情緒不安定な日々を超えて

Unknown

【本編】

 ※このエッセイには自傷の描写が含まれています。


 ◆


 実は最近は睡眠薬を飲んでも、かなり睡眠不足な日々が続いていた。


 5月4日の深夜、俺は理由も無く突発的に「死にたい」という感情に支配されてアパートで泣いていた。


 理由も無く突発的に訪れた死にたい気持ちが抑えられなくなった。俺はロングピースという紙タバコを吸っていたのだが、漠然とした死にたさで涙が止まらなくなり、鼻が急に詰まってタバコの味が分からなくなった。


 でも、しばらく泣いて落ち着いて、そのあとは久し振りにぐっすり眠れた。夜の1時30分あたりにベッドで眠りについて、正午の12時30分あたりに目が覚めた。こんなに眠ったのは久しぶりだ。


 起きたら、寝る前の強烈な死にたさはどこかに消えていて、良い意味でどうでもよくなっていた。


 睡眠不足は俺のメンタルや情緒を不安定にさせる。


 それを改めて実感した。


 俺は今、鬱症状は寛解していると医師に診断されている。でも時々、鬱の片鱗が顔を覗かせる。強烈な死にたさが頭を支配して、涙が出てくる。抗うつ薬は1種類だけ処方してもらっている。今の俺は躁病の治療と断酒に注力している。


 死にたいと思いつつも、日々を超える。


 この負の感情は大昔から染みついたものだから、きっと消えてくれない。


 孤独でどうしようもなくなり、死にたさに頭を支配されながら、俺はどうにか落としどころを見つけて、誤魔化しながら生きていくだろう。


 ◆


 ここ数年は全くやっていないが、俺はリストカットと根性焼きを頻繁にしていた時期がある。主にリストカットではなく根性焼きがメインだった。


 普通、タバコの火は灰皿で消すと思うが、今より遥かに病んでいた時期の俺は左腕に火を押し付けてタバコを消していた。


 精神的苦痛を肉体的苦痛が上回る事で、初めて気持ちが楽になれた。


 あとは薬のODもよくやっていたし、酒も尋常じゃないほど飲んでいた。


 とにかくそういうことをやらないと生きていけなかった。


 でも今は何もしていない。酒も辞めた。


 過去に自傷を沢山してきた。


 もう何年前の話だったのか、記憶は定かではないが、俺の情緒が不安定な時期が長く続いていて、実家にずっと引きこもっていた。ある日、母に向かって大泣きしながら「もう死にたい」と何度も言った。すると母も泣きながら一家心中を提案してきた。母もストレスが限界を超えていたのだろう。母も泣いていた。母は自分の頭を自分で殴った。


 あまり記憶は定かではないが、俺は瞬時に後悔と猛省をして泣きながら「心中は駄目だよ」と言った気がする。


 1番ショックだったのは、母に一家心中を提案させてしまうほど、俺が母を苦しめてしまったという事実だった。


「俺はお母さんになんて事を言わせてしまったのだろう」という自責の念が半端じゃなかった。


 ショックすぎて何年前だったのかは覚えていないが、あの日から俺の鬱症状は人生で最も重くなり、自傷の頻度も増えた。毎日、タバコの火を腕に押し付けた。火を押し付けると、痛い事は痛いのだが、決して耐えられない痛みではなかったし、なにより、精神的苦痛を肉体的苦痛が上回って緩和してくれたので一時的に楽になれた。俺は無意識のうちに何とか生き延びようとした。


 勘違いされがちだが、自傷は死ぬために行われるものではない。心の痛みや傷を超える痛みや傷を肉体に与えることで、生き延びようとしている。少なくとも俺の場合はそうだった。


 鬱が最もひどい時、俺はとにかく起きている間はずっと頭がぼーっとしていて、生きていても全く現実感が無く、まるで水中にいるような感覚で、体が重く、めまいや吐き気も毎日酷かった。倒れることもあった。そして、文字や人の発する言葉が一切頭に入ってこなかった。形や音として認識することはできるのだが「文字や言葉の意味」が一切脳に入ってこなくなった。だから1番鬱が重い時期、俺は1日中かけてやっとスマホに300文字以下の短い詩のような文を書いてカクヨムになんとか投稿していた。


 そんな、人生で1番重い鬱状態が何か月も続いた。


 鬱が1番重い時、目が覚めて5秒~10秒は頭がクリアというか普通の状態なのだが、そこから頭が重くぼーっとして、それは再び眠りに落ちる時までずっと続いた。


 その時期は「てんかん発作」もよく起こった。急に視界の真ん中に虹色の点が見えて、視界が黒く狭まって、俺は勢いよく倒れて意識を失って、全身の筋肉が硬直して、あとから全身が激しい筋肉痛になった。


 今はてんかん発作は何年も出ていない。てんかん発作は何年も起きていなければ医師の許可の元、車の運転が許される。俺の医師も「もう●●さんは車の運転をして平気ですよ」と言ったが、万が一運転中に発作が起きたらと思うと怖くて車には乗っていない。幸い、自宅の徒歩圏内に色んな店があるから、日常的な買い物は徒歩で済ませて、あとはネット通販に頼っている。Amazonには感謝する。


 鬱が治った今でも俺は時々、急激に死にたくなって、辛くなって1人で涙を流している。


 これはきっと鬱の後遺症のようなものだ。1度べったりと心に張り付いてしまった希死念慮はおそらく完全に剥がれて消えることは無い。そんな気がしてきた。


 これから先も俺は情緒不安定になって1人で泣くことが多々あるだろう。


 でも、死ぬという選択肢はない。俺はもう大丈夫だ。「病みの峠」はもう通り越した。1番辛い時期は多分終わった。もしかしたら、生きているうちに俺は今までに無い過去最強の鬱や精神疾患になるかもしれないから、断定はできないけれど、今のところの俺は、既に峠は通り過ぎたと思っている。


 この文を読んでくれてくれている人の中に、もしかしたら、過去の俺のように今が本当に辛くて仕方が無いという人も居るかもしれない。俺はそんな人になんて声を掛けたらいいのか。「いつかきっと今より良くなる」と言っても、信じてもらえない可能性の方が高いかもしれない。だって「今」が辛いんだから。


 ◆


 死にたくなるほど絶望的な気分の時は音楽も聴く気力も無いかもしれないが、病んでいる時に俺を支えてくれたバンドがいくつかあるので紹介する。


 ◆


 1つ目。今までも何度も書いているが、まずは「syrup16g」というバンド。全く聴いた事が無い人には、とりあえず初期の「copy」や「coup d'Etat」や「HELL-SEE」というアルバムをおすすめする。この3つのアルバムは特におすすめだ。この3つが気に入ったら、それ以降は発売順に聴いてみることをおすすめする。個人的には「coup d'Etat」がsyrup16gの中で1番好きなアルバムかな。聴いた回数は1番多い。落ち着いた雰囲気が好きならcopy、激しさや切迫感を求めるならcoup d'Etat、深夜に1人で眠れない時はHELL-SEEが良いかな。俺はそんな感じ。


 2つ目のバンドは「THE BACK HORN」というバンドだ。聴いたことが無い人には初期の「人間プログラム」「心臓オーケストラ」「イキルサイノウ」「ヘッドフォンチルドレン」という4つのアルバムを勧める。個人的には「イキルサイノウ」が1番好きかな。今年の1月24日~3月1日まで俺が精神科に入院している時は「イキルサイノウ」をとにかく聴きまくった。


 3つ目のバンドは「神聖かまってちゃん」だ。デビューアルバムの「友だちを殺してまで。」を最初に聴いてみて、気に入ったら「つまんね」「みんな死ね」「8月32日へ」「楽しいね」を順に聴いて、以降は発売順に聴くのがおすすめ。神聖かまってちゃんはアニメ進撃の巨人のエンディング曲やオープニング曲を担当したことがあるから、部分的に知っている人も多いと思う。


 4つ目のバンドは「それでも世界が続くなら」だ。メジャーデビューアルバムの「僕は君に武器を渡したい」が1番おすすめ。でも、インディーズ時代の「この世界を僕は許さない」や「彼女の歌はきっと死なない」もおすすめ。この3つを聴いてみて、良いなと思ったら、「もう君はいい人じゃなくていい」や「僕は透明になりたかった」もおすすめ。あとは「52Hzの鯨」も良い。それでも世界が続くならは専門学生の頃に知って、よく電車通学の時に聴いていた。これも辛い時期を支えてもらったバンドの1つだ。


 あと、5つ目。ハヌマーンってバンドもかなり良い。「World's System Kitchen」や「RE DISTORTION」というアルバムをおすすめする。俺も未だに時々聴いている。「REGRESSIVE ROCK」というアルバムもおすすめ。


 最近俺がエッセイによく書いている「山田亮一とアフターソウル」というバンドの、1番最初というか、山田亮一が1番最初に組んでいて有名になり始めたタイミングですぐ解散したバンドがハヌマーンだ。ハヌマーン時代の歌詞は、日陰者に寄り添う感じの歌詞が多い。生きている中で大衆に不満を感じていたり疎外感を感じている人にハヌマーンは超おすすめできる。


 こんなもんかなぁ。病んでいる時に特に俺が救われたバンドって。


 洋楽はあんまり聴かないから全く詳しくないけど、病んでいる人にはニルヴァーナはかなりおすすめできる。穏やかな感じが良いならレディオヘッドもおすすめ。ニルヴァーナは今のオルタナティブロックの源流・先駆者という感じ。レディオヘッドは正直そんなに聴いたことないが、子守歌みたいな優しい曲が多いイメージだ。


 そういえば、ニルヴァーナのTシャツを俺は今着ている。カクヨムの俺のページから俺のXに飛ぶことが出来るんだが、こないだXに俺が着てるニルヴァーナのシャツを載せた。イン・ユーテロというアルバムの、翼が生えた女性の人体模型みたいなジャケットのシャツです。ちなみにカラーは黒と赤。


 ニルヴァーナのフロントマンであるカート・コバーンは27歳の時に銃で自ら命を絶ったが、もし今も存命だったとしたら58歳。もし今もニルヴァーナが続いていたとしたら、俺はアメリカまで行ってライブを見に行ったと思う。そのくらい好きだ。


 いつの間にか俺は28歳になりカート・コバーンの年齢を超えていた。


 俺の中で27歳って、なんとなく特別な感じだった。ふとした時に、「ああ、カート・コバーンはこの歳で亡くなったのか」と思って暮らしていた。


 ちなみに俺が紹介した「syrup16g」「THE BACK HORN」「神聖かまってちゃん」「それでも世界が続くなら」はまだ活動中だ。「ハヌマーン」は解散したが、ハヌマーンのフロントマン・山田亮一は現在「山田亮一とアフターソウル」というバンドで活動中だ。6月にアフターソウルのライブを見に行くのを、個人的に楽しみにしている。


「普段は音楽をあまり聴かないけれど病んでいる」という人の参考に少しでもなれば良いなと思い、色んなバンドを紹介した。


 たかが音楽。されど音楽。病んでいる時の俺は病んでいる音楽に最も救われた。


 音楽の良さは、読書や漫画や映像作品と違って、脳があまり疲れない点だと思う。ただ音が流れているだけなので、音楽を聴くという行為は川を眺めているイメージに近い。


 俺は一時期は音楽から離れていたけど、最低限の元気があるときは毎日音楽は聴いている。


 世の中に数ある創作の中で、音楽は気力が無い時でも1番楽に受け取れる創作だと思う。


「ロックバンドが苦手」とか「そもそも人の声を聞きたくない」って人には、クラシックがおすすめだな。ピアノ音楽。


 個人的にクラシックで1番ダントツで好きな曲がある。クロード・ドビュッシーの「月の光」という曲だ。こんなに落ち着けるピアノ曲は世の中に「月の光」しかないんじゃないかな。切ない気分の真夜中に「月の光」を聴くとめちゃくちゃ落ち着けるから超おすすめだ。ヒーリング効果があると思う。


 あと、坂本龍一の「戦場のメリークリスマス」もめちゃくちゃ心が落ち着く。かなり名曲だと思う。


 あと、俺はジブリ映画の音楽をよく担当してる久石譲とか大好きだ。千と千尋の神隠しの「あの夏へ」っていう曲がめちゃくちゃ落ち着ける。


 俺はクラシックに詳しくないから、有名どころしか分からないのだが、ピアノの繊細な音色は心をとても落ち着かせてくれる。


 あと、病んでいる人は、外出が可能であれば自然と触れ合うのもおすすめだ。都会に住んでいて近くに自然が無い人は、ユーチューブなどで自然に触れ合うのも脳に対して良い効果を生むらしい。


 あと、俺が病んでいる時期に試したのは、お香だ。100均でお香立ての砂を買い、Amazonで人気の和風のお香セットを買ってみたのだが、まるでお寺の本堂みたいな匂いがして落ち着いた。フランスの紙のお香も試したけど、俺は個人的には日本の和のお香が良かった。


 あと俺は、瞑想は今も毎日してる。マインドフルネス瞑想というものを取り入れてみた。


 座禅を組み、目を閉じて「今この瞬間」のみに意識を集中して、苦しくなるくらい鼻から息を深く吸い、口からゆっくり息を吐き出す。これを15分くらい続けてみる。毎日やってみると習慣化されて、やがて「心が安寧になる時間」というものが生まれる。


 マインドフルネス瞑想は、比較的ハードルが低い。雑念があっても別に良い。雑念があるという自分を自覚することで、客観視できるからだ。


 ただ呼吸だけに集中できるようになると、瞑想は効果をより発揮する。


 不調な時は集中できなかったりするが、瞑想を通して不調を俯瞰的に自覚するのは大事なことだと思う。「あ、今日は不安が強いな」とか。


 ◆


 5月4日の日曜日の17時に集合して、姉と妹と俺の3人でメシを食いに行った。実は3人でメシを食いに行ったのは生まれて初めての事だった。決して仲が悪いわけではないけど、今までそういう機会を作ったことが無かった。


 とても楽しかった。みんな大人になったからこそ、こうやって集まれたのだと思う。


 3人でメシを食って、3時間くらいその店にいたのかな。ずっと笑って喋っていた。


 そのあと3人でコンビニ行って実家に帰って、父と母と姉と妹と俺と猫でしばらく過ごした。


 良い1日だった。


 そして今、妹のお腹の中には新しい命も宿っている。俺はちょっと前に母から妹の妊娠を知らされていたのだが、姉は知らなかった。店の中で妹がサプライズで姉にエコー写真を見せたところ、姉はテンションが上がって「おめでとー!」と笑っていた。


 実家で超久しぶりにみんなで家族写真を撮った。(猫含む)


 こんな機会、滅多にない。家族写真なんてガキの頃以来だ。


 うちの家族も今まで順風満帆というわけではなかった。今も、猫を除く家族5人全員が精神科や心療内科に通院しながら生きている。まぁ親と妹は睡眠薬を貰いに行ってるだけだが。姉と俺だけが精神疾患を持っている。体の病気を持っている家族もうちにはいる。みんなそれぞれ何かしらの問題は抱えている。だからみんなで支え合う事が出来たら良いと思う。


 妹が産む赤ちゃんの性別は一体どっちだろう。今から気になっている。


 ◆


 とりあえず俺は、毎日をやり過ごしている。時々死にたいと勝手に思ってしまう日もあるけど、なんだかんだでなんとかなる。


 姉と妹は俺が断酒している事をめっちゃ褒めてくれた。


 あとメシ食いに行ったとき、俺がトレイに水を3人分取りに行ったら、何故か妹が感動してて、笑いながら俺の写真を撮っていた。


 今日は月曜だが、ゴールデンウィークで赤い日だから仕事じゃない。だから暇だ。適当にユーチューブでも見て過ごす。


 在宅リモートの作業所で働くようになった事で「俺はニートじゃないんだぜ」と言えるようになったのが嬉しい。収入は少ないけど、どん底は脱したと思うし、更にここから一歩ずつ前進して、最終的には障害者雇用枠で一般企業で週5のフルタイムで勤めるのが目標である。


 やっぱり自分が国から精神障害者という認定をされて、手帳も年金も貰っているわけだし、高望みはせず、俺に出来ることを俺なりのペースでやって生きていけたらそれで良いんじゃないかと思う。


 酒だけを摂取し続けて家に引きこもって親を泣かせていた日々に比べたら、今の俺は飛躍を遂げた。1人暮らしを始めて3年目に入り仕事を始めて酒も完全に辞めた。やっと俺も変わり始めた。


 孤独死は出来たら避けたいので、40代とか50代に自分がなった時にパートナーやソウルメイト的な存在が隣に居てほしいなという気持ちも若干ある。


 20代・30代の若い時にどうこう、という気持ちは無い。俺もそれなりに自分を客観視した。まずは結婚は不可能・彼女もおそらく若いうちはできない。ただ、おっさんになった時に、自分と同年代くらいの人と仲良くなるのは可能なのではと思う。


 その頃にはきっと俺も情緒が安定しているはずだから。


 最近の俺は元気だから、晴れてる日は自然に触れつつウォーキングしたり、アパートの駐車場で縄跳びをよくしている。食事も出来るだけヘルシーなものに変え、軽くダイエットに勤しんでいる。


 そういえば、今度は姉と妹と俺の3人でカラオケに行こうという話になった。今から少し楽しみにしてる。






 終わり

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