みどりの首飾り

かおるとあいこ。

みどりの首飾り

 みどりは、自分の名前が好きだ。5月の緑豊かな季節に生まれた自分にぴったりの名前だと思っている。

 みどりは化粧品のECサイト会社の事務の仕事をしている。社内の事務職は女性の人口が圧倒的に多い。業種柄か、華やかな雰囲気の綺麗な女性がほとんどだった。そして社内の流行りなのだろうか。最近、皆、まるで会社指定アクセサリーかのように、ひと粒ダイヤなどの小粒の宝石のネックレスをつけ始めた。

 白ブラウスにジャケットを羽織ったオフィスカジュアルなファッションに小粒な宝石のネックレスを合わせるというのは、みどりには、とても洗練されたお洒落に感じられた。


 みどりが小粒のネックレスを買うなら、どんなものか。それはもう決まっている。ゴールドにエメラルドだ。エメラルドはみどりの誕生石である。

 誕生石とは、西洋の文化らしいが、不思議と5月の誕生石は5月の新緑似合う、緑色に輝くエメラルドなのだ。

 エメラルドは古代より、装飾品として、お守りとして愛され続けてきた宝石である。あのクレオパトラもエメラルドの輝きに魅了され、自分のエメラルド鉱山を所持していたほどだという。

 みどりは、さっそくジュエリーショップへ足を運んだ。


 みどりはジュエリーショップの赤いカーペットへと、黒いパンプスを踏み入れた。

 「いらっしゃいませ」

 オルゴール音楽の流れる店内で、店員さんがにこやかに、それでいて落ち着いた声色でみどりを迎えてくれた。

 店内の照明に照らされ、そこかしこでキラキラと光が反射して宝石が輝いている。しかし、みどりにとってその輝きは美しい群舞のようなものである。ひと粒エメラルドのネックレスこそがみどりのエトワールなのだ。


 みどりはひと粒エメラルドのネックレスを手に入れてジュエリーショップから出ると、さっそく百貨店の化粧室で身につけてみた。

 我ながら、やはりよく似合っている。みどりの首に光るエメラルド。

 その日から、みどりは背筋を伸ばして胸を張って歩くようになった。それと、鏡を見るのが楽しくなった。

 宝石は綺麗なだけではない。付ける者のときめき、自信を引き出してくれる美のお守りなのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

みどりの首飾り かおるとあいこ。 @kaorutoaico

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ