第2話 天海瑠璃

「しかし、何故聖女様が俺がこちらにやってくることを知ってたんだ?」


「天体の動きを読む占星術で貴方がこのダスマナ・ギウリラにやってくることを把握してました。私の名は天海瑠璃。貴方と同じ、転生者です。」


「なるほどね。俺は胡勇蔵。古風な名前だが、あまり気にしないでくれ、瑠璃さん。」


「いえいえ、風貌と一致していて素敵だと思いますよ。これから宜しくお願いいたします。」


瑠璃さんによって枷を外され、街中を歩いていた。


「しかし、何故瑠璃さんは俺を解放しようと思ったんだ?」


「それは、シンジ様が新たな魔王になることを防ぐ為です。事実を述べると、あの方は貴方という存在の片割れであり、闇の側面。そして魔王の正体は思念体で、悪意のある秀でた人間に憑依して、幾度も世界を滅亡に追いやったという伝説があります。その名はアルムドバアル。高名な悪魔バアルのレプリカであり、闇の側面と言って良いでしょう。」


「そして、その魔王が顕現するのを防ぐには、アルムドバアル復活の為に動く悪の魔族の殲滅と、アルムドバアルを封印出来る妖刀人斬り、そして勇者シンジ様の光の側面である貴方の力が必要なのです。どうか、ご協力してくれませんか、代償は何でも払います。」


「うーん、そうだな。こうしよう。瑠璃さん、俺の嫁になってくれたらいいぜ!」


「え!?」


瑠璃はあまりの唐突かつ予想外の申し出に蒸気を噴き出して赤面する。


「俺は女を知らずに子供の頃に死んでこっちに来たからなー、女の子って奴を知らんのよな。で、あんたが初めて出会った女の子で、なおかつべっぴんさんで性格も良いときた。これは逃すワケにはいかねぇ、と思ってな。こんな無頼漢で良ければ、承諾してくれるか?」


「えっと、私にとって勇蔵様は、憧れの人みたいな感じで、そういう関係になるとは予想外で、上手く整理出来てないけど、こんなふつつかもので良ければ、よろしくです...」


「おっし、決まり!よろしく、瑠璃さん!」


「はいぃ...宜しくお願いいたしますぅ...」

____________


「所で、シンジのヤローから人斬りを取り戻す算段はあるのか?」


「それに関しては、心配御無用です。魔族の長バアルの元で傭兵団を率いる隊長と、その幹部が協力してくれます。確か、合流地点はここの筈なんですが...」


そう瑠璃が呟くと、森の奥から声がした。


「おーい、そこに居るのは瑠璃さんやな?」


「あ、居ました。約束の勇者様、連れて来ましたよー!」


「おお、君があのシンジの片割れやな。ワイはルシカー。バアル軍の一番隊隊長をやっておる。君の名は?」


白髮のロングヘアーに、糸目の顔に、細身で長身の魔族だ。後、何故か関西弁。


「俺の名は胡勇蔵だ。宜しくな。」


「日本語、てことは転生者か。いや~、それは難儀な時期にやって来てしもうたな。それと、一つ質問なんやが、キミ、魔術とかは使えるん?」


「いや、身体強化すら出来ない。殆どモノノフ一族の身体能力だけで戦ってきた。」


「そうかそうか、それなら真名、マナの解放が必要やな。」


「マナって?」


「要は生命の本体、魂、アートマ、ペルソナとかと呼ばれるモノに紐づいてる名前のことや。ワイら魔族や天使族は最初からそれが名前になってるが、それ以外の一族は名が隠されてる。だからそれを取り戻すことで初めて魔術が使える。キミの特化してる能力は見た感じ、空間操作の術式と、身体強化やな。術式の方はすぐには使えんが、身体強化ぐらいだったら解放後、今すぐ出来る。どうや、やってみる気はあるか?」


「強く成れるなら、覚悟は出来てる。約束があるから、たとえ自分の道が修羅の世だとしても構わない。やってくれ。」


「ほな、やろか。瑠璃さん魔法陣作ってくれ。」


「はい、ルシカーさん。」


_____


「では、いくで。」


「ああ。」


「天の精霊、大地の精霊、あらゆる生命の護り手よ、今こそ、この者のマナを明かしたまえ!」


そうルシカーが唱えると、俺の身体は光に包まれ、口が勝手に動いた。


「わが名は天使イズラエル・リーバー。この者のペルソナ、或いはアートマとして、共に魔王を討ち果たさん。」


そう呟くと、俺の意識はいつもの自分に戻った。


「ルシカー、これで成功か?」


「成功やで。まさかユウゾーがリーバーだったとはな。」


「そいつ有名なの?」


「ああ。かつて天界であった戦争で、天使の長から大天使になる直前に、命を落とした存在やで。イズラエルってのは歴代の称号みたいなものやけど、リーバーはその初代や。物凄い力で刀を振るう豪剣使いでもあったな。」


「なるほどな、あんま実感ねぇけど、そうなんだ。あ、試しに身体強化ってヤツを使ってみるか。」


「ああ、それなら森に向かってやってや。こっちには街があるから。」


「感覚的にはどうやるんだ?」


「目の奥、脳の中心辺りに魔力を生成する場所があるから、そこを基点に強化したい場所に魔力を流し込む感じやな。とりあえず、やってみーや。」


「ああ。」


ユウゾウは言われた通りの感覚で意識した。すると、蒼い魔力がユウゾウを包み込む。


「こんな感じか。そらよっ!」


ユウゾウが刀を横に一閃、すると、かまいたちが発生し、横に並んだ樹木が10本程倒れた。


「習いたてなら中々やな。むしろ魔王と戦うなら、これぐらいじゃないと困る。」


「では、奴隷の方達の解放と、人斬りの奪取に向かいましょう。」


長い旅が始まった。




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奴隷モノノフの成り上がり録  丙勇 @dabi12

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