041:青ゴブリン、月夜を行く(後編)

 ◇


 ども、ジンジュです。

 始まりの街アインツから北へ歩いて、あっさり森に入りました。

 歩いてるだけで小兎が飛び掛かってきた、あの日々が嘘みたいだ……!


 まあでも、本番はここから。

 50mメートルぐらい進んだ所で、後ろから灰狼アッシュウルフが2頭出てきた。

 ご丁寧ていねいに森の端、街道の両側からな。


「まーた送り狼やー」

「真面目やね~、俺らおそても何も出えへんで~?」

「大丈夫大丈夫、あそこまで歩いてきゃ何とかなる。等速直線運動、リベンジや」


 声をひそめて、言うこと言っておく。

 正面、ボーゼが指差すほうを見たら、なんか人集ひとだかがある。街道のど真ん中なのに……?


 いや待て、デカい影が見える。女神像とおぼしき2体分。

 右は東の街イースの人、左は教会で見た女神像の、一番右――すんません知らん人らや――っぽい立ち姿だな。


 ってことは、その辺安全地帯あんちか。


 ……ん !? そういえば、やけに明るいな。夜中の森なのに。

 いや、月明かりはいいんだよ。街道沿いの木はある程度ってあって、俺らの真上は夜空が見える。

 で、左斜め後ろから、月の光がしている。そら明るいわ……。


 通行人の持っとる照明ランプとか、〈光魔法〉で明るいんも分かる。

 問題はそれ以外。


 誰もいないはずの木々の向こうまで、妙に薄明うすあかるい。何ですかこれは?


 ……右から小さく何か聞こえる。何が来る?


「……ァンキャンキャン、キャイン!」

「ぴすぴす!」

「ヴ~~」

「きゅきゅ、きゅ!」

「「きゅえ~い」」


 狼と、それを追ってるらしい兎・スライムの声がする。なんか聞き覚えあるな?

 で、後ろの送り狼が反応した。


「「バウバウ!」」


 俺らの後ろから、右手のしげみへ突っ込んだ。ガサガサき分ける音が、だんだん遠ざかる。


「ヴぁ~~」


 ……待て、今度は左から近づいてるぞ? 仲間多いな !?

 んで、早くも短剣ダガーかまえとるボーゼ、優秀。


「ハッ、ほな一丁やるコ」

「おっけー、俺向こう見とくわ。 ……ジンジュ、背中はまかせたー」

「りょ~か~い」


 左手に大盾、右手に石。準備ヨシ!


 ……とか言ってるうちに、兎たちの声が止んだ。

 両側から近づく茂みの音。ヤバい、はさまれたか……!?


「ふす! ふんす !! 」


 先に出てきたのは、薄い牛柄の小兎。俺が【テイム】した「とがの」だ。

 おとなしそうなフリして、異人も狼も噛みコロすヤバい子……なんやわ。


 とりあえず、生態系に革命起こすんやめてもろて……



 い や お 前 か い 。

 狼か思たわ……まぎらわし !!



 んでそこに、ピローン! って能天気のうてんきな通知音が。


《従者「とがの」「はっさく」が「アッシュウルフ(♀)」1頭を討伐しました》

《従者「とがの」の〈体力強化〉〈敏捷強化〉両スキルのレベルが上がりました》

《従者「はっさく」の〈火魔法〉のレベルが上がりました。技【火の癒しファイア・ヒール】を取得》


 とがのに続いて、ウチの兎とスライムらがぞろぞろ出てきた。無事合流。

 で、反対側の茂みからは音が遠ざかりよる。灰狼が引き上げてるみたいだ。


「チッ……野犬やけんの分際で、賢明な判断しよる」

「「お前がそれ言うな~」」


 この狼獣人ボーゼに、犬の心とかない。

 繰り返す。この狼獣人に、犬の心とかない。



 閑話休題。ほな進もか~。



 ◇


 周りが静かになったら、気になることがまた1つ。

 音楽が聞こえる。みょんみょんしたバンド・サウンドや。

 うるさいけどきれいな2本のツインギター。力強いドラム。控えめなベースが、それらを引き立てる。


「ア~~」

「ララララ~」


 声もきれい。低いけど。

 結論、上手うまい(語彙ごいりょく


 ……て、ま~た歌い終わりかい。あいっ変わらずぁ悪いな~、俺……


「いやいや、飛行機雲もくそもあるか」

「「知っているのかボーゼ?」」


 洋楽をあさるボーゼ、意外とクラシック好きなえすと、邦楽で手一杯な俺。

 そのボーゼがすぐ分かって、俺らは知らん曲。てことは、たぶん米国アメリカ英国イギリスのロックバンドや。


 要らんことも言うとくと、えすとはワーグナーが好きらしい。壮大な曲書きまくった人な。


 とか言うとるうちに、もうすぐ安全地帯やけど…………いや後奏アウトロ長いなこの曲! まだあるんや……

 無法者アウトロー違うで、後奏な。海外は長いん多いらしい。


 ……あ、今終わったわ。呼ぶよりそしれ。


Bravoブラボー!」

「ヒューヒュー」


 演奏しとった4人組の、周りに十数人。拍手とか指笛とかで、えらい盛り上がっとる。

 てか4人組、初日に会うた人らやな。ほんでドラムの人、女性やったんや……!


『どーもー、“しす☆たーず!”でーす! 聴いてくれてありがとねぇー』

「どこで名前切っとんねん……」


 向こうに聞こえへんのをええことに、悪態をつくボーゼ。当たり強っ……

 ほんでしゃく――軽く一礼――だけして、とっとと歩いていく。俺らもついてく。

 街道かられて、斜め左前の獣道けものみちに突っ込む。



 目的の地下墓地は、まだまだ先らしい。



 ◇


 “アインツ・中央広場”から歩くこと、約1時間。だいぶ空が明るなった。

 そろそろ日の出か? ってこのタイミングで、茂みの向こうがひらけてきた。


 そのど真ん中に、石造りの建物が見える。で、俺らから見て左手に、ぱっくりと入り口が開いとる。南向きか。

 入り口の手前には、石段が3段。奥は暗いからよぉ見えん。


 あれが目当ての地下墓地、その入り口っぽい。


 ほんで、その入り口から、ぎこちない動きの男女1組が出てきた。

 服ボロいし、肌の色も変。何で灰色…………とか思う前に、それは来た。


 腐敗ふはいしゅう

 焼き魚に生卵混ぜて腐らせました……みたいな、エグいにおいがただようとる。


「う゛ぷ」

「ぴすぴす…… !? 」


 ボーゼが口元を押さえ、兎3羽も苦しみだした。


「ふす、ふす゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛」

「きゅい !? 」

「とがの! 大丈夫か !? 」


 とがのが草吐いた。いやわろてない、それどころやない!

 例のごとく声ひそめたまんま、とがのに声かける。そこに通知が来た。


《抵抗に成功しました》

《従者「はっさく」が抵抗に成功しました》

《従者「とがの」が抵抗に失敗しました。状態異常【恐怖】【脱水】が付与されます》


 思わず見た、例の男女の頭上には「▽レッサーレベナント Lv.20」て文字列。

 “ファンフリ”だと、ゾンビ系の魔物だ。



 肝試しは、もう始まってる――――



――――――――――――――――――――

 お読みいただき、ありがとうございます!

 急ですがお知らせです。


 本作品の書き溜めがなくなりましたので、長期休載いたします。

 更新再開は年内、12月下旬の予定ですが、確定ではありません。続報をお待ちください。


 引き続き、本作品をよろしくお願いします m(_ _)m


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