第3話 友人
テストを受けてから約一週間の時間が経ち、早くもテスト返却が行われた。
正直に言って自信は全くない。流石に成績最下層というほどではないと思うが、成績上位を取れるほどの学力を持ち合わせているわけでもない。
俺はあまり期待をしないようにし、テスト結果を受け取ることにした。しかし、ゆっくりと通知表をめくるその手は緊張を訴えかけてくる。
俺は震える手を制止し、勢いよく通知表を開く。
結果は240人中の108位。学年の半数以上は上回っているが、せめて二桁順位を取りたかったと少し落胆してしまう。期待はしないと言ったものの、心のどこかで好成績を望んでしまっていたようだった。
俺もまだまだというわけか。
俺の通うこの
そう簡単に好成績を取れるほど甘くはないと、現実を突きつけられてしまったようだ。
俺は両手で頬をぴしゃりと叩く。悲しんでいても仕方がない。次のテストでは今回の反省を生かしてもっと勉強時間を増やさないといけないな。
テスト結果をファイルへとしまう際、ふと朝に配られた部活動紹介の手紙が目に入った。
「部活かー」
ため息のような独り言がつい漏れてしまう。
俺の場合、運動部に入るのは少し厳しい。特に球技はできないというほどではないが、やはり何かと不都合が出てくるだろう。水泳なんかであれば俺の目のことはあまり気にしなくてもいいかもしれない。しかし、俺は泳ぐことが大の苦手だ。カナヅチといっても差し支えないレベルである。また、陸上部に入って毎日走れるほどの忍耐力もない。
したがって、入るとなれば文化部か……
「部活、何入るのか決めた?」
ぽつりと漏れた俺の独り言が聞こえたのか、はたまた単純に俺が手紙を見ていたからなのか、
「いや、まだ決まってない。何かいいのがあればいいんだけどな」
「ふーん。そっか」
「亮は野球だろ?」
「もちろんそうだな。ってか、なんなら俺含めて野球部に入るような奴らは、入学前から挨拶みたいな感じでもう部活に顔出してるからさ、すでに仮入部みたいなもんよ」
「そうなんだ。やっぱさすが野球部って感じだな」
亮は小学校の頃からの友達で、当時は副キャプテンであり投手。中学の頃は三番、遊撃手でチームの要だった。高校へ入学する際には強豪校からの誘いも受けていたらしいが、結局地元の高校へ進学をした。
甘いマスクをも持ち合わせた優等生イケメンで、友達である俺でも
昔は野球やろうぜって誘われることもあったけど、高校生となった今ではもう誘われなくなった。当たり前のことではあるが、一抹の寂しさも感じてしまう。
亮は俺が色盲であることを知っている人物でもある。だからか、俺がどんな部活に入るのか興味があるのだろう。
そういえば、こいつ成績もよかったよな。
「なあ、今回のテストの結果どうだった?学年順位とか」
「ん?ああ、順位は27位だったな」
「うっわ。めっちゃ高いじゃん」
進学校でこの順位。相も変わらず完璧超人である。なんかこの世の不条理にムカついてきたぞ。
「そういうお前はどうだったんだ?」
「お前の後に言えるような順位じゃねえよ」
「そうなのか?まあ、無理には聞かないけどよ」
こちらに配慮までしてくれるこの心の余裕っぷり。つくつくいい男だぜこいつは。
「まあ、困ったら野球部のマネージャーでもやってくれ。俺はいつでも大歓迎だ」
「お前らのためにボール運んだりおにぎりにぎったりするなんてごめんだね」
「それは残念だな。いい提案だと思ったんだが」
「第一マネージャーなんて基本的に女の子しかいないでしょ。そこに混ざる勇気もないよ」
「それもそうか」
俺の答えに亮はガックリと肩を落とす。
え?もしかしてこいつ本気だったのか?冗談じゃなくて?
もう一度、部活動の一覧が載った手紙に目を落とす。すると、一つだけ気になるものが目に入った。
「写真部か…」
俺は日頃からインスタントカメラを持ち歩く程度にはカメラを好んでいる。部活動として写真を撮ることができるのなら、俺に合っているのかもしれない。
「なあ、写真部とかどう思う?」
「ん?写真部か。いいんじゃないか。お前、カメラ好きだって前に言ってなかったっけ?」
「うん。言ったと思う」
「ならいいんじゃないか?……って、そうか。なるほどな」
いきなり亮は何かに納得したかのようにうんうんと頷き始めた。
その顔はにやにやとしていてどうにも気持ちが悪い。
「なに?何がなるほどなんだ?」
「凪斗が写真部に入ろうとしてる理由だよ。写真部って、きっと運動部とか吹奏楽の大会とかに写真撮りにくるだろ?マネージャーが無理だからって、そこまでして俺の応援がしたいのかと思ってな。俺は嬉しいよ」
亮はわざとらしく嬉し泣きの仕草をしてみせる。
めんどくさいノリだと思いつつも、ここはあえて肯定してみせる。
「まあ、それもあるかもな。もし写真部に入ったら、お前のかっこいいところを惜しみなく撮らせて貰うことにする」
「お、おお。そうか。冗談のつもりだったんだけど。まあ決まったら教えてくれな」
そう言い残し、亮は去っていってしまった。
照れるなら最初からやらなければいいのに。
でも、本人が嬉しそうだからよかったのかもしれない。
***
放課後になり、俺は知らない道を右往左往としていた。
本来であればすでに帰路についているころだが、今日は写真部の見学に行ってみようと朝から決めていたためだ。
現在、俺は手紙に記載されていた205教室を目指しているところである。
初めて通る道を歩くときは、いつも迷子になったような気持ちになる。
自分がどこにいるのか、進む道がわからなくなってしまうこの感じが、幼少期を思い起こしてくる。
それでも、今の俺はもう15歳。今年で16になる。少し時間はかかったものの、迷子になることはなく、遠目から205と書かれた札のある教室を見つけることができた。
しかし、いざ入ろうかと思うと少し緊張してくる。
俺が教室から少し離れたところで軽く様子を
一秒、二秒と時間が過ぎ、ふと冷静になって考えてみると、一体俺は何をしているのだろうか。
恥ずかしがる理由なんてどこにもないのに。くだらないことをしていないでさっさと行くべきではないか。
そう思い教室へ目を向けると、ちょうど誰かが中へ入っていくのが見えた。
一瞬しか見えていなかったが、その横顔とゆらゆらと揺れるポニーテールから、俺にはその人物が鏑木であることをすぐに理解できた。もしかして、彼女も写真部に見学に来たのだろうか。
だとするならば、今行くのが最善だ。一人で知らない場所へ
結局のところ、無駄に同じところで足踏みをしていてよかったのかもしれない。
俺はやっとの思いで一歩踏み出した。
「何してんの?ストーカー」
いきなり俺の耳へ届いた言葉の鋭さに、思わずドキリとしてしまう。
振り向くとそこには、俺よりも数センチか小さい程度の女の子がいて、軽蔑するかのような目で俺を見ていた。
「びっくりしたぁー。なんだ
彼女は
「お前のせいで一瞬心臓が止まるかと思ったわ!ってそれよりストーカーってなんだよ、心外だな」
「えー?だって物陰からこそこそ女の子覗いてるやつがいたら、それはもう立派なストーカーでしょー?」
「そもそも覗いてなんかないんだよ。俺はただ写真部の教室に行こうとしててだな」
「ふーん?まあ、わかってたけどね」
「じゃあ、最初っからやんじゃねーよ」
俺はそういいながら環の頭に軽くチョップをいれる――予定だったが、普通に受け止められてしまった。こいつ、意外にも反射神経がいいみたいだ。
「でも、ストーカーって言ったのは冗談だけどさ、なんでこんなところに隠れてるの?」
「ん?いや、特に理由はないんだけどな。新天地に赴くときには心の準備ってものが必要だろ?」
「つまり、緊張しているのですね?」
「つまり、そういうことです」
環はふふっと吹き出した。
「なら私も一緒に行ってあげるから。ほら、さっさと行こー!」
「ちょ、押すなって」
俺は環に押されるがまま約十メートルほど進み、教室のドアに手をかけるところまで来た。
その扉は、何故だかいつもよりも重い気がした。
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