「えっー! やだやだっ! 行くの! いこーよぉー!」

 よって次のようになった。


 てっきり一緒に行ってもらえると思っていたりリリィは

鳴海がその申し出を棄却と知ると、まず笑い出した。

 ニッポン人特有の「とりあえず一度は遠慮する」という精神が表れたのだろうと、

バックパッカーよろしく異文化理解を深めたふりをしたかった

みたいなのだけれども、

彼が本気で断っていると気づくのに、そう時間はかからなかったみたいだった。

 その後、のべつ間もなく彼女がとった行動が今まで続いている。


「いーくーのぉー!」

 床に寝っ転がって手足をブンブン。

徹底抗戦の構えをとるサキュバスがそこにいた。

 おかしなことかもしれないが、これが彼女の常套手段なのである。

こうしてぐずっていれば、どこかのタイミングで鳴海は折れてくれる。

そう思っているから、彼女はところかまわず駄々をこねる。

 ここが彼の部屋の中だとか、掃除してなくて床が汚いこととか、

壁が薄いからすぐに音が漏れることとかは、彼女にとっては無関係なのである。

 こうして強硬手段で無理を通してくるロリサキュバス(成人)を見ると、鳴海はなんだかひどく哀れな気持ちになってくる。


 あれだけ子供扱いを嫌がってたやつが、ここまで自分を捨てられるのだろうか。

いやむしろ、彼女の幼女ルックがこのような舞踊を

好き勝手にすることを許しているのだろうか。

というかそこまでしてサキュバスシーシャバーに行く価値はあるのだろうか?


 とはいえ、どれだけ彼女が舞い続けようと鳴海の意見が覆ることは、

今回に関しては難しいだろう。

なぜなら彼が首肯を出し渋る理由は、金銭面や羞恥心からくるものではなく、

シンプルでなおかつ非常に拘束力のあるルールに、彼が縛られていたためであった。


「あの、俺!」

 彼女に聞こえるよう、声を張り上げる。近所のクレームとか今はどうでもいい。

 彼女に伝えなくては。

 ぴたりと動きを止め、寝転びながら涙目でこちらを見上げるるリリィに

ちゃんと言ってあげなければ。

 別に絶対に行きたくないわけではないのだ。ただ……

「俺、未成年。そういうとこは入れない」

ということなのである。


「あっ、あぁ~」

 納得したみたいだった。

鳴海を見てため息を漏らすリリィからそれがうかがえた。

そうなのだ。

 鳴海は「シーシャ」からも「バー」からもお断りされるご身分。

そういう意味ではリリィよりも子供と言ってもいいかもしれない。

 子供をそんなところに無理やり連れ込んだらサキュバスでも

罰を受けてしまうに違いない。

 把握したリリィはすぐさま身を起こして、そそくさと帰り支度を始めた。

留学できるほどなので頭は回るらしく、引き際もわきまえていると見える。


 だがしかし、1日のピークはこの後に訪れるのであった。

自分の部屋でありながら、ひどく疲労の汗をかいている鳴海はまだそれを知らない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ロリサキュバスとサキュバスシーシャバーに行きたかった話 えちの瀬亜 @echino

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ