暗く、寒い

白川津 中々

◾️

夕暮れ、ぼちぼちと動き出し、いつもの飲み屋へ歩く。


夕陽を背に、公園を抜けてゴミだらけの路地を渡ると、掃き溜めとなっている高架線に着く。そこに建っているボロボロの家屋がそうだ。立て付けが悪くなった戸を引き中へ入ると、薄暗い灯りの奥に店主が一人いる。俺は黙って、カウンターの隅に座った。


「ビール」


酒を頼む。店主からの返事はなく、黙って瓶とグラスが置かれ、それを注ぐ。


「アテは?」


刺すような言葉に「いらない」と返すと舌打ちが響いた。

ビールをゆっくりと飲み下していると、二、三人、知った顔が入ってくる。皆、揃いも揃って貧乏くさい面をして座り、陰気に酒を注文して飲む。まるで脅迫でもされているように、酔い潰れようとしている。俺もそうだ。飲みたいわけでもないのに酒を体に入れ脳を麻痺させたいのだ。下等な店で不味く酔い、人生を切り取っている。嫁がいたら、子供がいたら、友人がいたら、こんな場所にはいないだろう。他の客もそう。貧乏が俺達を孤立させている。


「酒、なに飲む」


空になった側からそうせっつかれ、ウィスキーをストレートで出してもらった。工業用アルコールのような臭いがして酷い味だが、この店で飲むにはお似合いだった。


「貧乏人ばかりきやがる」


そう文句を言って、店主が煙草に火をつけた。

隙間風で灰が運ばれ、目の前に落ちた。俺はウィスキーを煽り、その灰を払い除けてからもう一杯頼み、それを飲む。やはり不味い。


「ごちそうさん」


グラスを置いて、金を払って出る。挨拶はない。

帰り道、沈んだ日の中で手を摩ると埃っぽく、乾燥していた。灰を払った際に汚れたのだろう。だが、だからといって気にはならなかった。どうせこの手で触るのは、自分だけなのだから。


影が広がり、体も心も凍える。

酔っていても、寒い。ずっと、毎日。

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