第4話 部活動
がらがらと扉を開くと、みんなの視線が俺へと集まり少し緊張してしまう。
しかし、そんな俺を助けるように部長と思われる先輩が近くに駆け寄ってきてくれた。
随分と明るい髪の毛だな。
俺はこっそりと環に耳打ちする。
「環、先輩の髪の毛って何色だ?」
「ああ、あんた見えないもんね。金髪だよ。ピンクのヘアピンも付けてる」
「そうか。ありがとう」
環は他にもプラスで、頼んでいない情報まで教えてくれた。
たまたま居合わせただけだったが、環についてきてもらって良かった。
俺の事情を知っている人間がいるだけで本当に助かる。
先輩の両手には派手なネイルが施されており、手首には意外にも質素なヘアゴム。環がいうには、茶色のカラーコンタクトも入れているらしい。
いかにもなギャルの登場に、間違えてチアダンス部の部室にでも来てしまったのではないかと一瞬困惑するも、周りを見渡してみればギャルはこの先輩ただ一人。
もしかしたら部室を間違えたのはこの先輩のほうかもしれない。
「二人とも、見学ですか?」
「はい。俺はそうです」
「私は彼の付き添いです」
環が俺の後にそう付け足した。
「おっけー。もう少ししたら活動の説明を始めるから、好きなところへ座っててください」
俺たちはギャル先輩に
思いのほか真面目に仕事をこなすギャルに、勝手に好印象を覚えてしまう。
ちらりと横に目を向けると、俺たちの他にも何人か見学に来ている一年生が見受けられ、その中にはやはり鏑木の姿があった。
「来ると思ってたよ。青柳くん」
俺たちが席に着いてすぐ、鏑木が声をかけてきた。
「鏑木さんは預言者か何かなの?」
「いやいや。だってカメラが好きなのは知ってたし」
「あー確かに。そんな話もしたね」
うんうんと鏑木は頷いている。
「その子、凪斗の友達?」
俺と鏑木が話していることに疑問を持ったのか、環が問いかけてきた。
「ああ、鏑木さんは俺と同じクラスの人で、入学式の時に話をしたんだ」
どうも〜と言いながら鏑木は小さくお辞儀する。
「そうなんだ。私、夏目環っていいます。よろしくね!」
「うん。私は鏑木彩葉です。よろしく」
二人は俺を挟んでぐっと握手をしたため、俺は後ろにのけぞる形になった。
少しは俺に気を使ってほしいものだ。
「それにしても、凪斗がこんなに早く可愛い子と友達になってるなんて。凪斗も隅に置けないねぇ」
「お前は俺をなんだと思ってるんだ」
「なにって。そりゃーストーカーかなぁ?」
「ふざけんな。あんまり変なこと言うと鏑木さんが勘違いするだろうが」
実際、一瞬だが鏑木は驚いたような表情をしていたような気がする。
その後、二人との会話もほどほどにして、活動の説明が始まった。
「じゃあ、今から活動説明を始めます。でもその前に、まずは私たちの自己紹介からしていこうかな」
先頭に立って話しているのは、先ほど俺たちを案内してくれた金髪ギャルだ。
やはりこの人が部長なのだろうか。
「私は写真部の副部長をしてまーす。
ギャル先輩こと雛宮さんは、マイクに見立てた折り畳み式の三脚を次の部員に渡す。マイクにするには流石に大きすぎる気もするが、ツッコむだけ無駄だろう。なにしろ、相手はギャルだ。
それより、この人が部長ではなかったのか。ならば、次の人が部長なのか?
マイクこと三脚を受け取ったのは、ウェーブがかった髪をした部員。この先輩はさっきのギャルとは打って変わって、お嬢様のような気品のある
「私は
なんと、喋り方までお嬢様である。名前もなんかお嬢様っぽいし。はにかむ笑顔も素敵だ。彼女はきっと、同学年の男子から高嶺の花的な存在になっているのではないだろうか。
「青柳くん。なににやにやしてるの」
隣からじとりとした視線が飛んできため、俺はできるだけ何事もなかったかのように表情を真顔に戻す。
危ない。これでは俺が美人な先輩を見てにやにやしていた奴になってしまう。
俺は意味もなくネクタイを締めなおし、ここは無視を決め込むことにした。
そんなことをしているうちに、最後の一人へと三脚が渡される。
受け取ったのは、背が高く落ち着いた雰囲気の男子部員。髪の毛が長く目元が少し隠れている。しかし、よく見ると耳にピアスが開いている。
なるほど、さては隠れヤンチャ系男子だな。
ここでふと、俺はあることに気がついた。
あれ、先輩って3人しかいないのか?
さっきのお嬢様先輩も部長じゃないときたら、消去法でこの人が部長というわけだが。
「
ぼそぼそとした話し方ではあったが、声量が小さいわけではなく問題なく聞き取れた。
そして、この先輩がいうには部長はまだ来ていなかったらしい。それに、さっきの二人が三年生であることもわかった。
随分と癖の強い人たちというか、特徴的な人が集まっているこの写真部。その部長とあらば、もっと変わり者なのかもしれない。
俺はこの後に待ち構えている展開に身構える。
突然、ガラガラガラと前方のドアが開いた。
噂をすればなんとやらだ、きっと部長が来たに違いない。
さあ、どんな人が来るのか。ただ部長に合うだけなのにどこかワクワクとしている。
五秒、十秒と時間が経つ。
しかし、教室には誰も現れない。
あれ、おかしいな。さっきのドアの音は何だったのか。
俺が困惑していると、雛宮先輩がドアの方へと向かっていき、すぐに戻ってきた。
その手には誰かの手が握られている。
ずるずると引きずられながら出てきたのは、前髪が重たい黒髪ロングの女性だった。
この人はいったい……
「ほら、早く自己紹介しな。のぞちゃん部長でしょ」
雛宮先輩の言葉に俺は素直に驚いた。
この人が部長⁉おどおどしていて部長というにはあまりに覇気がない。この様子でこの面々をまとめ上げているのだろうか。
しかし、変わり者という点では予想は当たっていたようだ。
「ほら、のぞちゃん部長でしょ。がんばって」
緊張のせいかなかなか話し出さない部長に、部員の先輩方が背中を押す。
雛宮先輩が言っているのぞちゃんというのは部長の愛称なのだろうか。
「しゃ、写真部、部長の、
そう言い切ると、雛宮先輩と白雪先輩が部長の元へ駆け寄り頭をよしよしとなで始めた。
いったい、俺たちは何を見せられているのだろう。部長はまるで親にあやされる子供のようではないか。
しかしなるほど。なぜこの人が部長なのかがわかった気がする。
この人、めちゃくちゃ愛されている!可愛がられかたがすごいぞ。
きっと、部内で強い推薦を受けたことで部長となったのだろう。
ひとしきり部長の頭をなで終わった雛宮先輩は、部長の手から三脚を回収し再びマイクのように持ち直した。
「はい、じゃあ自己紹介はこの辺にして、この後軽く活動説明したら今日は新入生は解散です。なので、もう少しお付き合いください」
その後、基本的には雛宮先輩が進行をしていき、活動説明は終了した。
結局、あれ以降部長は一言も話さなかったな。
***
写真部の見学を終えた俺と環は、二人で帰路についていた。鏑木は少し寄るところがあるそうで、先に帰っていってしまった。
俺たちは特に会話をすることも無く、ゆったりと歩いている。
こういう会話がなくても気を使わなくていい関係は心地よくて、俺は好ましく思っている。
しかし、相手はそうは思っていなかったのか、それとも単純に話したいことがあったのか、環が先に静寂を破った。
「部活は写真部にするの?」
「今のところは……そうだな。他に入りたい部活もないし、かといって帰宅部ってのは高校生としてもったいないからな。」
高校時代の三年間。特に何もしませんでしたで終わるのは嫌だしな。
今日見学をしてみた感じ、活動内容は行事の際の撮影や他の部活の撮影、文化祭での出典程度でそこまで忙しくは無さそうだった。また、長期休みなんかには合宿もあるらしい。部活の雰囲気は少々独特だったが、先輩方は優しかったし、何より楽しそうにしていた。明るい空気感じられる場所であれば、きっと俺の高校生活を華やかに色づけてくれるだろう。
「前に、カメラが好きって言ってたもんね」
「ああ、そうだな」
「あー。でもやっぱり、目的は彩葉ちゃんだったりして?」
「は?彩葉ちゃん?……ああ、鏑木さんのことか。そんなんじゃないよ。そもそも鏑木さんが写真部に入るかどうかなんてまだわからないしな」
「ふーん?まあ確かにね。そういうことにしておこうか」
女子という生き物は何でもすぐに恋愛に結びつけたがるから困ったものだ。でも、高校生ともなったらそれが普通で、俺の方が特殊なのかもしれない。
「それより彩葉ちゃんって呼び方。いつの間にそんなに仲良くなったの?」
「帰り際にね。凪斗がトイレに行ってる間に 話してたんだよ。そこで、お互い苗字じゃなくて名前で呼ぼーってなって」
「ふーん。俺の知らぬ間に仲良くなってたのか」
「え?なに、嫉妬ですか?」
「ちげーわあほ」
そういいながら軽くチョップをお見舞いすると、今度はうまく命中し、環が「いてっ」っと声をあげた。
「それより環は部活どうなんだよ。たぶんあれだろ?野球部のマネージャーか?」
「うん。そうだよ。もう入部届出してきたし」
「それは随分と早いな。まあ、ずっとやりたいって言ってたもんな」
「まあね。中学のころからずっと憧れてたから、やっとって感じ」
環の横顔は、やる気に満ちている様に見えた。
環は中学時代は陸上部だったこともあり、体力には自信がある。元々スポーツ全般が好きで、中学では選手として頑張ってきたから今度はマネージャーとしてスポーツに携わる。表面上ではきっとそんな感じなんだろう。
実際のところは、思い人が頑張ってる姿を側で見ていたい。というのが一番の理由だろうな。
「俺も環を見習って、明日にでも入部届を出しに行ってくるよ」
「おー。それがいいよ。彩葉ちゃんもいたらいいね」
環はまた鏑木の名前を出し、いたずらっぽく笑う。
環はいつも答えずらいような言い方をしてくる気がするな。
しかし、こちらが恥ずかしがってやることもない。
「ああ、そうだといいな」
そう答えると、環は少し驚いたような顔をした。
「へぇ。素直に認めるんだ?」
「そりゃあな。同じ部活に友達がいた方が嬉しいのは当たり前のことだろう」
「あーそういうことね」
もちろん嘘は言ってない。
俺の答えに環は少し不満そうだったけど、それなら俺の判断は正しかったということだ。
***
環と別れた後、俺はリュックからおもむろにカメラを取り出して、桜の木へとレンズを向けた。
高校に入学してから一週間と少しが経ち、早くも桜の花は散り始めている。
悲しくもあるが、散りゆく桜にも良さがある。
シャッターを切ると、少ししてフィルムが出てくる。
そこには、満開の桜に負けず劣らずの迫力があった。
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