第13話 降臨

「ああぁぁぁぁあああああ!!」



 史彦は怒りのあまり頭が真っ白になり、魔王めがけて突っ込んで行った。


…!


 そして次の瞬間、史彦の突き出した左手の先で、魔王は2つになっていた。


 風魔法 かまいたち


 風の圧力で空気を極限まで圧縮し、それを鋭く解放する事で風の刃を作り出し、物体を切り裂く魔法だ。この世界で、偶然俺が編み出した魔法である。


 魔王の胸から上は地面に落ち、しばらくすると、魔王の身体は黒いチリとなって消えていった。



 魔王は、死んだ。



 魔力の全てを絞り出した俺は突然気分が悪くなり、その場にうずくまった。


「ギャンブルしやがって。その魔法は確実に魔王を追い込んでから使うっていう作戦だっただろ…。」



 ティナに解放されながら、イザムがそう言った。横たわったイザムの周りには、血の円がみるみる広がっている。



「もうしゃべるなって…。」



「どうしよう…私をかばって…。」



 泣きじゃくるティナにイザムは首を振った。



「…...ティナが死んだら、婚約者に顔負け出来ない…...からな...…。」



「イザム...…。」



 イザムの顔に、ポタポタとティナの涙が流れ落ちる。



「アベル...…ティナを…...頼んだぞ...…。」



 そう言うと、オヤジの頭はガクリと横に倒れ、動かなくなった。


 ウ、ウソだろ…。オ、オヤジが…死んだ…。



「ああああああ!!」



 ティナの子供にように泣きじゃくる声が、魔王の間に響き渡った。



「オカン、実はイザムは俺たちの…。」



 流れる涙を止めることもせず、俺がそう言いかけたその時である。




 陰鬱いんうつな雰囲気だった魔王の間に、突然天からまばゆい光が降り注いだ。


 付近に満ちていた瘴気しょうきが、その神々しい光によって浄化されていく。 



 強烈な光に目がくらみ、顔に手をかざしながら上空を見上げると、真っ白でふんわりとした衣をまとった美しい女性が浮かんでいたのだ。



「人間よ…。お役目お疲れ様でした。」



 人間よ?そして、この神々しい感じからすると…。


 それに、よく見るとサイズ感がおかしいぞ。浮かんでいるからわかりにくいが、女神はとても大きく見える。顔だけで俺の上半身分くらいありそうな…。



「あら?覚えていませんか?私はこの世界の神。あなたをこちらの世界に呼んだのも私です。」



 俺は、この女性に会った覚えは全くなかった。



「あーら、私とした事が。そうでした。人は、神の記憶を脳に保存できないのを忘れておりましたわ。神の情報量が莫大すぎて、人間の脳メモリーには入りきらないのを忘れておりました。オホホホホ。」



「俺は以前、あなたに会った事があると?」



「そうです。この世界に転生する前にあなたに会い、そしてお願いをしたのです。魔王を倒し、この世界を救ってくれるようにと。」



 え?それじゃあ、アベルに転生する前に、俺はこの女神にちゃんとチュートリアルを受けていたという事なのか?



「じゃあ、そのために僕たちを家族ごと転生させたという事ですか?」



「家族ごと?」



「え?俺と母親と、父親も転生してますけど…。」



 そう言って俺はオカンと倒れているオヤジを指差した。



「あーら、私とした事が。転生させたのは、あなただけのはずだったのに。それはごめんなさいね…。」



「ごめんなさいって…。そのせいで、オヤジが死んだんですよ?」



「それについては心配ありません。以前あなたに説明しましたが、あなたたちの魂は、もうこの世界にとどまる事が出来ないのですから。」


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