春、きらいでさよなら

冷田かるぼ

さくら


 春が嫌いだ。花粉が飛んでるし、暑かったり寒かったりで安定しないし。今日だってそう、昨日まで燦々と照ってた太陽はどこかに行ってしまったみたいだ。肌寒い雨にうんざりしている。そろそろ春が終わって梅雨が来るのだろうかと思うと、ありがたい気もするけど。


 大学の敷地内は木ばっかりで、大粒と小粒交互に落ちてくる雨。傘がぱたぱたと音を立てる。

 今日は二限から授業だっけか。事前課題解いたっけ。あー、まあいいや。あとで確認しよ。

 歩きつつ、ぼうっとしながら傘をぐるぐる回す。ビニール傘だから絵柄も何もなく、向こう側にただ透けて見える緑。

 の、端っこに、一枚。桜の花びら。ふと手を止める。


 あれ、あんた、随分前に散ってたよね? 一体いつからそこにいたの。なんて。まだ薄い色を残したままのそれに話しかけてみたり。


 ──何やってんだろ、私。


 足が止まる。だめだよ、そんなこと考えたら。傘を傾けて、花びらに手を伸ばす。ふにゃっとした薄紙みたいな感触。きっとあんたは汚いんだろうね。降ってくる雨水に浸って、見えない泥だらけになって。


「何やってるんだろうね、私……?」


 呟いたら、もっとわからなくなった。だからつまんだその桜を、道端に捨てた。うん、これでいい。これで、春が終わるから。

 それでも、緑の中にぽつんと落ちた淡い色が、ずっと視界に残っている気がした。

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