第50話 刃が交わる
刹那——
望月の刀の鯉口が、微かに光った。
まるで光が弾けるような、ごくわずかな角度。
それは、誰もが見落とすような、ほんの瞬きの間の出来事だった。
しかし剛の目は、それを見逃さなかった。
反射ではない。条件反射でもない。
ただ、身体の奥にあった“それ”が動いた。
望月が抜いた。
同時に、剛も動いた。
鞘から刃が飛び出す音が、空気を裂いた。
キィィン……!
甲高い金属音が、空間を震わせた。
抜かれた二振りの刀が、真っ直ぐに交わる。
鋼と鋼が、互いの意思ごとぶつかり合った。
剛の視界に、望月の眼が映る。
その瞳の奥にあるのは、ためらいのない“終わらせる剣”の意志だった。
だが剛の剣もまた、揺るがなかった。
“終わらせない”ために、抜いた剣だった。
ガギィィン——!
鍔と鍔が噛み合った。
金属同士が軋み、鈍く低い音が響く。
鍔迫り合い。
どちらも引かず、押さず、ただ、刃が押し合っていた。
力ではない。速さでもない。
その場に“在る”という意志のぶつかり合い。
観客は、まるで時が止まったような感覚に包まれていた。
その場には、ただひとつ。
斬る者と、斬らぬ者。
ふたつの刃が交錯しながらも、なお“答え”を探していた。
勝たぬ強さ、斬らぬ剣 ―戦わずして至る境地― うなな @anao
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