【創作論】設定の外側で、誰にも知られず花が咲くということ

安曇みなみ

――数字やテンプレに疲れた作家のための、小さな物語


安曇みなみと申します。

この文章は、創作論というより、創作の間で立ち止まってしまったときに、ふっと思い出していただけるような、小さな物語のようなものを書こうとしたものです。


私は普段、ディストピアSFの中でその片隅に咲こうとする小さな命や、言葉にならない祈りのようなものをテーマに書きたいと思っています。

けれど先日、いつもの自分の世界とはちょっと違う場所へ旅に出てみました。

それが「悪役令嬢もの」というジャンルでした。


タイトルは、『悪役令嬢、断罪ルートから農地に転生しました』。


そうです。PVが欲しくなったのです。

WEB小説ではすっかり定番の、婚約破棄、舞踏会での断罪、そして「ざまぁ展開」という流れです。

短編だしテンプレートだから…と制約の中でプロットを作ろうとしたのですが ―― なんかいやだ、書きたいのと違う。

ということでだんだんと話は捻じ曲がっていき、気がづけば、「物語の怨念がライトノベル編集者を断頭台に送ろうとする」お話になってしまいました。

テンプレ要素は消え去りました。


こりゃだめだ。


■ テンプレと「あらすじの声」


WEB小説を書いていると、どうしても「テンプレ」という言葉と無縁ではいられません。

テンプレは航海の地図のようなもので、作者に安心を与えます。これをなぞれば、少なくとも迷うことはない、と。


しかし、この物語の主人公・エレノアは、自分がそのテンプレのなかを生きていることに気づいてしまいます。

それどころか、彼女には前世の記憶――32歳のラノベ編集者としてテンプレを仕掛けていた自分自身の記憶――があったのです。


自分が作ったあらすじに追われる恐怖。誰かに読まれるために設計された物語が、自分自身の人生を奪おうとしている。

その矛盾に耐えられなくなったエレノアは、物語の設定そのものを飛び出し、どこにも描かれていない農地を耕し始めます。


私自身、この物語を書きながら、同じ「あらすじの声」に何度も追われました。


「もっとテンプレらしくしなきゃ」「ざまぁ展開が弱い」「PVを取れる展開に」


その声は、物語の外から絶えず迫ってくるのです。


■ それでも耕す、ということ


そんな時、主人公とともに農地に住みついた猫・ラヴィが、いい感じのことを言ってくれました。

ラヴィは主人公にこう語りかけます。


「誰かに“好かれたい”ばかりで、誰かを“好きになる”ことを忘れてないか?」

自分で書いておきながらなんですが、その問いかけに、私ははっとしました。


PVやランキングを気にするのは悪いことではありません。でも、それだけを目指して物語を書いていると、少しずつ、自分がなぜ書いているのかがわからなくなってしまうのです。

物語は本来、自分自身が好きになるために耕す畑のようなものです。

誰も見ないかもしれない。評価されないかもしれない。けれど、書き手自身がほんのひとつでも「ああ、いいな」と思える瞬間があれば、それは立派に花を咲かせているのではないでしょうか。


■ PVゼロの畑に咲く花


物語の最後で、主人公と猫が育てた小さな花が咲きます。

名前のない、誰にも知られない花。


けれど、私たちの創作とは、本当はそういうものではないでしょうか。


設定から外れた場所で、PVゼロの畑に種を撒き、ミミズに謝りながら土を耕す。そこに「好き」という気持ちがひとつでも灯ったなら、それで十分花は咲いている。

きっと、物語は誰かに読まれるためだけに存在するわけではありません。

あなたが好きになれる物語を、あなたの手で育てていく。その静かな行為こそが、WEB小説という広い世界の中で咲く、小さな祈りなのだと思います。


創作に迷った時、設定に追われて苦しくなった時、どうかこのお話を少しだけ思い出してください。


誰も知らない場所で咲いたあなたの物語が、やがてあなた自身の小さな灯りになりますように。


最後まで読んでくださり、ありがとうございました。




悪役令嬢、断罪ルートから農地に転生しました 〜あらすじに殺されかけた私は、今日も設定外を耕している〜

https://kakuyomu.jp/works/16818622172915465987



テンプレから逸脱したからダメでしたって、書こうとしてランキング見てみたら、(別プラットフォームですが)日間ハイファンタジーの短編で17位、異世界転生では8位とかになってました。なんなのでしょうね。

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