第18話 帰らない手紙

時を超えた手紙が、静かに届いた。


 古びた封筒には、滲んだインクで書かれた名前。


 それは、戦時中に出されたまま、決して届かなかった手紙だった。


 「この手紙……どうして今になって?」


 孫である俺は、郵便局の職員から手渡された封筒を前に、戸惑っていた。


 差出人の名は、曾祖父のものだった。


 宛名には、曾祖母の名。


 80年の時を経て、ようやく届けられた一通の便り。


 震える手で封を開ける。


 そこには、丁寧な字で綴られた言葉が並んでいた。


 ——必ず帰る。君と子どもの待つ家に。


 ——戦争が終わったら、また一緒に川沿いを歩こう。


 ——君の作る味噌汁が恋しい。


 しかし、曾祖父は帰らなかった。


 終戦の直前、戦地で命を落としたと聞いていた。


 曾祖母は、帰らぬ夫を待ち続け、長い年月を生きた。


 もしこの手紙が、あの時届いていたら。


 もし、この言葉が、彼女のもとに届いていたら。


 そう思うと、胸が締めつけられる。


 俺はそっと、曾祖母の仏壇に手紙を供えた。


 「ばあちゃん……じいちゃんの言葉、届いたよ」


 蝋燭の灯が静かに揺れた。


 まるで、時を超えて、二人が再び巡り合ったかのように——。

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君に届ける、最後の物語 Algo Lighter アルゴライター @Algo_Lighter

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