とても静かで、胸の奥にじわっと沁みる作品でした

とても静かで、胸の奥にじわっと沁みる作品でした。
まず冒頭から終盤まで一貫しているのが「時間の空白」と「居場所のなさ」です。
朝の家の描写、誰もいないリビング、つけっぱなしのテレビ、温めた焼きそばパン。どれも生活感はあるのに人の温度が欠けていて、主人公が「生きているけれど生活に参加していない」状態であることが、説明ではなく行動で伝わってきます。この淡々とした描写がとても上手いです。
夜の公園に至るまでの流れも自然で、
家にいたくない
でも行き場は特にない
だから明るいベンチで横になる

という無意識の選択が、後半の彼女の台詞によって意味を持つ構造になっているのが秀逸でした。
「君は誰かに見つけて欲しかったから〜」という一文は、この作品の核心ですね。読者も「確かにそうだったのかもしれない」と腑に落ちます。
彼女(先輩)の存在は、救済でありながら決して押し付けがましくないのがとても良いです。
軽口、煙草、年齢差、少し胡散臭い雰囲気。それなのに話が進むにつれて、ちゃんと相手を見て、逃げ道も残してくれる大人として描かれている。
特に印象的だったのはここです。

君が本当に人と関わりたくないなら私は大人しく帰る。

「助ける」「救う」ではなく、選ばせる。
主人公の主体性を最後まで奪わない姿勢が、この物語をとても誠実なものにしています。

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