第3話 ある日の日常

 僕は毎朝神様とテレビを見るようになった。

「社会人として…」

あの話は間違っていないのだろう。社会人になったから、大人になったから情報は常にアンテナを張らないといけない。

「あ。この人お昼にも出てたよ。人気者だねぇ」

神様は、僕がいない間は、テレビを楽しんでいるようです。

特にお昼の番組は『見たことがない物』が多いようで、気になったものを見たがる。

昨日は、「げーむき」「某有名高級ブランド」と流石に用意が難しい物を頼まれお断りした。

「神様…いつも思っているのですが…神様にわからない物はないとおm、」

「え?!も、もちろんしってるよ!神様だから!!?知らないことなんてないよ!…たださわったことがないだけ…」

僕に話に勢いよくのったと思えば、声がどんどん小さくなり、顔が横にそむけた。

 何か話したくない事情でもあるのか、神様の中で仲間外れなのか、いろいろ

考えていると彼女に同情していた。

「あ!ほらこの食べ物!おいしそう!しゅうくりいむ?いいなー」

話を逸らすかのように、神様はテレビを指差した。

「…僕、そろそろ仕事なんで…」

時計は、6時10分。

身体をゆっくり起こし、足早に玄関に向かう。なぜなら『いつもの』が始まりそうだったから。荷物を背負い出ようとするとぐっと背中が引かれ

「千景!しゅうくりいむ!お供え物で!」

最近、神様は僕のことを呼び捨てにして、食べ物をお供えしてほしいという。

何かすごい都合よく使っているように聞こえる…

「もう、行かないとですから離してください!」

「おーねーがーいー!!ひとつだけー!」

神様の願いを拒否すると罰が当たるかもしれない…。そう思った僕は、進もうとする足を止め、

「…一つだけ買ってきますから。」

そう伝えると、満面の笑みで、

「ありがとう!千景!おにぎり作って待ってるな!」

子どものように目を輝かせる神様。彼女のように欲がないから、見習うべきところなのだろうか。

僕は、手を大きく振る神様に見送られて家を出た。


仕事は相変わらず進まない。

自分の周りにたくさん人がいて、いつも誰かに見られ、監視されているよな感じだ。

頼まれたことに回らない。でもどんどん仕事が来る。

できていないと呼び出され、叱られる。

毎日毎日、自分ができないから怒られる。

自分がしっかりしてないから…。


退勤、20時半。

外には、雪が降っていた。

「…神様のお供え物買いに行かなくちゃ」

疲労からか、体が重い。これ以上、神様を待たせてはいけないと思い、少し速足でスーパーに向かった。

スーパーは職場から15分のところにある。

スーパーと言っているが老夫婦が営む個人店だ。品揃えはそんなにないが、奥さんが好きなのか、デザート系はかなりそろっている。営業時間が長いのは近所の方からの要望らしい。この時間はさすがに閉店の準備をしているので誰もいない。

店内に入ると、暖房がよく聞いており温かい。

すぐ、デザートコーナーに向かう。

「おや、西くん。買い物ですか?」

前から歩いてきたボロボロ甚平の人は…

「大家さん。…えぇ、まぁ。」

大家さんには部屋に神様がいるといっていない。大家さんの部屋は、僕の隣だから、いつかばれるのでは、と会う度ハラハラしている…。

 大家さんの右手の買い物かごの中には、

「…饅頭ですか?」

「そうそう。この時間、和菓子が安いんですよ。ほら、値引きシール」

「これ、全部食べるんですか…?」

「もちろん。明日にはなくなるので、また買いに来ます。」

大家さんは初対面の時から変わった人だなと思っていた。が…すごく変わった人だと確信した。

大家さんは和菓子のみ買い占めたようで洋菓子は残っていてお目当てのものを買うことができた。

「自分で甘い物を買うのはいつぶりだろう…」

買い物かごに入った一つのシュークリームを見て、思った。


「遅くなりすみません。ただいまかえりましたー」

「おかえりー!お疲れ様!雪降ってたな!寒かったろう」

神様は玄関で座って待っていた。よっぽどシュークリームが楽しみだったのだろう。 

 コートを脱ぎ雪を掃い、神様に買ったものを渡した。

「おぉ!これがしゅうくりいむ!炬燵で一緒に食べよう!早く早く!」

神様は目をまた輝かしてバタバタと足早に炬燵に潜り僕を待った。

「じゃあ私からはおにぎりだ!さらんらっぷ、でまいてみた!」

「さすが神様。きれいなまん丸のおにぎりですね。」

お米がぎゅうぎゅうになってつぶれている。だいぶ力強く握ったのかな。

でも相変わらず真っ白なおにぎりだ。

神様はシュークリームを僕はおにぎりを一緒に炬燵に入りながら食べた。

「どう?おにぎり、おいしい?」

神様は僕の顔を覗いた。

「はい、とっても。」

「よかった!今度はなにでまこうかな!」

ニコニコと笑顔の神様を見て心が痛む。


 ごめんなさい神様。僕には、お米と塩の味しかしませんでした。

おいしい、が分からないのです。


この気持ちはきっと彼女に失礼だ。ぐっとおにぎりと一緒に押し込んだ。


「ちかげ、きいて。明日ね多分きっといいことあるよ!」

急に神様がお告げを…。

「エット。アリガタイオコトバアリガトウ…?」

いや待て待て、

「多分きっとって何ですか。」

「?多分、きっと、いいことあるよ」

「すごく中途半端というかなんというか…。」

「あぁ、私あんまり具体的にわからなくて、その~神様の勘!的な…」

神様の直観かー…。すごそうだけど。

「でも神様、そうゆうのは毎日できないんですか?」

「うーん、たぶんできる、、、と思うけど自信ないなー。」

ハハハっとお気楽な彼女。

神様と生活をして気づいたことがある。

・基本炬燵の中にいる。

・日中はテレビを見ている。

・甘いものが好き。

・毎晩まん丸なおにぎりをくれる。

だんだん本当に神様かわからなくなる。ニートと変わらないのでは…。むしろヒモ…?そんな彼女がお告げと…。

半信半疑だが最近仕事でのミスが減っているからきっといいことあるだろう、、、たぶん…。

「なにこれ?!すごーい!見てみて千景!」

テレビに大きなジンベイザメが映った。どうやら水族館特集をしているようだ。

「ジンベイザメですね。こんなに大きいのに小さいプランクトンを食べるんです。」

「ふーん…。いつか見てみたいね。」

「そう…ですね…」


僕が休みを希望すればいけるのだろう…。でも僕には「休みをください」という勇気がない。水族館か…。海しばらくいってないな…。


「あ、ほら千景、寝る時間だよ。」

時計は22時半になっている。

「そうですね、そろそろ寝ます」

「私はもう少しテレビを見てもいい?」

「はい、その方が眠れるみたいです。」

「そうか、ならよかった。うるさかったら言ってね」


神様はいつも僕の近くでテレビを楽しんでいる。

その後ろ姿を見ると安心する。気になるものが出ると長い白髪が動く。誰かが近くにいてくれる。

今日も寝られそうです。ありがとう神様。

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神様の言う通り 百ノ助。 @mosuke343

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