第14話 魂の行方
「え?それってどういう…。」
「この世界では魔王によって人々の生活がおびやかされていました。そして、世界の平和を望む人々の願いの力を使い、神である私が奇跡を起こしたのです。あなたたちを、この世界に転生させるという奇跡を。」
人々の願いの力?それが女神の力の源になっているという事か?
「そして魂の抜けた、つまりもともと死んでいたこの世界の人間の身体に莫大な魔力とともに、あなたたちの魂を結びつけたのです。」
それを聞いて、俺は思わず自分の胸を押さえた。
そこにあった心臓は、今まで通り規則正しく鼓動を続けている。
でも、この身体は死体だった?
アベルは、もともと死んでいた......。
確かに転生した時、アベルの周りは死体だらけで、アベルだけ生きていたのに違和感を感じていた…。もともとあるはずのアベルの魂はどうなっているのかと、ずっと疑問に思っていたけど......。
そしてオカンとオヤジも…...。
「魔王が倒された今、闇の瘴気は
「そんな…僕たちはどうなるんですか?」
「あなたたちの魂が戻れる場所はもちろんたった一つ。つまり、元の世界です。」
「そんなん、メチャクチャ勝手やないか…。私たちを、道具みたいに…。」
ティナがイザムの遺体を抱き抱えながら、女神をにらみつけた。
「言い訳はしません。私はこの世界の人間の神。この世界の人々を救う存在なのです。ただ、あなたたちの魂は、この世界での経験で輝きを増しています。元の世界に戻っても、その魂の成長は、色々なところであなたたちを助けてくれるでしょう。」
「そんな抽象的な事を言われても…。それにもとに戻るって僕たちこの世界に何年もいたんですが…。」
「それについても心配ありません。この世界で何年たとうが、それはこの世界の話です。あなたの戻る世界では、ほとんど時間はたっていないでしょう。」
「つまり、夢オチってやつですか?」
「夢オチ?うーん。どう説明したら良いのか。仮の話をしましょう。もし、あなたが見た今までの夢が全て、別の世界線で起こった本当の出来事だとしたら?」
「え?」
そんな事、考えたこともなかった…。もしそうだとしたら、夢というもの自体、存在しない事になるんじゃ…。
「そろそろ時間です。私の言葉は忘れてしまいますが、最後に言わせてください。あなたたちのおかげで世界は救われました。本当にありがとう…。」
「それで、オヤジはちゃんと生き返るんですよね?女神さ…」
俺が言い終わらないうちに、周りは白い光に満ちあふれていき、俺は意識を失った…。
「… …。はっ!」
目を開けると、僕は家のリビングに座っていた。
テーブルには食べかけの卵かけご飯と味噌汁がある。いつもの我が家の朝食メニューだ。
俺、座ったまま眠っていたのか?
「史彦!早よ食べんと学校遅れんで!」
「あれ…。」
何か、長い夢を見ていた気がする。とても楽しかったり、苦しかったり。でもとても充実していて…。
そして…すごく悲しいことがあったような…。
「あれ?オヤジは?」
弾かれたように俺はリビングを慌てて見まわした。
リビングには、一緒に朝食を食べているオカンしかいなかった。
「何いうてんのよ…。お父さんは…。」
伏目がちにそう言うオカン。
え…まさか…。
ガチャ
「ふう。」
何か満足げな表情で、廊下からリビングに入ってきたのはオヤジだった。
「お父さん、食事中にトイレ行かんといてって何度も言うてるやろ?」
「ああ、スマンスマン、久しぶりの便意だったもんでな。良かった良かった。ひさびさにモリモリと…。」
「あんた!食事中にそんな話やめてくれる!?ホンマ、メチャクチャやで。…あれ?史彦、あんた泣いてんの?」
え?オカンに言われ、自分の頬を触ると、なぜか涙が流れている。
「史彦、あんた学校でいじめられてるんか?何があったんや?お母さんに言うてみ?」
そう言ってさわぎ始めたオカンに俺は何でもないと告げる。
「何かわからんけど、少し安心したんや…。」
「何言うてんのやろこの子は?朝からホンマ…あれ?お父さんお
「え??箸?」
「お父さん、箸、左手で使ってるやん。あんた、右利きやったやんな?」
「んん?ホンマやな。何でやろ?」
「何でやろって…。自分のことやろ?ホンマメチャクチャやな…。あれ?何か、左利きの知り合いに最近会った気がするやけど…。誰やったかな〜。お父さん心当たりある?」
「ええ?左利き?知らん知らん。俺は何も覚えてないで!何も知らん。」
「何をあわててんのこの人は…。」
我が家の
完
転生したら、オカンも転生していたのだが 市井たくりゅう @2626841
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