【怪談実話】短編怪談『もうひとりの弟』

有野優樹

誰?

 筆者であるわたくし、有野の姉から聞かせてもらった体験談。


 姉は高校生の頃、不可思議な体験をよくしていたそうだ。


 とある日の夜中のこと。


 趣味であるネットサーフィンをしていたとき、背後で「キュー」っと自室の扉が開く音がした。部屋の扉は開閉時に「キュー」と独特な音がするので、扉を見ていなくとも開いたことがわかる。


 12時を過ぎている夜遅い時間帯に親が入ってくる事は考えにくく、姉と同様夜更かしをしていた僕が入ってきたのだと思い


 「何?」


 と言い振り返ったのだが、誰もいなかったという。


 そこにはまるで中の様子を伺っていったかのように、頭ひとつ分、扉が開いているという事実だけが残されていた。


 他にこんなこともあったそうだ。


 夜中にふと目が覚めたときのこと。


 なんと言っているのかは聞き取れなかったが、ものすごい勢いで喧嘩をしている声が聞こえてきた。どうやら女性同士のようだ。


 家の裏には大きなマンションがあるので、大声で子供を叱る声や犬の鳴き声が度々聞こえてくることはあったのだが、今聞こえてくる声はその距離感ではない。

 というよりもこの部屋、耳元で聞こえている。


 金縛りなどの不可思議な経験をよくしていた姉は、この現象に対し「んもうっ」とイラついた態度を見せると、ふっと声が止んだ。慣れていると多少のことでは動じなくなるらしい。


 そんな慣れている状態でも「あれは怖かった」と感じる経験を友達の家で体験してしまったという。


 ある日、学校が終わったあと近所のマンションに住むOさんの家に遊びに行ったときのこと。


 インターホンを鳴らすと元気よく「はーい!」と出迎えてくれた。いつもなら玄関を開けると小学校低学年のOさんの弟が足元に抱きついてくるのだが、今日は来ない。


 「ゲームとかあるからリビングで遊ぼ!でもちょっと片付けるから私の部屋で待ってて!」


 「わかった!」


 廊下とリビングの仕切りになっている扉は開け放たれているので、リビングの先にあるベランダが見えている。


 靴を脱ぎすぐ右側にある友達の部屋に入った。

 床に座り携帯をいじっているとしばらくして、リビングの方から「パタパタパタ」と軽い足音がこちらの部屋に向かってくるのが聞こえてきた。


 「あ、居たんだ」と思っていた矢先、扉から上半身を出し覗き込んできた。某アニメキャラクターが胸の前にプリントされている可愛らしいTシャツを着ている。


 「弟くん!わたしだよ!」


 と話しかけるも反応しない。

 玄関を開けるとすぐ足にしがみついてくるのにも関わらず今日は控えめだ。


 あ、もしかしたらマスクをしてるからわかってないのかも?


 マスクを外し「ほら!わたしだよ!」と言ってみるが、知らん顔をしてリビングの方まで走って行ってしまった。


 なんだ、今日は冷たいなぁ。と思っていると


 「お待たせー!いいよー!」


 と声をかけられたのでリビングに向かった。

 すると弟さんはいつものように元気に戯れてくるのだ。


 「なんだよぉ〜。さっきはあんなに冷たかったのにぃ。あれ?」


 先程部屋に来たときとは違うTシャツを着ていた。

 今は無地のシャツを着ている。


 「あの服かわいかったのに着替えちゃったんだ」


 「ん?弟ずっとリビングにいたしずっとこの服着てたよ?」


 「え?あ、じゃあお友達と間違えちゃったのかな」


 「友達なんて来てないけど」


 たしかに部屋を覗き込んできたのだ。

 いつものように元気はなく少し拗ねているように見えたものの、顔も背丈も同じで間違えようかない。


 明るい時間帯にあまりにもハッキリ見えたので弟さんだと思っていたが


 「多分、おばけだったんじゃないかな」


 と姉は言う。


 僕はこの姉の体験談をいろんな所で話していたのだが、とある番組で披露した際に興味深い考察を聞いた。


 「その土地にいる何かが知っている人に化けて出てくる事がある。たとえばAさん、Bさん、 Cさんの3人がいたとして、Aさん、Bさん、 Aさん、Cさんと、数えているときにはなんの違和感もなく Aさんを2回数えてしまって、用意されたものが4つあるなんてことも。もしかしたらその地に住む何かが弟さん、みんなの知っている姿になって何かを伝えようとしていたのかもしれない」


 さらに興味深い考察は続く。


 「ちなみにそのアニメキャラクターとは?」


 昔からやっているアニメキャラクターの名前を伝えると


 「今のアニメキャラクターやコンテンツであれば今の人の可能性が高い。そのキャラに馴染みがあるから。でもそのアニメキャラクターということであれば、今の人ではなくもっと前からそこにいる人可能性もある」


 とのこと。


 建物や物にまとわりつく付喪神(つくもがみ)系の話はよく耳にするが、もしかすると土地にまとわりつく何者かもいるのかもしれない。


 読者の中で、それまでは何も経験した事がなかったが、たまたま居た場所で体験してしまったなどの体験談をお持ちの方がいたら是非、ご一報頂きたい。

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【怪談実話】短編怪談『もうひとりの弟』 有野優樹 @arino_itikoro

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