[第2章]行動圏(エリア) を 広げよう !

――4日目(火)――

040:青ゴブリン、月夜を行く(前編)


 朝9時過ぎ。俺は「ファンフリ」に飛び込む――


 ……いや、9時48分だった。10時前じゃん。



 ◇


「き゛え゛え゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ッ゛!」


 いっつも通り、「アインツ・中央広場」に来たら、けたたましい叫び声の中やった。

 朝一から元気やな~、耳痛いわ……あっ通知。


《従者「とがの」の〈採取〉がLv.4になりました》

《従者「はっさく」の〈調合〉がLv.3になりました》


 今日はそれだけか。了解で……


すいませんでサーセンした許して」

「せからしか、斬る!」


 やかましいな、さっきから !! 一体何なんだ ???


……と思ってそっち見た。忍者風の人を、剣士風の人が追い回してる。

 しのびじゃない、忍者だ。目立ちすぎ。


 んで、剣士さんのほうはしゃべりが特徴的。薩摩隼人さつまはやとってやつ? いやでも洋服だし……



 ってか、すごくキレてる ?? 何があった ???


 ……まあええわ、っとこ。噴水の向こうやし、何もでけへん。



 それより、昨日のギターの人。今日もいるね。

 けどアンプはないし、いてるギターも、曲も違う。


Don'tどーん go awayごーなうぇー


 間奏か後奏アウトロか知らないけど、歌い終わった所らしい。

 微妙な歌声……いやギター上手うまいなこの人! 一音いちおん一音丁寧ていねいで、めちゃくちゃ音きれいだ。


 これ昨日の轟音ごうおんギターと同じ人 ?? マジで ???



「うるっせぇな !! 夜中だぞ !!? 」


 急に後ろから怒鳴られて、思わず振り返る。


 南の大通りに面した、ある店の2階から、毛むくじゃらのおっちゃんがこっちにらんでる。

 いかにも気難しい職人さん、って感じ。



 怖っ……



「「「『サーセンした!』」」」


 思わず頭下げちゃった……仲間が! 仲゛間゛か゛い゛る゛よ゛!!


 違う違う、そこはどうでもいい。

 夜7時の繁華街みたいなノリで、夜中やったんかい~ !!

 騒ぎすぎやろ、巻き添えで怒鳴られる身にもなれ!


 んで、振り返ったついでに、ボーゼ見っけ。

 南の大通りを歩いてくる。今日ももう来てたらしい。

 声聞こえる距離じゃないから、お互いに「よぉ!」って手を挙げておいた。



 ……あれ~、みょうだな? えすとは別か。

 じゃあ、どこにいるの……?



 その辺をキョロキョロ見回してたら、えすと発見。教会“アインツ大聖堂”のほうから走ってくる。

 ってかここ、教会は夜中も開いてんだな。へぇ~……


「よぉー、元気しとったか?」

「おはよ~……おい昨日の今日やぞ」

「せやな。ボーゼは?」

「あっち」


 指差しながら振り返ったら、思ったより近くにいた。

 そうだったそうだった、狼獣人ひとでなしだから速く動けるんだった……。


「よぉ、これでそろたな」

「よぉー、また朝一で狩りか」

「お疲れ~」

「早い早い。 ……で、レティとかスライムらは?」


 ボーゼの質問に、えすとがこたえる。


「それがあの子ら、もう北の森におるみたいでさー」

「マジか、早っ」

「え~、そんな都合のええことが?」

「あるんやなー、俺もビックリ……」

「ほなもう行くコ?」

「「はーい」」


 ってなわけで、まずは北の大通りへ。



 ◇


 大通りの、最初の交差点――左曲がったら図書館、って所――をまっすぐ進む。

 今まで気付かなかったけど、この辺からゆる~い上り坂みたいだ。



 意外。平地やと思とった。



 で、両側に店が並んでるけど……なんか他所よそより一軒一軒が大きい。

 しかも他所と逆に、広場から離れるほど店が小綺麗になってる。

 そして、月明かりに照らされる“宝石商”とか“宮務庁きゅうむちょう用達ようたし”とかって文字列。



 ……なんか、すごくお高そうな街だね?



「……え? この先、あし○市やし ??? 」

「あるかそんなもん、ゲームやぞ?」


 きっちりボーゼにツッコまれた。でしょうね、ってか一昨日おととい教会から見えてたし。


 たしか、庭付きのデカい建物が並んでたはず。いかにもお金持ちが住んでそ~……って感じの。

 で、ここは「アインツ公国」。名前的に貴族いる、たぶんね。


 ……いやその辺にいたな、それっぽい恰好かっこうの人。


「○屋かおもちょったら、○塚ヅカやったでござる~」

「日本語めちゃくちゃやなー……」


 とか何とか、駄弁だべりながら歩く。



 そのうち坂を上りきって、邸宅街て感じの所に出た。突き当たりに城壁が見える。

 ……いや、よく見たらデカい門だ。閉まってるけど。



 横の小さい出入口使ってるみたいだな。

 んで、また検問か~……



 坂の上と門の、ちょうど真ん中あたりで、左に大通りが出てきた。

 急にな、急に。

 先を見たら、豪華な宮殿が見える。“公邸こうてい”てやつか?


 庭広~い……



 まあ後や。とっとと街出よか。

 あと何かここ、歩いてるだけで背筋伸びるな~……。



 ◇


 “アインツ・中央広場”を出て40分ぐらい。検問終わって、「北大門」横の通用口つうようぐちくぐる。

 草原に出ました。


「へすへす!」

「きゅわ~」


 色とりどりの小兎ミニラビットと、プチスライムが共存してる。


「わ~う、ファンタジー……でもないか」

「「せやな……」」


 平和な世界……と思わせておいて、よく見たらあちこちで揉めてる。


「ぶす、ぶす !! 」

「ん゛き゛ゅ゛あ゛!? 」


 オスの小兎がプチスラを威嚇いかくして、縄張りを主張してる。

 んで、退かないプチスラに噛みついたり、蹴り入れたりしてる。


「き゛ゅ゛や゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!! 」

「ぶすぅ~ !? 」


 で、大体反撃されて、吹っ飛ばされる……ってオチ。

 一昨日も見たけど、近くで見たらこんな感じなんだな~。


 や~しっかし、元気やな~。こっちは夜中やで?



 ……ところでここ、他所よそより草原せまいんだよな。すぐ森だ。


「アオ~~……」


 いかにも……って感じの、ウルフの遠吠えも聞こえてくる。隣の狼獣人ボーゼじゃない、あの森からだ。

 その名も、「灰狼かいろうの森」。


 そんな所なのに、よりにもよって宮殿が近い。やから北大門も豪華……て感じじゃない。

 他所より一回り小ぶりで、いかついデザインだ。特に外側。

 門番の人も多いし、無言の圧を感じる。“魔物にご用心!”ってな。


「で~、街道通るん?」

「せやな、しばらくは」

「兎らとも合流できそうやしなー」


 中央広場から門を越えて、なお北へ伸びるこの道を、そのまま行くんだって。


 そんで、向こうから来るウチの兎・スライムらと合流してから、森の西側へ入る……って段取りだ。



 ◇


「へす~」

「きゅわきゅわ」


 街道沿い、けっこう平和。十数分歩いたら、あっさり森に入った。

 歩いてるだけで小兎が飛び掛かってきた、あの日々が嘘みたいだ……


 まあでも、本番はここから。とりあえず、〈初めての大盾〉を用意。

 50mメートルぐらい進んだ所で、後ろから灰狼アッシュウルフが2頭出てきた。



 ……ご丁寧ていねいに森の端、街道の両側からな!


「まーた送り狼やー」



――――――――――――――――――――

(後編)に続く ▶️▶️▶️


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