埋まっている空席
こーいち
vacancy
私ね、映画鑑賞が趣味なんですよ。昨年なんか、40回くらい劇場へ足を運んでいたりするくらいには。
職場と家の丁度中間辺りに大きめのシネコンがあって、そこを“根城”としています。海外の大作からネットでも全然話題になっていないマニアックな作品まで、幅広く上映してくれているので、かなり有難いんですよね。
昼間は沢山観客がいて、マナーの悪い人も目立ちますが、レイトショーの時間帯は良識ある人ばかりです。まぁ、夜はそもそも全然お客さん入ってないですけど。
そんなわけで、邪魔される事なく楽しみたい私は、もっぱらレイトショーで映画を観ています。
2年ほど前のある日、私はややマイナーな作品を観るために件の劇場へ足を運んでいました。座席予約段階での観客は、私の他にもうひとり。最後列の真ん中が、既に予約されていました。
私のお気に入りの席は中央よりやや前に寄った辺りです。大体の人は後ろの方で観たがるので周りはいないし、視界いっぱいにスクリーンが広がるので、迫力ありますからね。
ただ、予告が始まっても、本編が始まっても、もう1人の観客は現れませんでした。
映画の内容は……絶賛する程では無いが、つまらなくも無い、そんな感じです。関係ない話ですが。
次の週、再び私は劇場に赴きました。お目当てはハリウッド大作の続編モノです。人気作品とはいえ、公開から4週後のレイトショーなので、殆ど見る人がはいませんでしたが。
席を予約していたのは、私と最後列真ん中のふたりのみでした。
──この日も、もうひとりの予約者は最後まで劇場に現れなかったのですが。
また次の週も、私は映画館にいました。あの頃は当たり前のように毎週行ってましたから。
座席表を見ると、やはり最後列にひとり客がいる事になっていましたが、最後まで空席のままです。
次の週も、その次の週も、私が観るスクリーンには謎の、埋まっている空席がありました。
あれから2年経ちましたが、今もあの映画館は夜になると埋まっている空席が現れます。
一度、劇場スタッフの方に訊いてみた事があるんですよ。「いつもあの席だけ埋まってますけど、使えない席だったりするのでしょうか?」と。
しかし、スタッフからは「特にそういった事情は無いので、単に誰かが予約されているだけかと」と言われてしまい、それ以上はわからず終いでした。
会員証がありますから、映画館側がその気になれば調べられるはずですが、単なる常連のひとりでしかない私がそれを要求する事はできません。
なので、空席の主の正体については、確かめる事ができませんでした。
ただ、最近は例の空席の主も考えが変わったらしく、前の方の列──私の定位置の近くに席を取るようになりました。
やっぱり、映画はでっかいスクリーンを目一杯に楽しみたいですからね。
昨日なんて、私の前後左右の4席が埋まってましたから。
映画の趣味は近いみたいですし、会って話でもしてみたいものですが、中々姿を見せてくれないんですよね。
埋まっている空席 こーいち @Booker1246
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます