世間知らずの白髪の少女と古代魔法都市(絶望と再生の物語)「あなたが見ている世界。それは、本当に本当の世界ですか?」

🦊神宮寺結衣🦊

「あなたが見ている世界。それは、本当に本当の世界ですか?」


【白亜の残影 - 千年の禁書】







千年もの間、世界は静謐に管理されていた。女王あやのの鉄の意志のもと、紛争は根絶され、不必要な混乱は徹底的に排除された。人々の生活は安定し、表面上は平和が続いていた。しかし、その平和は、過去の記憶を封印することによって築かれていた。




一千年より前に起こった歴史を調べること。それは、あやのによって絶対的な禁忌とされていた。図書館の奥深くには封印された書庫があり、過去の遺物は厳重に管理され、人々の目に触れることはなかった。特に、「白亜の都市」と呼ばれる、はるか古代に存在したとされる幻の都市の記録は、徹底的に抹消されていた。その都市の思想、自由と平等を謳うその理念は、現在のあやのによる中央集権的な支配体制にとって、最も危険な火種となるからだ。





著名な歴史研究者、エマ・ルブランはその禁忌に疑問を抱いていた。長年、断片的な古文書や伝承を追い求める中で、彼女は白亜の都市が単なる伝説ではない確信を得ていた。幾度もの調査と分析の末、彼女の率いる研究チームは、ついに古代の地層から都市の一部と思われる遺跡を発掘した。精緻な装飾が施された白い石材、現代の技術では再現不可能な幾何学模様。それは、紛れもなく失われた高度文明の証だった。




この発見は、瞬く間に歴史研究者の間で広まった。長らく封印されていた過去の扉が開かれたのだ。そして、その情報は、あやのの支配体制に静かに不満を抱く者たちの間で、希望の光となった。もし、かつて自由な思想を持つ都市が存在したのなら、今の管理された世界もまた、変えられるかもしれない。




研究者たちは、「白亜の都市」に関するあらゆる記録を求めて奔走した。禁じられた書庫への侵入を試みる者、地下に眠る遺跡の発掘に没頭する者。その熱意はやがて、驚愕の真実を明らかにする。白亜の都市の建造に関わったとされる人物の名前が、古代の文献の中に断片的に現れたのだ。そして、その名は――“あやの”。








信じられない事実に、研究者たちは息を呑んだ。あの冷徹な女王あやのが、かつてそのような理想都市を創造したというのか?なぜ、心優しい創造主が、千年もの時を経て、世界を厳しく管理する支配者へと変貌してしまったのか?白亜の都市が存在したのは、歴史上、少なくとも千年以上前のこと。一体、あやのは何歳なのだろうか?




エマは、チームのメンバーである老言語学者、ヨハン・シュミットと共に、古代文献の解読に没頭していた。ヨハンは、長年の研究から、白亜の都市で用いられていた言語が、現代の共通語の原型に近いことを突き止めていた。そして、その言語で書かれた碑文の中に、都市の建設者自身の言葉が残されていた。




「我々は、差別も迫害もない、全ての人が平等に生きられる場所を創る。異なる力を持つ者も、持たぬ者も、互いを尊重し、支え合う。この都市は、希望の灯火となるだろう。」




それは、紛れもなく、かつて白髪の少女が抱いた純粋な願いだった。その言葉を読むほどに、エマたちの疑問は深まっていった。なぜ、このような美しい理想を掲げた人物が、千年後には世界を厳しく管理するようになったのか?




白亜の都市の真実が明るみに出るにつれて、あやのの支配体制に対する不満は、徐々に表面化し始めた。特に、かつての自由な世界を夢見る若い世代を中心に、秘密裏の集会が開かれるようになった。「白亜の遺志を継ぐ者たち」と呼ばれる彼らは、あやのの統治に疑問を呈し、過去の真実を知ろうと動き出した。




あやのは、歴史研究者たちの動き、そして民衆の間に広がる動揺を、イグニシェールの報告によってつぶさに把握していた。彼女の沈黙は、決して無知によるものではなかった。白亜の都市の記憶は、彼女の中で深く眠っていたが、完全に消え去ったわけではなかった。




ある夜、あやのは王宮の最上階にある自分の書斎で、 古代の記録を静かに読み返していた。それは、彼女がかつて白髪の少女だった頃、白亜の都市の建設理念を書き記した個人的な日記だった。 ページには、希望に満ちた言葉、共に生きる喜び、そして裏切りと絶望の痛ましい記憶が、 昨日のことのように鮮明に綴られていた。




「なぜ、私はこんな世界を創ってしまったのだろうか…」




長い長い時を経ても癒えることのない心の傷が、彼女の内部で静かに疼いていた。白亜の都市は、彼女の純粋な願いの具現化したものだった。しかし、人々の裏切りは、その理想を残酷に打ち砕いた。管理された世界は、二度と裏切られないための、彼女なりの自己防衛だったのだ。






【回想】



「彼女に味方は、いなかった⋯⋯⋯。」




昔、世界の片隅に王族であるアルファ・トレント・ヘクマティアルという白髪(しろかみ)の少女がいました。その両親は戦争で戦死してしまい、彼女は一人で暮らすことになりました。彼女は名前をみゆき・トレント・ヘクマティアルに変えました。14歳でした。




古代に1つの魔法都市がありました。



そこには、生まれながらに魔法を使える者と生まれながらに魔法を使えない者がいました。




魔法を使えない者は、迫害され、逮捕され、処刑されていました。



(始まりの地)


しかし、1人の少女がいました。彼女は、幻想魔法で、巨大な都市をつくり、魔法を使えない者たちをかくまっていました。しかし、彼女のこの行為は、魔法都市の者たちからは、奇異の目で見られていました。


(少女が創造した巨大な水堀に囲まれた円形の幻想都市)


みゆきの幻想魔法が生み出した都市は、まるで蜃気楼のように、朝日にきらめき、夕焼けに染まる、どこまでも広がる白亜の都だった。


建物は、現実にはありえない曲線を描き、空中に浮かぶ庭園では、見たこともない花々が咲き乱れていた。


この都市は、ただの巨大な隠れ家ではなかった。みゆきの強い想いが具現化した、魔法を持たない者たちにとっての理想郷だったのだ。


都市の中央には、巨大なクリスタルが輝き、そこから発せられる柔らかな光が、都市全体を温かく包み込んでいた。このクリスタルは、みゆきの魔力の源であり、都市のエネルギー供給を担っていた。


住人たちは、みゆきの魔法によって生み出された清潔な水と、空から降り注ぐ光によって生かされていた。


仕事は、それぞれの得意なこと、例えば、植物の世話、道具の修理、子供たちの教育など、争いのない穏やかなものだった。


みゆきは、彼らの心の声に耳を傾け、誰もが安心して暮らせるように、常に都市の細部まで気を配っていた。




[街の朝の風景]


井戸端会議: 朝早く、共同の井戸に水を汲みに来た女性たちが、顔見知り同士で挨拶を交わし、その日の天気や家族の出来事などを話しながら和やかに水を汲む。魔法が使えないため、皆で協力して重い桶を運ぶ。




パン焼きの煙: 早朝からパン屋の竈からは香ばしい煙が立ち上り、焼き立てのパンを求める人々が列を作る。


魔法のオーブンはないため、職人が薪の火加減を丁寧に調整しながらパンを焼いています。




子供たちの準備: 親たちは、魔法の力を使わずに、子供たちの服を丁寧に畳んだり、お弁当を一つ一つ手作りしたりする。


子供たちは、親に手伝ってもらいながら、少しでも早く遊びに行こうと支度を急ぐ。




職人たちの準備: 大工は、前日に研いだばかりのノミや鉋を大切に道具箱にしまい、今日の仕事場へと向かう。




鍛冶屋は、朝一番に炉に火を入れ、金属を熱する準備を始める。彼らの手仕事が街の生活を支えています。






[市場や商店街の賑わい]


魚屋の威勢のいい声: 新鮮な魚を並べた魚屋の主人が、威勢のいい声で客引きをする。


「今日の魚は脂が乗ってるよ!」「おまけしておくよ!」といったやり取りが、活気を生み出す。




八百屋の品定め: 色とりどりの野菜や果物が並んだ八百屋では、主婦たちが一つ一つ手に取って品質を確かめ、今日の献立を考えながら品定めをする。


「このトマト、すごく甘そうね」「おまけしてね」といった会話が日常的に行われる。




手芸店の賑わい: カラフルな糸や布が並んだ手芸店では、女性たちが集まって、編み物や裁縫の話に花を咲かせている。


魔法の道具はないけれど、彼女たちの指先から様々な美しいものが生まれる。




大道芸人のパフォーマンス: 広場では、魔法を使わない大道芸人が、ジャグリングやアクロバットなどのパフォーマンスを披露し、集まった人々を楽しませている。


子供たちの歓声や、大人たちの笑顔が溢れている。





[住居の様子]


暖炉を囲む家族: 夜、一家団欒のひととき。暖炉の火を囲んで、子供たちは今日あった出来事を楽しそうに話し、親たちは優しく耳を傾ける。魔法の暖房はないけれど、家族の温かい触れ合いが心を温める。




手作りの家具: 部屋には、住人たちが自分たちで作った木製の家具が置かれている。


少しばかり不格好だけれど、使い込むほどに愛着が湧く。


壁には、家族の写真や子供たちの描いた絵が飾られ、温かい雰囲気を醸し出している。




工夫を凝らした台所: 台所では、魔法の調理器具の代わりに、工夫を凝らした道具が使われている。


手動の泡立て器や、火加減を調整しやすい竈など、先人の知恵が詰まった道具たちが、美味しい料理を生み出します。




ランプの灯り: 夜になると、家々の窓には温かいランプの灯りが灯る。魔法の照明はないけれど、その優しい光は、住人たちの心を安らげ、穏やかな眠りを誘う。





[仕事の様子]


織物職人の手仕事: 機織り機の前で、織物職人が丁寧に糸を操り、美しい布を織り上げていく。


魔法の力は借りず、熟練の技と根気で、人々の生活を彩る布地を生み出す。




木工職人の工房: 木の香りが漂う工房では、木工職人がノミや金槌を使い、一つ一つ丁寧に家具を作り上げていく。


注文主の要望に応えるため、細部にまでこだわり、魂を込めて作品を制作する。




農家の収穫: 広大な畑では、農家の人々が汗を流しながら作物を収穫している。


天候に左右されながらも、土と向き合い、丹精込めて育てた作物は、街の人々の食卓を豊かにする。




行商人の声: 天秤棒を担いだ行商人が、街の隅々まで声を届けながら、様々な商品を売り歩いている。


「新鮮な野菜はいかがですか?」「丈夫な日用品揃ってますよ!」といった声が、街の活気を支えている。





[祭りやイベント]


手作りの飾り付け: 祭り当日、街の住民たちは、色とりどりの紙や布を使って、街中を華やかに飾り付ける。


魔法の装飾はないけれど、皆で協力して作り上げた飾り付けは、温かみと活気に溢れている。


屋台の賑わい: 祭りには、様々な屋台が並び、焼きそばや綿あめ、手作りの玩具などが売られている。


魔法の力を使わずに作られた食べ物や玩具は、素朴ながらもどこか懐かしい味わいがある。


盆踊りの輪: 夜になると、広場では盆踊りの輪ができる。


老若男女が手をつなぎ、太鼓や笛の音に合わせて踊り、互いの交流を深める。


魔法の演出はないけれど、皆で踊る一体感が、大きな喜びを生み出す。


手作りの演劇: イベントでは、住民たちが自分たちで脚本や衣装、舞台装置などを手作りした演劇が上演される。


プロの役者のような華やかさはないけれど、一生懸命な演技は、観客の心を温かくする。





白髪(しろかみ)の少女:「おはよ!おじさん。今日もいい天気だね?」


おじさん:「あ〜、みゆきちゃん。おはよう。今日も、みゆきちゃんは、きれいだね、本当に。」


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(笑顔をふりまく白髪(しろかみ)の少女)


白髪(しろかみ)の少女:「おはよ!おばさん。今日もきれいだね?」


おばさん:「あら!みゆきちゃん!おはよう。ありがとうね(笑)。みゆきちゃんのおかげで、今、私達みんな、とても居心地がいいのよ?本当に、ありがとうね。」




(笑顔のおじさんとおばさん)


白髪(しろかみ)の少女:「いえいえ。そんなお礼を言われる程のことじゃないよ(笑)。みんな、私の家族みたいなものなんだから。」


ある日、どこからか、現れた町では見かけない男。彼は、物憂げな表情で井戸端に佇む女に、低い声で語りかけた。


「あなた方は、本来もっと強い魔法力を持っていたはずだ。それが、あの娘の幻想魔法によって奪われたのだとしたら……?」


男の言葉は、日々の生活の中で漠然とした不満を抱えていた者たちの心に、小さな火種を灯した。


「奪われた?私たちの力を?」


男の胡散臭い言葉に、最初は警戒していた者たちも、うまくいかない現状への不満と結びつけ、次第に耳を傾けるようになっていった


静かな共同体に、まるで水面に落ちた一滴の油のように、じわじわと不穏な噂が広がり始めていた。


「あの娘の魔法は、我々の力を奪っているのだ」と。最初は小さな囁きだった。井戸端での立ち話、夕食の食卓での呟き。しかし、魔法が使えないことへの不満を抱えていた者たちの心に、その言葉は徐々に浸透していった。


「そうだ、最近、調子が悪い気がする」「もしかしたら、本当にあの娘のせいなのかもしれない」。


そんな疑念が人々の間に広がりはじめた。彼は、まるで乾いた薪に火をつけるように、人々の不安を煽った。


見かけない男:「あなた方の本来持つべき魔法の力は、あの娘の幻想魔法によって奪われているのです!」


彼の言葉は、魔法が使えない者たちの鬱積した不満と結びつき、日増しに強い憎悪の炎へと変わっていった。


「我々の力を奪った償いをさせろ!」


「あんな小娘に好き勝手させておくべきではない!」


群衆の目は、次第に猜疑心と怒りに染まっていった。


白髪(しろかみ)の少女:「みんな、どうしたんだろう?私を避けてるみたい。」




(疑いの目を向ける町の人々)


町のみんな:「あいつが私たちの魔法を奪ってるって。」


町のみんな:「あいつのせいで、私たち魔法が使えないのか。」


ひとりの見かけない男は、薄汚れた旅装に身を包み、どこか人を食ったような笑みを浮かべていた。


見かけない男:「皆さん、ご存知ですか?あの白髮の娘が使う幻想魔法の恐ろしさを?」


彼は群衆に語りかけた。


見かけない男「紫紅姫(むらさきべにひめ)という禁断の魔法で、他者の魔法力だけでなく、その時の記憶までも奪い取るというではありませんか!そして、奪われた者たちは、まるで操り人形のように、あの娘に友好的な態度を取らされるらしい。」


彼の言葉には、真実か嘘か定かではない、しかし人々の不安を掻き立てる毒が含まれていた。


男の正体は、魔法都市の非魔法使い取り締まり官だった。しかし、彼の目的は単なる取り締まりではなかった。


魔法都市では、魔法を使えない者は常に抑圧され、不満を抱えていた。彼は、その不満を利用し、白髮の少女という共通の敵を作り上げることで、人々のエネルギーを一点に集中させ、都市の支配体制をより強固なものにしようと企んでいたのだ。


見かけない男:「あの娘を排除すれば、あなた方の魔法力は戻るはずだ。」


そう囁きながら、彼は群衆の憎悪の炎が燃え上がるのを、冷たい目で観察していた。


町のみんな:「俺達が、あの娘に愛想が良いのは、俺達の意思じゃないと?」


ひとりの女:「あの娘の魔法は、まるで私たちを無力な存在だと嘲笑っているようだ……。長年、魔法が使えないというだけで、どれだけの屈辱を味わってきたか。やっと得られた安寧も、あの娘の力があってこそ。まるで、私たちは彼女の施しで生きているようなものじゃないか!見かけない男の言う通りだ。あの娘の魔法が、私たちの魔法を奪っているに違いない。そうだ、そうに違いないんだ。彼女さえいなくなれば、私たちは本来の力を取り戻せるんだ!」


町のみんな:「そうだ!あの娘をどうにかしなければ!」


その場に、沈黙ができた。


町のみんな:「道理で、あんな小娘に、こんな巨大な都市を1人で創れる力があるわけないんだよな?完全に、騙されていたぜ(怒)」


町に男の言葉が浸透し始めた頃、人々の間には小さなざわめきが広がっていた。「本当に、このままでいいのだろうか?」「魔法が使えないのは、本当にただの偶然なのか?」と。


長年抑えられてきた、魔法への憧れや、自分たちだけが取り残されているような焦燥感が、男の言葉によってじわじわと刺激されていったのだ。


白髪(しろかみ)の少女の存在は、確かに彼らにとって安寧の象徴だった。しかし、同時にそれは、自分たちの無力さを常に意識させる鏡でもあったのかもしれない。


「彼女がいなければ、私たちは何もできないのではないか?」


「彼女は、私たちの可能性を奪っているのではないか?」


そんな不安が、男の「白髪(しろかみ)の少女は魔法の力を隠している」という言葉に、都合よく結びついていった。


ある日、市場で野菜を売る老人が、隣の店主に小さい声で話しかけるのが聞こえた。


「あの娘が来てから、確かに暮らしは楽になった。だが、時々、何か隠しているような気がするんだ。」


それは、多くの人々が心の奥底で感じ始めていた、小さな疑念の芽だった。その芽は、男の扇動によって、瞬く間に大きく育っていったのだった。


夕暮れ時のこと、白髮(しろかみ)の少女が町の広場に入ると、どこからともなく、険しい表情の群衆が彼女を突然、取り囲みました。


群衆:「おい⋯。女⋯。」


次の瞬間だった。


白髪(しろかみ)の少女「いや〜あ〜!やめて!やめて!やめてよ!みんな!やめてよ!やめて!やめてったらー!!!⋯⋯⋯⋯。⋯⋯⋯⋯やめてください⋯。おねがいします⋯。お願いですから⋯。⋯⋯⋯⋯。」




少女は、かくまっていた魔法を使えない者たちから、公の場で、ボコボコに暴力を振るわれ、陵辱され、服を破られ、全裸で放置されました。


(破かれる白髪(しろかみ)の少女の服)


街を創ったあの日、白髪(しろかみ)の少女の心は希望に満ち溢れていた。魔法が使えない人々が、互いに支え合い、笑顔で暮らせる場所。それが彼女の夢だった。


暴行を受け、尊厳を踏みにじられた痛みは、肉体的なもの以上に、彼女の心を深く蝕んだ。信じていた人々の裏切りは、彼女にとって何よりも耐え難いものだった。「なぜ?私があなたたちのために作った街なのに…」何度も心の中で叫んだが、届くはずもない。


彼女の瞳から光は消え、代わりに深い絶望の色が宿った。それでも、心の奥底には、微かながらも生きることを諦めきれない何かが残っていた。それは、彼女がかつて抱いていた、人々の笑顔を見たいという願いの残滓だったのかもしれない。しかし、今はまだ、その小さな光を見つけることすら困難だった。


そこへ、ひとりの男が近寄り、少女の髪を鷲掴みにして言いました。



(自慢の髪の毛を無造作に掴まれ、尊厳のない姿で己の無力さを痛感する白髪(しろかみ)の少女)


「調子に乗るから、こうなる。魔法都市のためだ。」彼女は、思い知りました。黒幕は、魔法都市だったと。




その瞬間、少女の作り上げた巨大な都市は、崩れ去り、見るも無残な廃墟になってしまいました。




(素足で、破られた服で肌を隠し、廃墟になったかつての幻想都市を見つめる白髪(しろかみ)の少女)


白髪(しろかみ)の少女が去った後、街には一時的な解放感と高揚感が漂った。男は英雄のように祭り上げられ、人々は自分たちの手で未来を切り開いたと信じて疑わなかった。


その後、わずかな力を振り絞り、白髪(しろかみ)の少女は、荒廃した都市から逃げようとしましたが、本能のままに牙を剥き、嘲笑う声と共に、無数に伸びてくる手に捕まり、彼女は、荒廃する都市に連れ戻され、長い間、そこで、奴隷娼婦として強制労働させられました。


おじさん:「おら!股広げろ!クソガキが!」


白髪(しろかみ)の少女:「はぁ⋯い⋯。」




(少女の中に、生ぬるいものが、何度も何度も出入りして、少女の中を乱暴にかき乱す。顔見知りの憎悪に満ちた温もりをその白い肌で感じながら、何度も果てた。やり場のない後悔と快楽の狭間で、少女は苦痛に苛まれる。『股が熱い。ジンジンする。もう、前みたいには、戻れないの?』『私は、いったい何なの?』)


おばさん:「休むんじゃないよ!さっさと腰振るんだよ!アバズレが!」




白髪(しろかみ)の少女:「ごめ⋯ん⋯なさい。」




(自ら、腰を振り、男に奉仕する。自分の大切なところを使って、相手を喜ばせる。『感じたくないのに⋯⋯⋯。』少女の意思とは裏腹に彼女の体は、快楽とは何かを少女に伝えてくる。『いったい、私は、何をやってるの?』)


知らない男:「しっかし、いい女だな。エロい体しやがって。いっぱい、可愛がってやるからな!感謝しろよっ!?」


白髪(しろかみ)の少女:「あ⋯りがと⋯う⋯ござい⋯ます。」




(まるで、商品を品定めするかのように、触れてくる。『いったい、私は、何なの?』)


知らない女:「ほんと、このクソガキ、いいもん持ってんじゃん!まるで、娼婦になるために生まれてきたようだね!ハハハハハッ!」




(『親から、もらったこの体をそんなふうに言わないで⋯⋯⋯。』)


知らない老人:「しっかし、この年でこんないい女を抱けるとは思ってもみなかったよ?」




(『私は、あなたのものじゃない⋯⋯⋯。』)


知らない老婆:「今のうちに、しっかり教え込んどきなよ!誰が!ご主人様かってことをね!ほら!咥えるんだよ!」




白髪(しろかみ)の少女:「は⋯⋯い⋯⋯ご主人様。」




(少女の口の中に、生ぬるく、生臭い、脈を打つものが侵入してくる。それは、口の中で、何度も擦れて、喉の奥深くまで、入ってくる。次の瞬間、苦く、熱を持った、ネバネバしたものが少女の口の中を満たした。)


白髪(しろかみ)の少女:「オェッ⋯⋯⋯。」


知らない老婆:「吐き出さず、しっかり飲むんだよ!」


(ゴックン。。。それは、少女の中に、侵入してきて、彼女を構成する体の一部となった。)


見たことのない子ども:「あのお姉ちゃん何やってるの?」


(『やめて⋯⋯⋯。見ないで⋯⋯⋯。』)


見たことのない子どもの母親:「償いをしてるんだよ?私達に酷いことをしたからね?」




男の歪んだ欲望が何度も何度も少女の中に、侵入してきて、少女の股は、熱く溶けるような、言いようのない快楽という名の苦痛を少女に、現実として突きつけていた。


(『私が、いったい何をしたというの?』)


町の群衆:「いい気味だ!」




四つん這いになった少女の下半身は、熱く溶けるような悲鳴を上げていた。呼吸することすら許さないように、男の醜い欲望が少女の口を蹂躙していた。


町の群衆:「このアバズレが!」




満足げな表情を浮かべる男の上にまたがり、男のために尽くすために創られたのかと思うほどに、その敏感なところは、自分の意思とは裏腹に快楽を味わっていた。


町の群衆:「たっぷり償ってもらうぞ!」




体の自由を奪われ、堕落した欲望のはけ口と化した少女の純粋な体は、それを否定することができなかった。


町の群衆:「お前には、無力ってものを教えてやる!」




優越感に満ちた表情を浮かべる肉の壁に囲まれ、少女に逃げ場はなかった。ただ、それを受け入れることしかできなかった。


町の群衆:「たっぷり、可愛がってもらえよ!」




肉体的にも精神的にも逃げ場のない異常な空間で、少女は、意識を必死に保とうとする。


町の群衆:「あ〜ぁ〜!。出すぞ!クソガキ!」




白髪(しろかみ)の少女:「うぅ⋯⋯⋯。」


男達の憎しみが少女の中にぶちまけられる。


町の群衆:「ハハハハハッ!立派な女になったな!」




もはや、少女に希望を抱くという気力すら残っていなかった。少女の無垢だった体は、その初めてを人の皮を被った憎悪と悦楽を糧にする獣達に無残にも喰い散らかされ、目も当てられない無惨な肉の残骸と化していた。


来る日も来る日も、彼女を蔑む男達の相手をさせられ、彼女を蔑む女達からは、罵声と侮蔑の言葉を浴びせられていました。休むことも寝ることも許されず。




(少女は、首輪に繋がれ、着たくもない服を着せられ、冷たい部屋の片隅に座っていた。不定期に、出される残飯には、ネバネバした白い異臭を放つ液体が混ざっていた。それが、何なのか想像に難くなかった。少女は、生きるために、それを口にした。強烈な拒絶反応が少女を襲ったが、少女は、それを必死に無理やり抑え込んだ。生きるために。)


(生理的反応が少女に訴えかける。しかし、その時まで、我慢しなければならない。そうしないと、怖い形相の女達に怒られるから。その時は、突然訪れる。湿った薄暗い路地裏に、引きずられ、犬のように排泄を強制される。ご主人様は、ゴミを見るような目つきで、少女の体を見る。周りには、この時を待ち望んでたかのように、ケダモノたちが群衆を作り、少女の体を舐め回すように見つめる。)


(少女の体は、男達の欲望で、異臭を放っていた。ご主人様達は、冷たい部屋の中で、蹲(うずくま)る少女の体にバケツに入った、冷たい水を無造作にかける。部屋の冷たさと水の冷たさで、少女は、震える。わずかな希望を抱こうとする少女に厳しい現実を突きつける。)


少女に、人権という言葉は、なかった。


少女は、衰弱していく中、絶望と悲しみの中で、苦しみ続けました。


体は、何度も揺れ、気力は、遠のくばかり。男たちの汚濁の色が白皙(はくせき)の肌の白髪(しろかみ)の少女の身体に深く刻み込まれ、消えない印を残していく。



(男の欲望が、少女の中を何回も何回も出入りする。肌と肌は、密に触れ合い、口と口は、ねっとりと絡み合う。意識の逃げ場がない。男の生温かい温もりをその白い肌で、感じながら、少女は、何度も何度も快楽の意味を知る。自分の体は、誰でもいいのか?少女の体は、快楽の意味を知りすぎ、熱を帯びていた。男は、少女の体を求め、1つになることをやめず、歪んだ愛の形を少女の体に刻み込み続けた。)


「やめて…お願い…」と懇願する声は、何度も繰り返されるうちに、喉の奥で小さく震えるだけの音になった。


最初は抵抗していた体も、何度も男たちに踏みにじられるうちに、まるで抜け殻のように、ただただ重く、感覚が鈍くなっていった。


温かかったはずの白亜の床は冷たく、希望に満ちていたはずの空は、今はただの灰色に見える。


彼女の瞳から光は失せ、映るのは天井のシミばかり。かつて、人々の笑顔を守りたいと願った心は、今はひび割れて、冷たい絶望だけが染み渡っていく。


毎日繰り返される屈辱と暴力は、彼女の中で「なぜ?」という問いを何度も反芻(はんすう)させた。しかし、答えは見つからない。ただ、自分が生きていることの意味さえ、分からなくなっていく。彼女の思考は、停止した。



(彼女の透き通るような白い体は、男達のその歪んだ欲望をただただ無言で、もはや何も感じない抜け殻のように、男たちの熱を帯びた荒い息遣いを間近に感じながら、ただその動きを受け止めていた。(もう、何もかもどうでもいい…)心は遠い場所に彷徨い、目の前の光景は現実感を失っていた。それは、もはや彼女にとって、非日常では、なくなっていた。)


「彼女を守ってくれるものはいなかった。 彼女の境遇を知りながら、誰一人として⋯⋯⋯。」


ある夜、また見知らぬ男が近づいてきた時、みゆきの心の中で、何かが音を立てて壊れた。抵抗する気力も残っていなかったが、その男の歪んだ笑顔を見た瞬間、これまで感じたことのない黒い感情が湧き上がってきた。




(少女の魂に最後のとどめを刺す男の歪んだ笑顔)


「もう、こんな世界は嫌だ⋯⋯⋯。」


それは、か細いけれど、確かに彼女の中から生まれた叫びだった。なぜ、自分だけがこんな目に遭わなければならないのか?なぜ、あんなに優しくしてくれた人々が、手のひらを返したように自分を傷つけるのか?


理解できない不条理への怒りが、静かに、しかし確実に彼女の中で燃え上がっていく。


「そうだ…こんな世界なら、いっそ壊してしまえばいい」




(魂の限界を超えた白髪の少女の叫び)


絶望の淵で、彼女は一つの考えに取り憑かれる。自分を傷つけた者たちも、傷つけ合う愚かな人々も、全てを自分の作り出した人間という名の人形に変えてしまえば、争いのない、優しい世界を作れるかもしれない。それは、歪んだ希望だったかもしれない。


しかし、彼女にとっては、生き残るための、最後の光だった。過去の優しい記憶を封印するのは、あまりにも辛い選択だった。でも、あの裏切りと痛みを忘れることができなければ、彼女はきっと壊れてしまうだろう。


「もう二度と、あんな思いはしたくない」


そう強く念じながら、彼女は、人形の世界を創造する決意を固めていく。それは、彼女なりの、世界への復讐であり、同時に、自分自身を守るための、最後の手段だった。


青白い光が彼女の体から放射状に広がった。




白髪(しろかみ)の少女は、世界を改変した。




世界は、変わってしまいました。


世界の民の魂は、白髪(しろかみ)の少女が作った人形に全て封じ込められました。


本来の世界を愛していた者たちは、偽りの世界に閉じ込められ、愛する者がいた者たちは、それぞれ、バラバラに引き裂かれました。


長い長い夜が訪れます。


この人形の世界では、色々な人形がいます。人間、草食動物、肉食動物、虫、魚、鳥、植物など。そして、人形は自分の体を維持するために、他の人形を喰らう必要があります。本質的な意味で共食いです。


しかし、人形が人形を殺し続けたら、いずれ人形はいなくなってしまいます。なので、この世界では輪廻転生という呪いが稼働しており、人形が死んだとしても、人形の中にとらわれていた者たちの魂という名の本体は、また別の新しい、赤ちゃんという名の人形に強制的に押し込まれる仕組みになっています。こうして、質量保存の法則のような仕組みが成り立っています。




(地球という名の果実)



ある人形(元は優しい母親)が、飢えに苦しむ我が子である人形を見つめている。周囲には食料となる他の人形が見当たらない。彼女は、理性では決して考えられない「共食い」という選択肢が頭をよぎり、激しい自己嫌悪と葛藤に苛まれる。「まさか、私が…」と心の中で叫びながら、本能的な飢餓感に抗えない。


穏やかな草食動物の人形(元は平和主義の老人)が、肉食動物の人形に追い詰められる。かつての自分の知性は、死の恐怖を増幅させる。「助けてくれ…」と心の中で叫びながらも、人形の体はただ震えることしかできない。捕食された後、彼の魂は新たな赤ん坊の人形に押し込まれ、再びいつ捕食されるか分からない恐怖の中で生きていく。


小さな虫の人形(元は無邪気な子供)が、巨大な肉食動物の人形に一瞬で踏み潰される。理不尽な暴力と、あまりにも短い「生」の終わりは、この世界の無常さを象徴していた。


何度も捕食され、何度も新しい人形として生を受ける老婆の人形(元は献身的な看護師)。彼女は、過去の苦しい記憶は薄れつつあるものの、根源的な不安感と虚無感に常に苛まれている。「いったい、いつまでこの苦しみが続くのだろうか…」と、終わりなき輪廻に深い絶望を感じていた。


ある若者の人形(元は希望に満ちた青年)が、自分の死んだ恋人が、別の赤ん坊の人形として生まれたことを知る。しかし、過去の記憶を持たない恋人は、彼を見ても誰だか分からない。彼は、再会できた喜びと、愛する人が自分を忘れてしまったという悲しみに打ちひしがれる。輪廻転生は、彼にとって残酷な呪いであった。


ある人形(元は歴史学者)が、断片的な知識として、かつて本当の自分という存在がいたこと、そして、この世界が誰かによって作られた偽りの世界であることを悟り始める。しかし、その真実を他の人形に語っても、信じてもらえず、孤独感を深めていく。


かつて愛し合っていた夫婦が、別々の人形として生まれ変わり、互いの存在を知らずに生きている。ふとした瞬間に、懐かしいような、切ないような感情が湧き上がるものの、それが何なのか理解できない。人形の世界では、かつての人間関係は断ち切られ、人々は根源的な孤独を抱えている。


子供の人形たちが、遊びの中で他の人形を「ごっこ」で襲う。それは、生き残るための本能的な行動であり、無邪気な遊びの中に、この世界の残酷さが垣間見える。


ごく稀に、過去の優しい記憶を鮮明に思い出す人形が現れる。彼らは、この絶望の世界にわずかな希望を見出そうとするが、周囲の無関心や諦めに打ちのめされ、次第に口を閉ざしていく。


ほとんどの人形は、この歪んだ世界を当たり前のものとして受け入れ、感情を深く抱くことを避けるようになる。日々の生存に汲々(きゅうきゅう)とし、精神的な豊かさは失われていく。




さらに、長い夜が過ぎていきます。




人形の姿となった元白髪(しろかみ)の少女は、草花が咲き乱れる庭園にいた。隣には、穏やかな笑顔の青年(彼氏の人形)が寄り添い、二人で摘んだ花を編んで花冠を作っている。風が優しく吹き抜け、花々の甘い香りが漂う。かつての絶望を知る元白髪(しろかみ)の少女の瞳には、穏やかな光が宿っている。二人は言葉少なげだが、その間には温かい愛情が満ちている。時折、元白髪(しろかみ)の少女は遠い空を見上げるが、その表情にはもう暗い影はない。


元白髪(しろかみ)の少女は、人形たちがそれぞれの役割や知識を学ぶ学舎に通っている。かつての孤独を知る彼女だが、ここでは分け隔てなく、様々な個性を持つ人形たちと交流している。今日は、植物の世話をする授業で、生き生きとした緑の葉を優しく撫でている。隣の席の明るい少女の人形と微笑み合い、楽しげに言葉を交わしている。放課後には、他の人形たちと中庭で語り合い、笑い声が響いている。


小さな木造の家の中で、元白髪(しろかみ)の少女は幼い子供の人形を膝に乗せ、絵本を読んでいる。子供の人形は、元白髪(しろかみ)の少女の白い髪を小さな手で優しく撫で、無邪気な笑顔を見せる。傍らには、夫の人形が温かい眼差しで見守っている。夕食の支度が始まり、優しい香りが漂ってくる。かつての孤独な日々とはかけ離れた、温かく穏やかな時間が流れている。



戦争が起きた。



ある時、元白髪(しろかみ)の少女の目の前には、惨劇が見えていました。




殺し合い、レイプ、略奪。この世の惨劇の全てが少女の目の前にありました。



(人間という名の人形の箱庭という絶望の世界)




「なんで?なんで?なんで、みんなそんなひどいことするの?」




元白髪(しろかみ)の少女は、記憶を封印していましたが、本能的に、感じていました。




「私は、魔法が使えるはず。」「私なら、何とかできる。」




その瞬間、元白髪(しろかみ)の少女は、全てを思い出しました。




すると、目の前で、起こっていた惨劇がピタリと止み、みんなが元白髪(しろかみ)の少女を見ています。




みんな言います。「さあ、元の世界に戻ろう。みんな、君を待っているよ!だから、早く、幻想魔法を解いてよ?私達は、あなたを責めたりしないよ?」


そこには、会ったこともない者達、元白髪(しろかみ)の少女を陵辱した者達、元白髮(しろかみ)の少女に罵声を浴びせた者達、元白髪(しろかみ)の少女を陥れた者がいました。


元白髪(しろかみ)の少女は、思いました。「あぁ。。。そうか。みんな、私を騙していたんだ。私が見てきたものは全部お前達の演技だったんだな?そうか。。。そういうことか。。。私が抱いた感情は、全て嘘だったんだ?そうか。。。そうか。。。ふざけるな!!!ふざけるな!!!ふざけるなよ!!!この、ゴミどもが!!!(怒)」


(怒り狂う元白髪(しろかみ)の少女)


元白髪(しろかみ)の少女は、怒りに身をまかせ、幻想魔法の力で、世界を海に沈めてしまいました。


ゴォォォゴォォォゴォォォゴォォォゴォォォ


ガシャンガシャンガシャンガシャンガシャン


バキィバキィバキィバキィバキィバキィ


「津波だーーーーーーーーーーーーー!!!」


「早く!逃げて!みんな!早く!!!」


「ママーーーーーーーー!!!(泣)」


「早く!立って!逃げるのよ!!!」


「お姉ちゃ〜ん!(泣)」


ウゥーウゥーウゥーウゥーウゥーウゥーウゥー


「国民のみなさん!早く高台へ!高い所へ!!!避難してください!!!早く!!!」


ワンワン!!!ワンワン!!!


(巨大津波と街)


(逃げ惑う人々)


多くの人形が死にました。


「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


(絶望という名の暗闇に堕ちる人形)





長い長い夜が訪れます。





【とある日本】






春の光が、日本魔法学校の校庭を優しく照らしていた。期待と不安が入り混じる新入生たちが、真新しい制服に身を包み、それぞれの未来への一歩を踏み出そうとしていた。その群れの中に、ひときわ目を引く少女がいた。背中まで伸びる白銀の髪は、まるで新雪のようだった。吸い込まれるような赤い瞳は、どこか憂いを帯びながらも、強い意志を宿していた。彼女の名は、結衣。幻想魔法科に籍を置くことになった。




入学式を終え、最初の授業である「初級魔法概論」の教室を探していた結衣は、複雑な校舎の構造に早くも戸惑っていた。渡された地図を何度も見返すものの、なかなか目的地が見つからない。








「確か、この棟の三階だったはず……」








不安げに立ち止まっていると、明るい声が背後から聞こえた。








「もしかして、迷ってる?僕も今日入学したばかりで、右も左も分からなくて」








振り返ると、 黒髪の、 オレンジの瞳を持つ少年が立っていた。彼の周りには、すでに数人の生徒が集まり、楽しそうに談笑している。








「僕は忍田けんじ。創成魔法の使い手だよ。君は?」








「結衣……幻想魔法の使い手」








短い返事に、けんじは誠実な笑顔を向けた。








「幻想魔法か!すごいな!僕は、炎とか水とか、色んなものを創り出す魔法なんだ!」








彼は、手のひらの上で小さな火花を即座に生み出し、すぐに消してみせた。




結衣は、彼の普通ではない魔法に、ほんの少し興味を示した。








「創り出す……」








その時、もう一つの明るい声が二人に割って入った。








「ちょっと、お兄ちゃん!こんなところで立ち止まってないで、早く行こうよ。初日の授業に遅刻したら、先生に目をつけられちゃうよ!」








声の主は、活発そうな銀髪の少女だった。彼女は、けんじの腕を引っ張りながら、結衣に向かってフレンドリーな笑顔を投げかけた。「私は忍田雪菜。このお兄ちゃんの妹で、コピー魔法の使い手なの。あなたの髪、すごく綺麗!まるで、おとぎ話に出てくる雪の女王みたい」




雪菜の誠実な言葉に、結衣はわずかに顔を赤らめた。








「ありがとう」








けんじは、 少し困ったように頭を掻きながら言った。








「ごめんね、妹が賑やかで。もしよかったら、僕たちと一緒に教室まで行かない?たぶん、方向は同じだと思うんだ」








結衣は、一瞬躊躇したが、二人のフレンドリーな雰囲気に少し心を許した。








「うん、お願いしてもいいかな」












こうして、 1人だった白髪の少女、結衣は、 誠実な創成魔法の使い手、忍田けんじと、 おてんばなコピー魔法の使い手、忍田雪菜と、偶然の出会いを果たしたのだった。




教室までの短い道のり、三人はたくさん言葉を交わした。けんじは、自身の創成魔法の可能性について少し興奮して語り、雪菜は、見た魔法や技術を即座にコピーできる自身の尋常でない能力を少し自慢げに話した。結衣は、自身の幻想魔法については多くを語らなかったが、二人の話に注意深く耳を傾け、時折、短い相槌を打った。








教室に着く頃には、三人の間にはすでに穏やかな空気が流れていた。授業中も、 視線を交わしたり、小さなアイコンタクトをしたりするうちに、彼らの距離は自然に縮まっていった。放課後、けんじが提案した。








「せっかくだし、一緒に学校の中を見て回らない?まだ全然場所が分からなくて」








雪菜もすぐに賛成し、「私も気になる魔法具の研究室があるんだ!」、と目を輝かせた。




結衣は、 少し迷ったものの、二人の フレンドーな誘いを断る理由もなく、「うん」と短い返事をした。




三人で広大な校内を散策する中で、彼らは互いの普通ではない才能に驚き、共通の興味や関心を共有することで、 自然と友情を育んでいった。けんじのクリエイティブな発想と、雪菜の効率的な学習能力は、結衣にとって新鮮だったし、結衣のミステリアスな雰囲気と、時折見せる深い洞察力は、二人を惹きつけた。




共に難しい課題に取り組み、夕食の時間をともにして、放課後にはそれぞれの魔法の鍛錬に付き合う。そんなごくありふれたやり取りの中で、彼らの絆はゆっくりと、しかし確実に強化されていった。孤独を感じていた結衣にとって、二人の存在は太陽の光のように暖かく、彼女の心を徐々に溶かしていった。




しかし、平穏な学園生活を送る中で、結衣の心には、時折、説明のつかない憂鬱が訪れた。それは、夜眠りにつく瞬間や、一人教科書に向かっている時など、突然、鮮明な映像として蘇る、白亜の都市の夢の残滓だった。 雄大で光に満ちた都市、そこで暮らす人々の笑顔、そして、最後に訪れた恐ろしい破壊の光景。それらの夢は、彼女を目覚めさせると、 冷汗と不安な気持ちだけを残して、記憶の彼方へと消えていった。




ある日、三人で学校庭園のベンチに座り、世界の違和感のある魔法現象について話していた時のことだった。ふと、結衣は不安な表情を浮かべ、空を見上げた。








「ねぇ、けんちゃん」








彼女は、短い声で言った。








「この世界には、協力な力を持つ魔法使いがいるって聞いたことがあるんだけど……大魔女ステラは、どこにいるんだろうね?」




けんじは、 少し考えてから答えた。








「大魔女ステラか……伝説の魔法使いだよね。 世界の根底を揺るがすほどの力を持つって言われているけど、実在するのかどうかさえ、 奇妙な話が多いんだ。 世界のどこかに隠遁しているとか、もう この世界にはいないとか……」








雪菜も、「私も教科書で読んだことがあるけど、 奇妙な記述ばかりだったな。 世界を創造した強大な魔法使いだっていう話もあれば、世界を破壊する悪魔だっていう話もあって……」と付け加えた。結衣は、二人の言葉を聞きながら、 世界の深淵に隠された強大な力の存在を、漠然と感じていた。




そんなありふれた日常の学園生活を送る中で、結衣の心に訪れる奇妙な夢の頻度は、 徐々に増していった。そしてある夜、いつものように恐ろしい悪夢にうなされた結衣は、不安に駆られ、 当てもなく 図書室を彷徨っていた。その時、ふと、 最近図書館で見つけた古代の装丁の本が目に留まった。 異様な紋様が表紙に刻まれたその本は、彼女を磁石のように引き寄せた。 以前にも何度かページを繰ったはずなのに、その夜は、異常なほど文字が鮮明に目に飛び込んできた。 特に、夢で見た魔法陣によく似た紋様の近くに書かれた古代の言葉に、彼女の目は釘付けになった。「幻想世界級魔法…… 世界の法則を操る協力な力……その代償として、術者の最も大切な記憶を封印する……」




結衣は、震える指でそのページをなぞった。 長い間忘れていたパズルのピースが、 突然、目の前に現れたような、 電気的な衝撃が彼女の全身を駆け巡った。「記憶の封印……私が……自分の記憶を封印した……?」




その瞬間、これまで断片的だった夢の映像が、 線のように繋がり始めた。白髪と赤い瞳を持つ少女。迫害される人々を匿うために創造された白亜の都市。そして、 最後に彼女を裏切った人々の冷たい 目。街を飲み込む巨大な津波の恐ろしいな光景。








「私が……この世界の……創造主……?」








意識は、 重い鉄塊のように、結衣の胸に落ちた。毎晩見ていた恐ろしい悪夢は、単なる夢ではなかった。それは、彼女自身が犯した過去の過ちの記録だったのだ。自分が創造した白亜の都市を、絶望のあまり、破壊してしまったという、 冷たく重い事実が、彼女の心を深く蝕んだ。




翌日、結衣は 重い足取りで、いつもの三人が昼食をとる場所へと向かった。けんじと雪菜は、いつものように明るく彼女を迎えてくれたが、結衣の暗い表情を見て、すぐに何か普通でないことに気づいた。








「結衣、どうかしたの?顔色がすごく悪いよ」けんじが心配そうに尋ねた。








雪菜も不安げな様子で、「何かあったなら、私たちに話してごらん?」と付け加えた。








結衣は、少し躊躇した後、震える声で話し始めた。「実は…… 奇妙な夢を見ていたんだ。ずっと前から……」そして、彼女は、これまで誰にも語ることのなかった、白亜の都市の夢、そこで出会った人々の温もりと裏切り.。そして最後にこの世界の街を飲み込んだ巨大な津波の恐ろしい光景を、 慎重に言葉を選びながら二人に打ち明けた。話を聞くうちに、けんじと雪菜の明るい表情は徐々に深刻さを増していった。




全てを語り終えた結衣は、 不安げな目で二人を見つめた。








「私……もしかしたら、本当にこの世界の創造主なのかもしれない。図書館で読んだ古文書に、私の髪と瞳の色を持つ者が、 強力な力を持つ幻想魔法使いで、その代償として記憶を封印すると書かれていた……」




長い沈黙が流れた。けんじは、深刻な表情で短い声で言った。「つまり……あの恐ろしい夢は、結衣の……過去の記憶……?」雪菜は、結衣の冷たい手をしっかり握りしめ、「そんな……辛すぎるよ、結衣……」と、 震える涙声で言った。




その時、けんじは、 難しい表情で顔を上げた。彼は、結衣の目を真っ直ぐ見つめた。「僕たちが探していた『大魔女ステラ』なんて、 最初からいなかったんだよ。」




結衣は、彼の予想外の言葉に、驚愕の目見開いた。








「え……?」












けんじは、 静かに頷いた。








「実は、この世界をつくったのは、君なんだよ、結衣?」








「嘘だ!嘘だ!嘘だ!嘘だ!嘘だ!嘘だ!嘘だ!嘘だ!嘘だ!嘘だ! 嘘だ!嘘だ!嘘だ!嘘だ!嘘だ!嘘だ!嘘だ! 嘘だ!嘘だ!嘘だ!嘘だ!嘘だ!嘘だ!嘘だ! 嘘だ!嘘だ!嘘だ!嘘だ!嘘だ!嘘だ!!!なんでそんなひどいこと言うの!?けんちゃん!?」




結衣は、信じられないといった表情で叫んだ。 この世界の創造主が自分だなんて、そんな突飛な考え、 認めることできるはずがなかった。




しかし、けんじの表情は真剣そのものだった。雪菜も、心配する表情を浮かべながらも、彼の言葉に同意するように静かに頷いた。








「お兄ちゃんも、私もね、あなたに人形にされた本当の世界の住民なんだよ、結衣?」




長い沈黙が、三人の間に重く立ち込めた。結衣は、混乱と懸念で心が締め付けられるようだった。しかし、 ゆっくりと、彼女の中で、何かが変わった。毎晩見る悪夢の奇妙なリアリティ、古文書の記述、そしてけんじの誠実な言葉……それらが、 1つ1つ、ありえないはずの結論へと彼女を導き始めていた。




そして、 長く重い沈黙を破ったのは、 結衣自身だった。








「……なんてね♪」彼女は、 少し微笑んで言った。








「そんな気はしてたんだ。私の幻想魔法なら、そんなこともできるんじゃないかなって。それに輪廻転生の呪いの魔法を解けるのは、魔法をかけた本人だけだろうからね」








彼女は、自らの言葉を確かめるように静かに頷いた。








「そのために、過去の記憶を見ないとだめだね?今の私には、過去の記憶がないから、解き方がわからないからね」






【日本】





あるところに、1人の少年がいました。彼の名前は、ゆう。優しくて、正義感あふれる少年です。




彼の住む世界は、日本。



(日本の首都・東京)



【雪の髪飾りと赤い宝石】



春の柔らかな陽光が、リビングの窓から差し込んでいた。白髪しろかみの高校生のゆうは、ローテーブルに広げた参考書に目を落としている。隣では、小学三年生の妹、ユイが色とりどりの折り紙を広げ、楽しそうに手を動かしていた。




「お兄ちゃん、見て!お花、できた!」




ユイが小さな折り紙の花を掲げて、満面の笑みでこちらを見た。ゆうは顔を上げ、その可愛らしい出来栄えに目を細めた。「すごいな、ユイは本当に器用だな」




「えへへ!」ユイは照れたように笑い、次は何を作ろうかと折り紙の束を漁り始めた。ゆうにとって、この妹の無邪気な笑顔は、日々の小さな憂鬱を吹き飛ばしてくれる魔法のようだった。






ゆうの白髪と赤い瞳は、生まれたときからのものだった。幼い頃は、珍しいね、と物珍しげに見られる程度だったが、成長するにつれて、周囲の視線が気になるようになった。特に思春期に入ってからは、自分の外見が普通ではないことに、強いコンプレックスを抱くようになった。学校では、避けられていると感じることも少なくなかった。




そんなゆうにとって、ユイは全く特別な存在だった。彼女は、兄の特異な外見を、まるで美しいものを見るように純粋な瞳で見つめた。「お兄ちゃんの髪の色、雪みたいで綺麗!触ってもいい?」「赤い目、宝石みたい!キラキラしてる!」




ユイの言葉は、ゆうの心に温かい光を灯してくれた。彼女の無邪気な愛情だけが、ゆうの抱える小さな棘を優しく包み込んでくれるようだった。




ある日のこと、ユイは自分の宝箱から、小さなビーズのついたヘアゴムを取り出した。「お兄ちゃんにあげる!」




「え? いいのか?」




「うん!お兄ちゃんの白い髪につけてほしいの。きっと、すっごく似合うよ!」






ユイのキラキラとした瞳に、ゆうは何も言えなくなった。妹の優しい気持ちが、胸にじんわりと広がった。少し照れながらも、ゆうはユイからヘアゴムを受け取ると、妹の小さな頭を撫でた。




それからというもの、ゆうは時々、ユイにもらったヘアゴムを鞄につけるようになった。それは、妹の愛情の証であり、自分を肯定してくれる存在がいるという、小さな希望の光だった。




ユイが小学校に入学して初めての運動会の日。ゆうは、少しでも妹の近くで見守ってあげようと、人混みの中、妹を探した。ユイは、小さな体を目一杯に使って、一生懸命に走っていた。




その時、近くにいた母親たちのグループが、ゆうの白髪を見て、ひそひそ声で噂話しているのが聞こえた。「あの子、髪の色、珍しいわね」「何か遺伝的なものがあるのかしら」「ちょっと怖い感じもするわね」。




ゆうの心に、チクリとした痛みが走った。やはり、自分は普通ではないのだと、改めて突きつけられたような気がした。




しかし、その時だった。ゴールテープを切ったユイが、満面の笑みでこちらに向かって手を振ってきた。「お兄ちゃん!見た?私、頑張ったよ!」






その笑顔は、周囲の (ささやき声など、全てを吹き飛ばすほどの力を持っていた。ゆうは、精一杯の笑顔で手を振り返した。「ああ、見たよ!ユイ、すごく速かったぞ!」




ユイの隣には、彼女の友達が数人集まってきていた。「ユイのお兄ちゃん、髪の色、本当に白くて綺麗!お人形さんみたい!」




友達の純粋な言葉に、ゆうは驚いた。以前なら、 敬遠するような視線ばかりだったのに。ユイは得意げに胸を張った。「そうでしょ!私のお兄ちゃん、かっこいいんだもん!」




その時、ゆうは気が付いた。 自分の外見をどのように判断するかは、自分次第なのだと。そして、何よりも大切なのは、自分のことを純粋な心で見てくれる家族や、友達の存在なのだと。




夕焼けが空を茜色に染める頃、ゆうはユイと二人で家に帰っていた。ユイは、運動会でもらったメダルを誇らしげに胸につけて、スキップしながら歩いている。ゆうは、少し前の母親たちのひそひそ話を、もう気にはしていなかった。隣を歩く妹の温かい存在が、ゆうの心を優しく包み込んでいたからだ。




「お兄ちゃん」




ふと、ユイが立ち止まり、ゆうを見上げた。その瞳は、夕焼けの色を映してキラキラと輝いていた。「お兄ちゃんの髪、やっぱり、世界で一番綺麗だよ。雪の髪飾りみたい!」




ゆうは、ユイの純粋な言葉に、心の底から温かいものが込み上げてくるのを感じた。 近くにいる大切な妹の存在こそが、自分にとって何よりも大切な宝物だと、ゆうは改めて思ったのだった。




彼は、日頃から、ネット、新聞、テレビなど世界情勢について、とても興味を持っていました。




「なんで?みんな、仲良くできないんだろう?戦争、テロ、迫害。同じ、みんな、人間なのにさぁ。」




少年の学生生活は、いたって普通。勉強が得意なわけでもなく、運動が得意なわけでもなく。



「あ〜あ〜。俺に、魔法の力でもあったらな〜。」



【薄紅色のデジャヴュ】



春の柔らかな陽射しが、教室の窓から差し込んでいた。隣の席のさくらは、シャーペンをくるくると回しながら、退屈そうに頬杖をついている。彼女の短い髪が、光を受けてほんのりと輝いていた。






「ねえ、ゆう」






不意に、さくらが声をかけてきた。その明るい声は、教室のざわめきの中でもよく通る。




「ん? どうしたの、さくら」




ゆうは教科書から顔を上げ、彼女を見つめた。さくらは、いたずらっぽく目を細めて笑った。




「なんか今日、ゆう、ぼーっとしてない? 大丈夫?」




「え? ああ、うん。ちょっと考え事してただけ」




本当は、昨夜も見た奇妙な夢のことが頭から離れなかったのだ。白亜の都、見慣れない花々、そして何よりも、胸を締め付けるような白髪の少女の悲しみ。夢の中の光景は鮮明で、まるで本当に自分が体験したことのように感じられた。




「ふーん。ま、いっか。ねえ、放課後さ、新しいカフェができたんだって。一緒に行かない?」




さくらの誘いに、ゆうは小さく笑った。「いいね、行こうか」




さくらは、ゆうにとって特別な存在だった。明るく誰にでも優しく、一緒にいると心が安らいだ。彼女と話していると、時折襲ってくる奇妙な感覚や、夢のことも忘れられた。




放課後、二人は噂のカフェへと向かった。白い壁に木製の家具が置かれた、落ち着いた雰囲気の店内で、ゆうはブレンドコーヒー、さくらはストロベリーパフェを注文した。




「ここのパフェ、すっごく美味しいんだよ!」




さくらは、キラキラとした瞳でパフェを見つめながら言った。ゆうは、そんな彼女の笑顔を見ているだけで、心が温かくなった。








「よかったね」






他愛ない会話をしながら、ゆったりとした時間が流れていく。しかし、ふとした瞬間、ゆうは奇妙な感覚に襲われた。カフェの窓から見える夕焼けの色、店内に流れる優しい音楽、そしてさくらの笑顔。それら全てが、どこか懐かしいような、それでいて初めて見るような、不思議な感覚だった。まるで、過去に同じような光景を見たことがあるような……。




(この夕焼けの色……どこかで……)




ゆうは、胸の奥に湧き上がる微かなざわめきを感じた。それは、昨夜の夢の中に見た夕焼けの色に、どこか似ている気がした。




「ゆう? どうしたの? 顔色、ちょっと悪いよ?」




さくらの心配そうな声に、ゆうはハッとした。「あ、ごめん。なんでもないよ」




彼は、湧き上がってきた奇妙な感覚を打ち消すように、コーヒーを一口飲んだ。苦味の奥にあるほのかな甘さが、現実へと引き戻してくれるようだった。




帰り道、二人は並んで歩いた。さくらは、今日あった面白い出来事を楽しそうに話している。ゆうは、それに相槌を打ちながらも、心の片隅では、あのデジャヴュのような感覚が引っかかっていた。




(あの夢は、一体何なんだろう……)




空を見上げると、薄紅色の夕焼けが広がっていた。その色を見た瞬間、ゆうの胸に、言いようのない切なさが押し寄せてきた。まるで、遠い昔の誰かの悲しみが、自分の心に流れ込んでくるような感覚だった。




「さくら……」




思わず、彼女の名前を呼んだ。さくらは、不思議そうな顔で振り返る。




「どうしたの、ゆう?」




ゆうは、言葉を探したが見つからなかった。ただ、彼女の優しい笑顔を、じっと見つめることしかできなかった。




「……なんでもない。ただ、一緒にいられて、よかったなって思っただけ」




さくらは、少し照れたように微笑んだ。「私もだよ」




二人の間には、しばしの沈黙が流れた。薄紅色の夕焼けが、二人の影を長く伸ばしていた。ゆうは、まだ解けない夢の欠片を抱えながら、隣を歩くさくらの温かさをそっと感じていた。いつか、この奇妙な感覚の正体を知る日が来るのだろうか。そして、その時、自分とさくらの関係はどうなってしまうのだろうか。そんな不安が、ゆうの胸の奥に、小さな影を落としていた。




それでも、今はただ、このかけがえのない時間を大切にしたいと、ゆうは強く思った。さくらの笑顔が、今の彼にとって、何よりも大切な光だったから。







ゆうは、その日も浅い眠りの中で、どこか遠い世界の光景を見ていた。白亜の都、見たこともない花々、そして、悲しみに暮れる白髪(しろかみ)の少女。


それはまるで、鮮明な夢のようでありながら、同時に、決して忘れることのできない強烈な感情を伴っていた。


毎晩のように繰り返される奇妙な夢。その理由を、ゆうはまだ知る由もなかった。遠い過去の少女の魂の叫びが、時を超えて、ゆうの意識の片隅に響き始めていたのだ。


ゆうは、時折、ふとした瞬間に、まるでデジャヴュのような感覚に襲われることがあった。見慣れない装飾の施された建物、聞いたことのない言語、そして、胸を締め付けるような孤独感。それらは、彼の日常とはかけ離れた、遠い記憶の断片のように思えた。


特に、白髪(しろかみ)の少女の悲しい瞳が、鮮明に彼の脳裏に焼き付いていた。それは、彼の魂の奥底に眠る、忘れ去られた過去の記憶の断片だったのかもしれない。


(大勢の男たちが、俺の体を触ってくる。貪り食うように、憎悪に満ちた表情と満足げな表情で。大勢の女たちは、冷めた表情で、俺を見おろすだけ。なんで俺、こんなでかい胸あるの?何で、俺、胸なんか揉まれてるの?なんで俺、股に、違和感を感じてるの?何で、俺、女なの?)




焼けるような痛みが、全身を貫いた。誰かの汚れた手が、抵抗する俺の腕を強く掴む感触が蘇る。耳元で響く、下卑た笑い声。ゆうは、頭を抱えて蹲(うずくま)った。『違う、これは俺の記憶じゃない!』しかし、魂の奥底から湧き上がる悲しみと怒りは、現実味を帯びて彼を蝕んでいく。


その瞬間、とてつもなく膨大な巨大な大量の白髪(しろかみ)の少女としての記憶が彼をおそいました。




「わぁあ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」





その瞬間、ゆうの意識が急激に揺らいだ。まるで地殻がずれるように、彼の中の何かが大きく動き、体の中心から波紋が広がっていくのを感じた。


「ぁ...」


彼の顔から血の気が引き、膝から崩れ落ちる。額に浮かんだ冷や汗が頬を伝い落ちていく。

最初は小さな光の粒のように、断片的な記憶が浮かんでは消えた。白い髪、水晶のような都市、そして数え切れないほどの悲鳴。それらが徐々に繋がり始め、記憶という名の洪水が彼を飲み込んでいく。



「違う...これは...私は...」



ゆうの視界が歪み、目の前の風景が溶け始めた。代わりに見えてきたのは、かつて自分が創り上げた白亜の都市。そして、自分が白髪(しろかみ)の少女であったこと。あの日、大切な人々から受けた裏切り。そして、その後の耐え難い屈辱と絶望。


「あぁ...そうだったんだ...」



彼の体が細く、華奢なものへと感覚的に変化していくようだった。太く低かった声が、徐々に繊細な少女の声へと変わっていく。男であるというアイデンティティが、白髪の少女・みゆきというものに上書きされていくのを感じた。


「私は...みゆき...」



歪んだ視界の中、彼女の手のひらを見つめる。それは少年の手ではなく、繊細で白い、少女の手だった。指先が震え、何かを掴もうとするように空を掻き、そしてゆっくりと握り締められた。


「みんな...嘘だったんだ...」


涙が零れ落ち、足元に小さな水たまりを作る。それは現実の涙なのか、記憶の中の涙なのか、もはや区別がつかなかった。体の震えが止まらない。しかし、その震えは次第に怒りへと変わっていった。


「私が...私がどれだけ...」


彼女の周りの空気が震え始め、淡く青白い光が彼女の体から放射状に広がった。忘れていた力、幻想魔法の力が再び彼女の中で目覚め始めていた。


「何もかも...嘘だったのね」


みゆきはゆっくりと顔を上げ、目の前の世界を見据えた。もう迷いはなかった。この偽りの世界と、過去の記憶。全てを受け入れ、そして次に何をすべきかを彼女は知っていた。


「全てを...思い出した」


彼女の目に宿った決意の光が、この偽りの世界を照らし出した。




(温かい思い出)


「両親も友達も学校生活も全て嘘。嘘だったかもしれない。でも、幸せだった。今まで、味わったことのないほど。みんな、人間という名の人形だったかもしれない。でも、みんなとても優しかった。そこに、嘘はないと思う。」




白髪(しろかみ)の少女である、ゆうは、幻想魔法で作った人形の呪いの魔法を解きました。




夜明けがきました。




みんな、人形から、解放され、自由になりました。


その後、みゆき・トレント・ヘクマティアルは、名前をあやの・トレント・ヘクマティアルに変えて、自分の王国をつくり、自分を護衛してくれる親衛隊を幻想魔法で、作り出しました。


新しい王国で、あやのはかつて自分を傷つけた人々とも、少しずつ言葉を交わすようになっていた。


最初は恐怖と嫌悪感でいっぱいだったが、彼らが過去の行いを後悔し、償おうとしている姿を見るうちに、あやのの心にも変化が訪れる。


「あの時の絶望は、確かに私を深く傷つけた。でも、彼らもまた、あの歪んだ世界の犠牲者だったのかもしれない…」


ある日、かつて自分を陵辱した男が、涙ながらに謝罪してきた。あやのは、彼の震える肩にそっと手を置いた。


「もう、大丈夫です。あなたも、辛かったでしょう?」


その言葉は、許しというよりも、共に苦しみを乗り越えようとする、あやのの新たな決意の表れだった。


この新しい王国で、彼女に絶望を与え、世の中の厳しさを教え、また、優しさを教えてくれたみんなとあやのは、一緒に幸せに暮らしました。



(生まれ変わった白髪(しろかみ)の少女と新しい王国)




(生まれ変わった白髪(しろかみ)の少女とみんな)


あやのの言葉は穏やかだったが、その奥には微かな揺らぎが見えた。


「今は、あの時の人たちのことも、許そうと思っています。全てを受け入れた、あの瞬間から、もう切り離せない存在になったのだと…そう思うようにしています。」


夫婦の寝室で、2人は肌を重ねる。


温かい夫の手に包まれながら、あやのはふと、過去の冷たい感触を思い出す。


小さな吐息とともに、その記憶をそっと押しやった。


あやの:「本当に、これで良かったんだよね…?」


心の奥底では、まだ時折、過去の痛みが疼く。それでも、隣にいる温かい存在を感じるたびに、あやのはゆっくりと息を吐き出す。


あやのは、夫の温かい胸に身を委ねる。


過去の屈辱的な記憶が蘇りそうになるたびに、夫は優しく彼女を抱きしめ、温かい言葉を囁く。


「生まれてきて良かった…」あやのは、心の底からそう思う。過去のセックスは、ただ苦痛と絶望しかなかった。


しかし、今の夫との触れ合いは、温かく、優しく、そして何よりも愛に満ちている。


それでも、完全に過去の影が消えたわけではない。時折、恐怖がよぎることもある。だが、夫の愛情深い眼差しと、ゆっくりと重ねられる唇に、あやのは少しずつ、過去の傷を癒していく。


これは、彼女にとって初めて感じる、真の意味での幸福な繋がりだった。


あやの:「こんな幸せなセックスは、初めて。」


彼女は、大人になり、現在は、夫と2人の子どもと共に暮らしている。庭で遊ぶ子供たちの笑い声を聞きながら、あやのは穏やかな微笑みを浮かべる。


以前は、他者の視線に怯え、自分の過去を隠すように生きてきた。しかし、今の彼女は、夫の優しい眼差しや、子供たちの無邪気な笑顔に触れるたびに、少しずつ心の傷が癒えていくのを感じている。


時折、過去の悪夢にうなされることもある。そんな夜は、夫が優しく抱きしめ、朝が来るまでそばにいてくれる。その温もりに包まれ、あやのは再び眠りにつくことができる。


過去の記憶は消えないけれど、今の彼女には、それを乗り越えるための強さと、愛する人たちの支えがある。



顔の刻印は、夫のものという証


(生まれ変わった白髪(しろかみ)の少女)



(お風呂でリラックスする大人になった白髪の少女)



(夫とのひととき)



(お昼寝をする母と娘)








【再会】




あやのがアストレア王国を統治し、人々の生活がゆっくりと安定を取り戻しつつある頃。王宮に、見慣れない美しい女性が現れます。どこか神秘的な雰囲気を纏い、落ち着いた物腰のその女性は、あやのを見るなり、瞳に熱い光を宿し、優しく微笑みます。




「あやの…、私の可愛い妹」




突然の言葉にあやのは戸惑いを隠せません。彼女には姉の記憶などなかったからです。しかし、その女性の瞳の奥にある深い愛情と、どこか懐かしいような感覚に、心の奥底が微かに震えます。




姉は、世界改変の瞬間に、その空間操作能力によって、歪んだ世界の干渉を受けずに済んだ唯一の存在でした。妹が作り出した人形の世界を外から見ており、いつか妹が真実に気づき、世界を解放してくれることを信じて、その時を待っていたのです。解放後、妹を探し続け、ようやく再会を果たしたのでした。




【世界の状況と統治への疑問】




人形の世界から解放された人々は、初めは混乱し、戸惑っていました。しかし、時間の経過とともに、失われた記憶を取り戻し、それぞれの人生を再び歩み始めています。あやのの穏やかな統治と、人々の自立を促す政策によって、世界は徐々に活気を取り戻していました。




しかし、あやのの心には拭えない疑問がありました。かつて世界を守ってきたのは王族であり、その血を受け継ぐ自分と姉こそが、再び世界を導くべきではないか、と。解放された人々の中には、王族ではない平民が政治の中枢を担うことに不安や不満を抱く者も少なからずいました。




姉もまた、妹と同じように王族としての責任を感じていました。彼女の空間操作能力は、世界の均衡を保つほどの力を持つ故に、その責任はより重いものでした。




「あやの、私たちは、この世界を守る使命を負っている。かつての過ちを繰り返さないためにも…」




姉の言葉は、あやのの胸に深く響きました。




【姉の能力と姉妹の関係】




姉の空間操作能力は、想像を絶するものでした。離れた場所に瞬時に物を移動させるのはもちろん、空間そのものを歪めたり、遮断したり、繋げたりすることも可能でした。その力は、災害からの復興、資源の効率的な輸送、そして何よりも世界の平和維持に不可欠なものでした。




姉は、再会した妹を心から愛していました。人形の世界で苦しんだ妹を抱きしめ、その小さな肩を優しく撫でます。




「辛かったね、あやの。もう大丈夫だよ。私が、ずっと一緒にいるから」




姉の温かい言葉と、包み込むような愛情に、あやのの凍てついていた心がゆっくりと溶けていくのを感じました。姉の存在は、あやのにとって、失われた家族の温もりであり、何よりも心強い支えとなりました。




【新たな統治】




あやのと姉は、それぞれの立場から世界を統治していくことを決意します。あやのは、これまで通り、人々の生活の安定と心のケアを中心に、慈愛に満ちた政治を行います。一方、姉は、その強大な空間操作能力を活かし、世界のインフラ整備、災害対策、そして平和維持に尽力します。




二人は互いに協力し、補い合いながら、より良い世界を目指します。王族としての知識と経験、そして何よりも民を思う心。姉妹の連携によって、世界は新たな安定と繁栄の時代を迎えることになります。




しかし、かつて王族に迫害された歴史を持つ人々の中には、再び王族が世界の中心となることに警戒感を抱く者もいます。あやのと姉は、そのような人々の声にも真摯に耳を傾け、対話を重ねることで、信頼関係を築いていこうとします。




姉の空間操作能力は、時に人々に畏怖の念を抱かせますが、彼女の優しさと、妹への深い愛情に触れるうちに、人々は次第に彼女を信頼するようになっていきます。




そして、あやのと姉は、かつての悲劇を繰り返さないために、魔法の力を持つ者と持たない者が互いに尊重し合い、共存できる社会の実現を目指すのです。




この新たな世界で、あやのは、姉というかけがえのない存在を得て、過去の傷を癒しながら、愛する人々と共に、穏やかな幸せをゆっくりと育んでいくことでしょう。そして、姉と共に、この世界を末永く守り続けていくのです。





【白亜の夢、知識の灯火】(白髪の少女の女教師時代と魔法を使えない者達のお話)




世界の片隅に、アルファ・トレント・ヘクマティアルという名の白髪の少女がいた。両親を早くに亡くし、みゆき・トレント・ヘクマティアルと名を変えて14歳になった彼女は、孤独の中で生きていた。その髪は雪のように白く、瞳は赤い色をしていた。




古代に栄えた魔法都市では、魔法を使えない者は迫害されていた。みゆきは、魔法を使えない苦しむ人々のために、強大な幻想魔法で巨大な都市を創造し、彼らを匿った。朝日にきらめき、夕焼けに染まる白亜の都は、魔法を持たない者たちの希望の象徴だった。




都市の中央に輝くクリスタルからエネルギーを得て、人々は穏やかに暮らしていた。みゆきは、彼らの心の声に耳を傾け、誰もが安心して生活できるよう気を配った。




しかし、みゆきは、ただ彼らに安寧を与えるだけではなかった。彼女は、自らが持つ膨大な知識を、未来を担う子供たちに伝えたいと願っていた。かつて、家の書庫で独学で学んだ天文学、歴史、哲学、そして様々な技術。それらは、魔法が使えない彼らにとって、世界を知り、生きるための大切な灯火となるはずだった。




学舎は、都市の一角に建てられた簡素な木造の建物だった。そこで、みゆきは教壇に立ち、子供たちに言葉を紡いだ。彼女の語る世界の成り立ち、文字と数の起源、動植物の生態。その一つ一つには、悠久の時の重みが宿っていた。




「空に輝く星々は、遠い昔から変わらず私たちを見守っています。それぞれの星には名前があり、物語があります。夜空を見上げれば、私たちは決して一人ではないと知ることができるのです。」




「文字は、私たちの想いや知識を未来へと繋ぐための大切な道具です。一つ一つの線には意味があり、組み合わせることで、無限の物語が生まれます。」




みゆきの授業は、一方的な講義ではなかった。彼女は、子供たちの疑問に丁寧に答え、時には戸外に出て、自然を観察することもあった。花の色、葉の形、土の匂い。五感を通して世界を感じる喜びを、彼女は教えようとした。




子供たちは、最初は戸惑っていた。魔法が全ての世界で生きてきた彼らにとって、魔法を使わない生き方は想像もつかなかった。しかし、みゆきの熱心な教えと、優しい眼差しに触れるうちに、次第に心を開き始めた。





(教鞭をとる白髪しろかみの少女)




「先生、どうして私たちは魔法が使えないんですか?」




ある子供の素朴な質問に、みゆきは悲しみを湛えた瞳で答えた。「それは、生まれた時の偶然です。でも、魔法が全てではありません。あなたたちには、魔法とは違う、素晴らしい力があります。それは、考える力、感じる力、そして、共に生きる力です。」




彼女は続けた。「知識は、あなたたちの翼になります。世界を知り、理解することで、魔法の有無に関わらず、自分の足で立ち、未来を切り開くことができるのです。」




みゆきの教室には、次第に活気が満ちていった。子供たちは、目を輝かせながら彼女の言葉に耳を傾け、積極的に質問をするようになった。彼女の教えは、彼らの心に希望の種を蒔き、知的好奇心の芽を育てていった。




しかし、そんな穏やかな日々にも、ゆっくりと暗雲が立ち込めていた。




ある日、見慣れない男が街に現れ、人々に囁き始めた。「あなた方の本来持つべき魔法の力は、あの白髪の娘の幻想魔法によって奪われているのです!」




男の言葉は、魔法が使えないことへの不満を抱えていた人々の心に、小さな火種を灯した。最初は小さな囁きだったものが、次第に大きな噂となり、人々の間に疑念と不信感が広がっていく。




みゆきは、子供たちの学ぶ意欲が薄れていくのを感じていた。街の大人たちの間に漂う不穏な空気が、子供たちの心にも影を落としているようだった。




「先生、先生は本当に私たちの魔法を奪ったんですか?」




不安げな表情で尋ねる子供に、みゆきは優しく微笑んだ。「大切なのは、誰かの言葉に惑わされるのではなく、自分の目で見て、自分の頭で考えることです。あなたたちが学んでいる知識は、そのための助けになるはずです。」




しかし、男の言葉は、日増しに人々の心を蝕んでいった。「紫紅姫むらさきべにひめという禁断の魔法で、他者の魔法力だけでなく、その時の記憶までも奪い取るというではありませんか!」




疑念は憎悪へと変わり、かつてみゆきに感謝していた人々は、次第に彼女を敵意の目で見るようになっていった。




そして、ついにその日はやってきた。夕暮れ時、みゆきがいつものように学舎から出てきたところを、険しい表情の群衆が取り囲んだ。「おい⋯。女⋯。」




彼らの目は、かつての感謝の色を失い、憎悪と疑念に染まっていた。みゆきは、彼らの変わりように言葉を失った。「み、皆さん…どうしたんですか…?」




しかし、彼女の問いかけに答える者は誰もいなかった。次の瞬間、群衆の手が、みゆきへと伸びてきた。「いや〜あ〜!やめて!やめて!やめてよ!みんな!やめてよ!やめて!やめてったらー!!!⋯⋯⋯⋯。⋯⋯⋯⋯やめてください⋯。おねがいします⋯。お願いですから⋯。⋯⋯⋯⋯。」




知識の灯火を掲げ、子供たちの未来を照らそうとした白髪の少女に、残酷な運命が迫っていた。彼女の悲痛な叫びは、かつて彼女が創造した美しい幻想都市に、深く暗い影を落とした。




おまけ




【白き幻想】




魔法都市エルデニアは、煌びやかな魔法が飛び交う裏側で、禁忌を抱えていた。魔法を持たぬ者は人にあらず。迫害と差別の果てに、処刑という名の断罪が日常的に行われていた。そんな絶望の中で、一筋の光が灯る。白髪に赤い瞳を持つ少女、みゆき。彼女は、自らの幻想魔法で創り上げた巨大な都市に、魔法を持たない人々を匿い、静かに暮らしていた。相手の心からの承諾を得て、事象、存在、能力を吸収し、己の力に変える。想像を具現化する力。それは、迫害された者たちにとって唯一の希望だった。


しかし、エルデニアの支配体制は、その静かな楽園を許さなかった。盤石な支配を誇示するため、悪意に満ちた噂が広められる。匿われている者たちへの疑念、そしてみゆきへの恐れ。その暗い感情は、やがて暴走へと変わり、みゆきは信じていた者たちから想像を絶する凌辱を受ける。絶望の淵で、彼女の心は深く傷つき、世界への信頼は音を立てて崩れ落ちた。





【魔法都市エルデニアの闇】





エルデニアの実態を暴きたい。虐げられる人々の真実を知りたい。みゆきは、幼い正義感を胸に、単独で隠密調査を開始する。白のキャミソールドレスに、同じ色のフード付きコートをまとい、街へと繰り出した。しかし、その異質な容貌は、否が応でも人々の目を引いた。白髪と赤い瞳は、エルデニアにおいて忌むべき存在の象徴。潜入というには、あまりにも無謀で、幼い考えだった。


調査の末、みゆきは都市の外れにひっそりと佇む廃墟を発見する。それは、かつて人体実験が行われていた場所だった。足を踏み入れると、鼻をつく腐臭と、無造作に転がる夥しい数の死体に、みゆきは息を呑む。不死の軍団を創り出すという狂気の実験。失敗したのか、原型を留めない肉塊があちこちに散らばっている。そして、床には異様な光を放つ、巨大な赤い魔法陣が描かれていた。見たこともない複雑な紋様が、禍々しい力を宿しているように感じられた。


この場所で何が行われていたのか。エルデニアの闇の深さに、みゆきは慄然とする。しかし、この行動こそが、魔法都市が彼女を陥れる決定的な動機となる。禁忌に触れた者への容赦なき排除。みゆきの存在は、エルデニアの隠蔽された悪事を暴く可能性を秘めていた。彼女が見たものは、決して見過ごされることはない。


やがて、みゆきは、絶望を遥かに超える悲劇的な運命へと突き落とされる。彼女の存在は、今やエルデニアにとって脅威でしかない。白き髪の少女が見た真実は、彼女自身を破滅へと導く導火線だったのだ。赤い瞳に映る未来は、絶望の色に染まり、この残酷で非情な世界では、二度と輝きを取り戻すことはなかった。幻想都市は、崩壊した。



【回想終わり】




しかし、歴史の真実が明らかになろうとしている今、彼女は再び過去と向き合わざるを得なくなっていた。白亜の都市の理念は、今の支配体制を根本的に否定する。もし、その真実が広く知られれば、世界は再び混乱に陥るかもしれない。




あやのは、イグニシェールの幹部たちを個人的に召集した。「白亜の都市に関する全ての情報を、完全に統制せよ。研究者たちの動きを監視し、必要であれば…排除も辞さない。」




彼女の声は凍てつくようであり、 千年の長い時間が磨き上げた鉄の意志を感じさせた。しかし、その冷たい声の奥には、微かなためらいが 隠されていた。かつての自分の理想を否定することは、彼女自身を否定することに他ならないからだ。




イグニシェールは疑問を持つことなく命令に従い、歴史研究者たちへの圧力は激しくなっていった。研究資料は没収され、研究活動は強制的に停止された。エマやヨハンや他の主要な研究者たちは、監視下に置かれた。




しかし、真実は完全に封じ込めることはできない。エマたちは、 禁止区域にひそかに研究室を設け、秘密裏に研究を続行していた。そして、彼らはついに、白亜の都市が滅亡した真の原因に辿り着く。それは、外部からの侵略などではなかった。都市の内部からの崩壊――人々の間の不信、差別、そして暴力が、 純粋な理想郷をゆっくりかつ着実に蝕んでいったのだ。




その真実を知った時、エマは深い衝撃を受けた。白亜の都市は、まさに現代の世界が抱える問題を提起していたのだ。そして、あやのが世界を管理しようとする本当の動機も、そこにあるのではないかと彼女は考えた。彼女は、かつての失敗を繰り返したくないのだ。 純粋な理想は、人々の弱さによって破壊されることを知っているからこそ、力による管理を選んだのだ。




しかし、その管理は、人々の自由と個性を残酷に奪っている。本当に、それが正しい道なのだろうか?エマは、あやのの千年の孤独と苦悩を想像し、複雑な感情に苛まれた。




一方、「白亜の遺志を継ぐ者たち」は、エマたちの発見した真実を知り、行動を開始した。彼らは、秘密裏にネットワークを構築し、白亜の都市の理念、自由と平等の理想主義を人々に伝えようとしていた。 禁書の隠しコピーが出回り、古代の歌や物語が地下で配布されていった。




その動きは、 ゆっくりではあるが、着実に人々の心に火を灯し始めていた。管理された千年の静けさの表面化で、 変化の兆しが静かに 広がりつつあった。




ついに、エマたちは、白亜の都市の中央に存在したとされる巨大なクリスタルの隠された場所を突き止めた。古代の文献によれば、そのクリスタルは都市のエネルギー源であり、人々の心を繋ぐ シンボルだったという。もし、そのクリスタルを発見し、その力を活性化することができれば、世界を変えることができるかもしれない。




しかし、その場所は、あやのの最も厳重な監視下に置かれていた。王宮の深いに場所に位置し、イグニシェールの無数の目が それを守っていた. 侵入はほぼ不可能だった。




それでも、エマたちは諦めなかった。「白亜の都市の理想は、決して消してはならない。たとえ、それが千年の時間を経て歪んでしまったとしても、その純粋な思いは、今の世界に必要な光なのだ。」




エマたちは、「白亜の遺志を継ぐ者たち」と接触を取り、共同でクリスタルへの侵入作戦を計画した。それは、あやのの千年の支配に対する、 決定的な挑戦だった。




決戦の夜、月は赤色に染まっていた。エマをリーダーとする研究者たち、そして「白亜の遺志を継ぐ者たち」のメンバーたちは、 隠されたルート を経由して王宮への侵入を開始した。彼らの胸には、 古代の理想への希望と、未来への情熱が燃えていた。




一方、あやのは、全てを把握した上で、静かにその時を待っていた。彼女は、 千年の時間の中で、何度も自問自答を繰り返してきた。管理された平和は、 本当に幸福なのか?かつての純粋な願いは、本当に間違いだったのか?




王宮の地下で、エマたちはついに巨大なクリスタルを発見した。それは、 古代の記録に残されていた通り、青い光を 静かに 放っていた。しかし、 千年の長いの時間の中で、その輝きはいくらか鈍くなっているようにも見えた。




その時、あやのが姿を現した。彼女は寂しそうであり、千年の時間が彼女に与えた重圧を背負っているようだった。彼女の白い髪は、月の光を受けて白銀に輝き、赤い瞳は深い悲しみを湛えていた。









「なぜ、禁じられた過去を暴こうとするのですか?」彼女の声は、千年の沈黙を破るように、静かに響いた。「それは、再び混乱と破滅を招くだけです。」




エマは、 断固とした眼差しであやのを見つめ返した。「私たちは、真実を知りたいのです。あなたが、かつて純粋な理想を抱き、この世界をより良くしようとした少女だったことを知っています。なぜ、あなたは変わってしまったのですか?」




あやのの瞳に、一瞬の揺らぎが見えた。「世界は…純粋な理想だけでは救えない。人々の弱さ、醜さ、裏切り…。私は、もう二度と、あの残酷な絶望を味わいたくないのです。」




「しかし、あなたの今のやり方は、人々の自由と希望を奪っています!」若い反逆者のリーダーが、断固とした声で叫んだ。「白亜の都市の理想は、過ちから学び、再び純粋な世界を目指す勇気を与えてくれるはずです!」




あやのは静かに 首を横に振った。「甘い希望ですわ。人々は、 繰り返す。同じ過ちを。私は、それを許さない。」




その時、クリスタルが弱いながらも輝きを増した。 古代の記憶、白亜の都市の純粋な思いが、 千年の時間を超えて、人々の心に静かに 語りかけてくるようだった。




あやのは、苦悶の表情を浮かべた。彼女の中で、千年の支配者の論理と、かつての純粋な少女の感情が、激しく矛盾していた。




「これは… 私の創った… 希望の光…」




彼女の唇から、かすかな呟きが漏れた。その瞬間、彼女の周りの空気が振動し始めた。 千年の時間の中で封印されていた、彼女自身の古代の記憶が、目覚めはじめていたのだ。




世界規模の戦争が始まるのか。それとも、新たな未来への対話が始まるのか。それは、まだ誰にも分からなかった。ただ一つ言えるのは、かつて純粋な願いを抱いた一人の少女の記憶が、千年の時間を超えて、再び世界を揺るがそうとしているということだった。そして、その少女の心の奥底には、まだ消えかけてはいるものの、かすかな純粋な思いが残っているかもしれない、ということだった。








【白亜の残影 - 千年の黎明 】




王宮の地下深く、青白い光を放つ巨大なクリスタルの前で、千年を生きる女王あやのは、静かに佇んでいた。彼女の白い髪は、クリスタルの光を浴びて一層輝きを増し、赤い瞳は、かつてのような冷たさではなく、深い思索の色を宿していた。




エマの言葉、そして若い反逆者たちの叫びは、彼女の千年の孤独に小さな亀裂を生じさせていた。「純粋な理想は、本当に間違いだったのか?」クリスタルが微かに共鳴するたび、封印されていた過去の記憶が、彼女の心に鮮やかに蘇る。白亜の都市の建設に燃えた日々、人々との温かい交流、そして、残酷な裏切りと絶望。




その夜、あやのは一人、王宮の庭を歩いた。月明かりの下、白亜の花々が静かに咲いている。かつて、この花を愛でた少女の面影が、彼女の心に重なる。管理された平和は、確かに争いのない世界をもたらしたが、同時に、人々の創造性や自由な精神を奪ってきたのではないか。




クリスタルの前でのエマとの対話、そして何よりも、自らの過去の記憶との再会を通して、あやのの中で何かが変わり始めていた。鉄の意志と呼ばれた彼女の心に、再び、白髪の少女みゆきの純粋な願いが、微かに灯り始めたのだ。




数日後、王宮の広間に、世界の主要な指導者たちが集められた。固い表情で座る彼らの前に、あやのは静かに歩み出た。その姿は、かつての冷酷な女王とは異なり、どこか柔和な雰囲気を漂わせていた。




「皆さま」あやのは、深く息を吸い込み、ゆっくりと語り始めた。




「私が千年もの間、世界を管理してきたのは、過去の悲劇を繰り返させたくなかったからです。白亜の都市の崩壊…人々の不信と暴力が、あの希望を打ち砕いた。その記憶は、今も私の胸に深く刻まれています。」




会場は静まり返り、指導者たちは、千年女王の言葉に息を呑んで耳を傾けた。




「しかし」




あやのは続けた。




「クリスタルの光、そして皆さんの声を通して、私は気づきました。管理された平和は、真の幸福ではないと。人々から自由と希望を奪うことは、かつての過ちと同じ過ちを繰り返すことだと。」




彼女は、ゆっくりと頭を下げた。




「私の統治は、今日をもって終わります。今後は、皆さんと共に、自由で開かれた、新しい世界を築いていきたい。」




その言葉は、会場に大きな衝撃を与えた。千年もの間、絶対的な支配者として君臨してきた女王が、自らその座を降りると宣言したのだ。




数週間後、あやのは自らの名前を「結衣ゆい」と改めた。それは、人々の心を結び、共に未来を紡いでいくという、彼女の新たな決意の表れだった。そして、彼女は世界に向けて、新たな提案を行った。「世界防衛軍」の創設。それは、かつての軍隊のような侵略や支配を目的としたものではなく、世界全体の平和と安全を守るための、警察のような役割を担う組織だった。




結衣の提案は、最初は懐疑的な目で見られた。しかし、彼女の真摯な言葉と、過去の過ちを深く反省する姿勢は、徐々に人々の心を動かしていった。エマをはじめとする研究者たちも、結衣の変化を信じ、新しい世界の構築に協力することを誓った。




世界防衛軍の創設は、困難を伴った。各国の軍隊の再編、新たな組織体制の構築、そして何よりも、人々の意識改革が必要だった。しかし、結衣は諦めなかった。彼女は、自らの幻想魔法の力も使い、世界各地に訓練施設を設け、平和維持のための専門的な知識と技術を兵士たちに教え込んだ。




世界防衛軍の兵士たちは、かつての軍人とは異なり、市民の安全を守ることを第一に考え、法と秩序を遵守した。彼らは、紛争の調停、災害救助、そして犯罪の抑制など、多岐にわたる活動を行い、世界各地で人々の信頼を得ていった。




そして、結衣は、世界中の人々が自由に交流し、知識や文化を共有できるような、開かれた世界の実現に向けて尽力した。国境は徐々にその意味を失い、人々の移動や情報の行き来は活発になった。科学技術の発展は加速し、人々の生活水準は向上していった。




かつて、管理された静けさの中に閉じ込められていた世界は、今や、多様な文化と自由な思想が交錯する、活気に満ちた世界へと変貌を遂げていた。人々の顔には笑顔が溢れ、未来への希望が輝いていた。




結衣は、かつての白亜の都市の中央に、新たな象徴となるモニュメントを建立した。それは、崩壊した都市の白い石材と、新しい世界の希望を象徴する透明なクリスタルを組み合わせたものだった。モニュメントは、過去の過ちを忘れず、未来への教訓とするための、静かな誓いだった。




夕焼け空の下、結衣はモニュメントを見上げた。隣には、穏やかな笑顔のエマが立っている。




「結衣」




エマは優しく語りかけた。




「あなたは、本当に世界を変えたのね。」




結衣は、静かに微笑んだ。




「いいえ、エマ。変わったのは、私自身です。そして、信じてくれた皆さんのおかげです。」




かつて、絶望の淵で世界を憎んだ白髪の少女は、その過ちを深く悔い、人々の未来を照らす光となっていた。世界は、千年にもわたる夜明けを経て、ようやく、自由と希望に満ちた朝を迎えたのだ。そして、その黎明の光は、かつて純粋な願いを抱いた少女の、決して消えることのない魂の輝きだった。


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世間知らずの白髪の少女と古代魔法都市(絶望と再生の物語)「あなたが見ている世界。それは、本当に本当の世界ですか?」 🦊神宮寺結衣🦊 @AYANOtoANE

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