正しい人たちの国で、間違えた

芹沢沙月、かつては一流企業のマーケターとして活躍していた。
「不安を煽り、買わせる」ことに長けた彼女は、社会の“仕組み”を熟知していた。
しかし、母の介護とともにその仕組みの外に落ちたとき、自分が「対象」ではなく「不要物」として扱われる側になる。

仕事を失い、住まいを失い、ネットで叩かれ、声を持つことすら許されない。
たどり着いたのは、生活のために体を売るしかない世界。
誰にも知られず、誰にも助けられず、それでも娘のような少女・リオと生きるために、必死に抗う。

「努力が足りない」「自己責任」「ルールは守れ」
それらの言葉を、かつて自分も使っていた。
でも、“正しさ”とは、誰のためのものなのか。

ある夜、沙月は一線を越える――生き延びるための、抵抗とも犯罪ともつかない行為を。
それは社会…続きを読む