第5話 強く、かっこよく。
――強く、かっこよく。
心の中でそう唱える。
「きた。きたきたきたきたぁぁぁ!!」
「な、なに? 気持ち悪い……」
体内で起こる化学反応。
ガソリン満タンの自動車が遠慮なくエンジンを唸らせるように、内側で何かが溢れて力がみなぎってくる。心拍数は上昇、血流の加速、瞳孔の拡大。
助雨平は逆さのまま、彼女をまっすぐ見つめた。
「よお! てめえの触手プレイもここまでだぜ!」
まるでダメージが消えたかのように元気を取り戻した助雨平を不気味に思ったのか、少女が身震いをする。
「……ようやく畏能を晒す気になったようね」
「だからさっきから違うって……言ってんだろうがぁッ!!」
宙吊り状態から上半身を起こした助雨平は、脚に巻きつく触手を掴むと――引きちぎった。
「……へ?」
唖然とする少女。
引きちぎられた触手は破裂して液体となり、解放されて地面に着地した助雨平は、その手についたまだ得体の知れない液体を舐めた。
その行為に、少女から「ウソでしょ……」と今度はドン引きされた。
「どうやらこれは『水』のようだが? 水を操る超能力か」
「…………」
助雨平は少女を見据える。彼女は表情に出さず黙っているが、それが答えだった。
――少女は『水』を操る超能力者、畏能だということ。
助雨平は思考を加速させる。
水を操れるのならどこまでの液体を操れるのか、液体全般を操れるのだとしたら体内の水分を狙えば容易に決着がつく、だがしてこなかった。
操れる液体の種類には限度があるということ、それに水の触手は手から一度も離れなかった。体のどこかに接触していないと操れない可能性大。
現に引きちぎったほうの触手は水に戻ったまま、それが体の一部に繋がっていないと操れない証拠――。
考えれば考えるほど、相手のことが見えてくる。
「今回から手加減なしだ」
「……甘く見られたものね」
それでも少女は冷静だった。そして彼女は後ずさりして河川を背後にすると短くなった触手を河川にチャプンと入れる。すると最初よりも体積の大きい触手を形成し、宙に浮かせる。
「これで仕切り直し」
「ああ。そうみたいだな」
そして、助雨平は迷わず少女に突っ込んだ。
脅威を確認したにもかかわらず突っ込んできたことが予想外だったのか、少女が遅れて触手を前に出す。
「おせえッ!!」「あっ……!」
助雨平は触手をすり抜け、その根元を豪快に蹴りあげて断ち切った。少女から離れた触手はまさに巨大な水風船のように破裂する。
あとは目の前にいる少女のみ。
あとは、そのまま蹴り飛ばすか、殴って気絶させるか。
一瞬、怯える彼女の表情が目に映る。
助雨平は彼女に手を伸ばした。
その白く細い腕を掴み、容赦なく黒いワンピースの胸倉を捻りあげ、
「おつかれさまッしたぁッ!!」
河川へめがけて背負い投げをした。
弧を描いて遠くまで飛んでいく少女。大きな飛沫をあげて河川へとダイブ。
「やっぱり手加減してやるよ。妹には嫌われたくねえからな。……うおっと」
糸が切れたかのように膝から崩れ落ち、どっとでてきた疲れに耐えられず息も荒くなる。
(くそう、この状態になると……毎回、あとの疲労感がやばいぜ……。さっさとトンズラこかねえと……)
「いやっ、いやあぁっ! ガボフッ!」
河川で少女が叫んだ。
助雨平はよろよろと立ちあがり河川に目をやると、水面が激しく揺れている。
「おいおい、なにやってんだ。サメでもいたか? いるわけねえだろ。ナメてんの?」
助雨平は、どうせまた罠だろう、と足早に立ち去ろうとするが、少女はまだバシャバシャと必死に水面を叩いていた。
「いやっ、ゲホッ、助けて、いやぁっ!!」
「…………嘘だろ?」
助雨平は、溺れている少女を助けるために柵に近づこうとしたが、躊躇する。
よく考えずとも水を操れる人間が溺れるというのはおかしい。
彼女は助けを求めているがさきほどの罠の件もある。わざと溺れたフリをして水面に誘い込むのを狙っているのかもしれない。
――強く、かっこよく。
その言葉が、助雨平を迷わせなかった。
柵を飛び越え、手先で水面を突き破る――。
畏能 ーイノウー タカノハナ @oshikiri
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