさんです。この席で、錠之助さんと勝負とか言い出したら、せっかくの指揮が台無しです。

「大家さん、安心しなされ。こんなめでたい席に、無粋なハカイダーは、連れてきてはおらん」

 それを聞いて、心の底からホッとしました。

「その代わりに、きれい処を連れてきた」

 そう言って、紹介したのは、きれいな女性でした。見た目は、人間の女性で、私よりも年上の感じです。

「初めまして、今日は、ホントにおめでとうございます。私は、マリです」

「ありがとうございます」

 私は、ホッとしながら挨拶しました。

「沙織殿、マリ殿は、人造人間でござるよ」

 錠之助さんに言われて、腑に落ちました。あのギルさんが連れてくるのだから、普通の人間の訳がない。

「マリ殿、ありがとうござる」

「なにを言ってるのよ。タイガージョーが、結婚するなんて、ビックリしたわよ」

 そう言って、笑う顔には、可愛いえくぼが見えます。

「もしかして、知り合い?」

「昔、彼女と勝負したことあるでござる。マリ殿の正体は、ビジンダーという人造人間で、怒らせると怖い女でござるよ」

 錠之助さんがいうなら、ホントなんだろう。

「ちょっと、退いて退いて」

 女性の声がして顔を向けると、大きな花束を持ってやってきたのは、セーラー戦士の愛野さんでした。

「沙織ちゃん、おめでとう。すごくきれいよ。錠之助さんも、おめでとう。話をしたら、来たいっていうから、連れてきた」

 そう言って、紹介してくれたのは、白いタキシード姿のアイマスクにシルクハットを被った紳士と白いドレスに金の王冠を付けたきれいな女性でした。

「初めまして、シルバーミレニアムのプリンス・エンディミオンです」

「クイーンセレニティです」

 もう、誰が誰だかわからない。来る人すべてが、キラキラ輝いて見えました。

「うさぎ、そんな紹介しても、わからないでしょ。ビックリしてるじゃない」

「あっ、そっか。ごめんね。あたし、地球では、高校二年の月野うさぎっていうの。美奈子ちゃんと同級生よ」

「こら、うさ子。キミは、女王なんだから、そんな話し方はしない」

「いいじゃない。まもちゃん」

「まもちゃんはやめろ」

 えっと、この二人の関係は・・・ それに、彼女の肩に乗ってる黒猫が、人の言葉を話してる。

「この子は、ルナって言うの。ぼくは、アルテミス。前に会ったことあるよね」

 愛野さんの両肩に乗っている、白猫さんとは会ったことがある。

人の言葉を話す白猫だ。でも、黒い猫も言葉を話してるってことは、同じなのね。

 それにしてもすごすぎる参加者です。正義の味方と宇宙警察と悪の首領や妖怪に宇宙人、悪魔に魔法使いなど、一堂に集まるなんて、夢にも思わなかった。

それなのに、みんな和気あいあいと楽しそうに話をしているのが、不思議で仕方がない。

その中で、ただ一人、普通の人間の女の私は、どうしたらいいのか、まったくわかりませんでした。


 その後、お色直しで、今度は、ドレスに着替えて、錠之助さんは、いつもの虎模様の法被姿になって出席してくれる皆さんたち、一人一人に挨拶します。

「沙織、きれいよ」

「タイガージョー、嫁さんを大事にしろよ」

「大家さん、ホントにきれいだな」

「錠之助、お前は、幸せ者だな」

「チュチュ~ン、おいらは、ホントにうれしいチュン」

 なぜか、モグラさんが私たちよりも号泣している。

挨拶する人たちからうれしい言葉を聞いて、私は、終始笑顔で返しました。

「虎おじちゃん、お姉ちゃん、おめでとう」

「ありがとね、ニャンギラスくん」

「ぼく、決めました。虎おじちゃんの弟子になる。お師匠様、お願いします」

 突然、ニャンギラスくんがそう言って、ペコリと頭を下げました。

私は、ビックリして、横にいる錠之助さんを見ました。

すると、錠之助さんは、小さなニャンギラスくんの頭を優しく撫でながら言いました。

「拙者は、弟子は取るつもりはないでござる」

「えっ!」

「すまんが、お主を弟子には取らん」

「そんな・・・ ぼくは、虎おじちゃんの弟子になって、強くなりたいんです」

 すがるような目で見つめるニャンギラスくんに、結城さんが言いました。

「おい、チビネコ。錠之助なんかやめて、俺の弟子になれ。俺のが強いぞ」

「やだ、ぼくは、虎おじちゃんの弟子になるんだ」

 そう言って、ニャンギラスくんは、結城さんを睨みつけます。

「いっちょまえに、いい目してるじゃん」

 結城さんもニャンギラスくんを上から見下ろします。

「その男はやめとけ。宇宙刑事の弟子などなる必要はないでござる」

「なんだと」

 錠之助さんの一言で、結城さんの目が厳しくなります。

この場で、ケンカなんてやめてほしい。私は、心配になりました。

 すると、錠之助さんは、一転して優しい口調で言いました。

「よく聞け。お主は、まだ子供でござる。父上の元で、修行をして、大きくなったら、また、来るがいい。その時は、弟子にしてもいいでござる」

「ホントに!」

 しょんぼりしていたニャンギラスくんが、途端に笑顔になりました。

「よいか、父上の言うことを聞いて、修行の励むでござるよ」

「ハイ、お師匠様」

 嬉しそうなニャンギラスくんは、喜んで両親の元に飛んで行きました。

「なにが、お師匠様だ。偉そうなことを言うな」

「結城もおちおちしていられんぞ。今は子供だが、成長したら、強くなっているはずでござる」

「そうかもしれないな。何しろ、親父が、ニャンギラスだもんな」

 結城さんは、そう言って、両親にうれしい報告をしているニャンギラスくんを見ていました。

「お~い、飲んでるかぁ・・・」

「こら、子泣き。貴様は、飲み過ぎじゃ。いい加減にせんか」

「だって、めでたいんじゃ。よいではないか。堅いこと言うな」

「やかましい。お前は、主役じゃないんじゃ。邪魔をするでない」

 砂かけさんが、子泣きのおじいさんを摘まみ出します。

「すまんな、あいつなりに喜んでおるんじゃ」

「とんでもありません。ありがとうございます」

 私は、心から言いました。

百鬼夜行の妖怪の皆さんたちはもちろん、モグラさん、人魚さん、カッパさん、如月さんや怪子さん、宇宙人の皆さんたちから、謎のアンドロイドの皆さんたちに囲まれて、最高の結婚式になりました。

私は、世界一・・・宇宙一の幸せな花嫁です。今日のこの日のことは、一生忘れることはありません。

 最後に、私が投げたブーケを先を争って受け取ろうと集まる人たちを見て、笑いをこらえることができませんでした。

「それじゃ、新郎新婦の誓いのキスとやらをやってもらおうじゃないか」

「いいわね。ほらほら、二人とも、前に出て」

 結城さんの一言に、如月さんが合わせて、周りに囃し立てられました。

「ちょ、ちょっと、こんなとこで・・・」

「なにを言っておるか。結婚式と言えば、誓いのキスであろうが」

 地獄さんに言われて、私と錠之助さんは、前に引き出されました。

「錠之助さま、私は、見ないことにします」

 怪子さんは、そう言いながらも一番前にいます。

「チビネコ、カメラの用意はできてるな」

「ハイ、任せてください。お師匠様、お姉ちゃん、こっち向いてください」

 ニャンギラスくんに言われても、恥ずかしくてみんなの前でキスなんてできません。

「錠之助、新郎なんだから、ビシッと決めないと、武士じゃないですぞ」

 ギルさんとヘルさんに言われて、錠之助さんは、顔を真っ赤にしながら、私の肩を抱き寄せます。

「ちょ、錠之助さん・・・」

 私も顔が真っ赤になります。

「沙織殿、キスは、二度目でござるな。今度は、拙者からするでござるよ」

「えっ!」

 私は、その一言で、一瞬にして頭が真っ白になりました。

ニセのエンマ大王たちと戦って、傷ついた錠之助さんを寝かせたとき、自分でもわからずに思わず錠之助さんにキスをしてしまった。その時のことが、一瞬にして蘇りました。

 あのときのことを、錠之助さんは、やっぱり覚えていたんだ。

なんて恥ずかしいことをしたんだろう・・・ 女の私から、キスをするなんて、

そんなこと、自分からするなんて、今でも信じられませんでした。

忘れていてほしかった。知らずにいてほしかった。でも、錠之助さんは、覚えていた。それが、今は、とてもうれしい。

「沙織殿、拙者は、幸せ者でござる」

 私にしか聞こえないような小さな声で言うと、私の唇に自分の唇を合わせてきました。私は、目を閉じて、錠之助さんと二度目のキスをしました。

私の瞳から、一筋の涙が頬を伝いました。それは、うれし涙でした。


 アレから、三年の月日が経ちました。

私は、今も、錠之助さんと誰でもシェアハウスを続けています。

そして、私たちの間に、双子の子供が生まれました。

 男の子は、錠之進。女の子は、沙百合と名付けました。私たちの名前から、一文字ずつ取りました。

男の子の錠之進は、元気一杯で、父親の錠之助さんの真似をして、チャンバラに夢中です。

 女の子の沙百合は、オテンバ娘で私たちも振り回されています。

「二人とも、遊んでないで、少しは手伝って」

 私は、部屋の掃除をしながら庭で走り回っている二人に声をかけます。

「錠之進、沙百合、母上が呼んでおるでござるよ」

「ハ~イ」

 二人は、元気よく返事をすると、私の前に来ました。

「もうすぐ、お客様が来るから、二人は、お庭のお花にお水をあげてね」

「ハ~イ」

 二人は、元気に返事をすると、庭に降りて行きました。

そんな小さな子供たちを見て、私は、毎日、癒されています。

「沙織殿、今日の客人は、何人でござるか?」

 錠之助さんは、結婚した後も、私のこと『沙織殿』と呼びます。

妻になったから、呼び捨てでもいいと、何度も言っても、錠之助さんは直そうとしません。最近は、もう諦めて、好きなように呼んでもらうようにしました。

 私は、ノートを確認します。

「今日は、四組のお客様の予約ですよ」

「承知いたした。すぐに、部屋の用意をするでござる」

 そう言って、錠之助さんは、部屋の準備をするために、二階に上がって行きました。

庭を見ると、二人の子供たちは、花壇に水をかけながら、水遊びに夢中です。

「こら、ちゃんと、お仕事しなさい」

「母上、沙百合がいけないんでござる」

「違うわ、母さま、錠ちゃんが最初に水をかけるのよ」

「遊んでないで、ちゃんとしなさい」

 私は、笑顔で言いました。私に叱られた二人は、笑いながら花に水を上げ始めます。これが、幸せなんだなと、感じる瞬間でした。愛する旦那様と可愛い子供たちに囲まれて私は、幸せを感じました。

「おじいちゃん、おばあちゃん、お父さん、お母さん、私は、幸せです。今日も元気です」

 私の心のように澄み切った青空にそう呟いて感謝しました。

「すみません、こんにちは」

 その時、玄関から声がしました。

「ハ~イ」

 私は、急いでお客様を迎えに行きました。私は、元気良く、笑顔で今日もお客様に挨拶しました。

誰でもシェアハウスは、人間以外のお客様のための居場所です。

いつまでも、ここを大切にしていこうと思いました。

「ようこそ、いらっしゃいませ、誰でもシェアハウスへ」



                                 終わり




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誰でもシェアハウスの大家さん。 山本田口 @cmllaaa

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