第24話 「神無月の味噌汁 〜最後の選択〜」
空気が澄んだ秋の夕暮れ、神味堂の暖簾が、静かに揺れていた。
主人公・悠斗は、旅の終わりにその場所へ戻ってきた。数々の神の味噌汁を飲み、心を揺らし、時に迷い、時に癒されながら、自分自身を見つめ続けてきた。
そして今、最後の一杯を前にしていた。
「これが……“神無月の味噌汁”?」
神味堂の主は静かに頷いた。
「そう。この月、出雲に神が集う間、他の地には神がいない。だからこの味噌汁には、どの神の力も込められていない」
悠斗は戸惑った。
「じゃあ、これは……ただの味噌汁?」
主は微笑んだ。
「“ただ”の味噌汁かどうかは、お前が決めることだ」
椀の中には、見た目は平凡な味噌汁。具はわかめ、豆腐、そして小さなきのこが浮かんでいる。どれも彼の地元で取れる、馴染み深い食材ばかりだった。
一口啜る。
その瞬間、悠斗の心にじんわりと温かさが広がった。強い刺激も、奇跡もない。ただ、確かな味。いつか母が作ってくれた味噌汁に、どこか似ていた。
「……これは、俺の味だ」
これまで飲んだどの神の味噌汁よりも、深く、自分の中に染み込んでくる。優しさも、迷いも、怒りも、悲しみも、全部が溶けて、この一杯に集約されていた。
神に頼ることをやめ、自分の意思で、人生の一歩を踏み出す。
悠斗は椀を置き、深く頭を下げた。
「ありがとうございました。もう、迷いません」
店主はただ、微笑んでいた。
夕陽が沈み、風が吹いた。
神々の導きの旅を経て、悠斗はようやく、自分という神と向き合う決意をした。
──神無月の味噌汁。それは、何も足さない、何も引かない、ありのままの自分を味わう、最後の一杯だった。
『神の味噌汁亭 〜運命を啜る一杯〜』 Algo Lighter アルゴライター @Algo_Lighter
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