第5話

 空間の裂け目が出来て人喰い鬼がこちらの世界にやって来てもう5日目、今日は目覚めたらザーザーと大雨が降っていた。


 そんな雨が降るような日には人喰い鬼たちはどうしているのかを探ってみることにした。


 「見当たらないな。」


 高校の各所に植えてある【歩く小さな視界の花】の視界を借りて色々な場所を見るが校庭には人喰い鬼たちの姿が一切ない。


 しかもそれだけでなく溜め込んでいた食料の人間の死体の山も低くなりかなり人間の死体や瀕死の人間が減って居なくなっていた。


 「どこに消えたんだ?」


 人喰い鬼の身長は5メートルを超えているくらいだった。そんな大きなサイズの生き物が雨宿りできる場所は少ない。


 「大きさ的に隠れられるのだとしたら体育館か?」


 ギリギリで視界に体育館が見える位置の【歩く小さな視界の花】の視界を借りて確認してみた。


 すると、体育館に大きな人喰い鬼が倒れるサイズの大穴が壁に出来ているのが見え、更にその見えた大穴から人喰い鬼の緑色の肌が一部だけ覗いていた。


 「体育館に雨宿りしてるのか。」


 体育館のあの大穴は前から体育館に逃げた人間を捕らえるために開けられていたが、人喰い鬼が入れて屋根もあるのに睡眠時に使わなかったから気にしてもなかった。


 でも今後あの人喰い鬼たちが体育館を睡眠の時に利用するようになるのは困るな。


 人喰い鬼を倒す際に狙っていた時間は人喰い鬼が眠る夜中を狙っているのだから。


 「でも今がチャンスかもな。人喰い鬼が校庭に居ないし。今のうちに仕掛ける罠の準備をしておくのが良いかも。」


 このザーザーと大雨も天からの恵みなのかもしれない。そんな事を思いながら俺は校庭に仕掛ける罠の植物の種の準備をしておくことにした。


 校庭に仕掛ける罠は2種類だ。


 1つは人喰い鬼の睡眠をより深くするための植物。これは花の匂いを利用するつもりだ。


 もう1つは深く眠った人喰い鬼を拘束するための植物で、丈夫で頑丈な根を使って全身を拘束する。


 この2種類の植物を作っていくのだが、人喰い鬼たちを全滅させる決行日はまだ先の予定だからこそ、この2つの植物をいつでも使用できるようにするために種にして植えておく。


 その準備を校庭を気にしていないだろう今のうちに仕掛ける。本来なら夜中にやる予定だったが、運が俺に味方しているのかもしれないな。


 「とりあえずまずは眠りの花の種からだな。」


 人喰い鬼ほどのサイズの生き物でも匂いを嗅げばすぐに眠りに付いてしまう香りを出す花の種の創造から開始した。


 イメージを固めていく。


 ものすごい臭い匂いのする花のラフレシアを参考にしよう。まず臭い匂いを睡眠に誘うラベンダーに変えた物にした。ラフレシアは大きな花らしいからあとはすごい睡眠効果のある香りにするくらいだろう。


 「名前は睡眠香の花で良いだろう。創造してくか。」


 そうしてイメージを固めて手のひらに【睡眠香の花】の種を生み出していく。


 「よし出来た。あとは量産だな。10個作っておくかな。それくらいあれば充分だろうし。」


 一度創造すれば創造する難易度は下がりそれほど量産するのには時間は掛からなかった。


 そうして10個の【睡眠香の花】の種が作り出せたのだが、ここから更に生命と精神の2つのエネルギーを注いでいくことで、俺からの合図を送って発芽からの開花までさせることが出来るようにしておく必要がある。


 「今のエネルギーだとどれくらい注げるかだな。とりあえず1つ。」


 【睡眠香の花】の種を両手で握って生命エネルギーと精神エネルギーの2つのエネルギーを注いでいく。


 ゆっくりと確実にエネルギーのロスがないようにしながらエネルギーを注いでようやく【睡眠香の花】の種にエネルギーが注がなくなった。


 「そこそこ使うな。あと出来て7つくらいか?……使うか、苔玉。」


 昨日はあれから複数個の【生命エネルギー循環の苔玉】と【精神エネルギー循環の苔玉】を創造しておいた上に、苔玉を1つずつを最大までエネルギーを貯めておいた。


 この最大まで貯めた苔玉のエネルギーも使って種にエネルギーを注いでおこう。


 「でもまずは俺自身のエネルギーを使い終わってからだな。」


 残りの【睡眠香の花】の種に魔力を一つずつゆっくりと注ぎ終えて8個目の種にエネルギーを注ぎ終えた。


 そして俺自身のエネルギーが枯渇まではいかなくてもだいぶ減った段階で苔玉からのエネルギー回復を行なっていく。


 流石に2つ同時でのエネルギーの回復は今の俺のエネルギー操作力では出来ないため、最初は【生命エネルギー循環の苔玉】から生命エネルギーの回復を行なう。


 両手で包み込むようにしっとりした感触の【生命エネルギー循環の苔玉】を触れると、その【生命エネルギー循環の苔玉】の中に蓄えられた生命エネルギーに干渉する。


 「……難しいな。」


 【生命エネルギー循環の苔玉】から生命エネルギーを取り出すのはなかなかの難易度だった。


 それでも少しずつ【生命エネルギー循環の苔玉】から生命エネルギーを吸い出して俺自身の生命エネルギーへと換えていく。


 「ふぅ、これくらいだな。」


 俺自身の生命エネルギーが最大近くまで回復した段階で【生命エネルギー循環の苔玉】からの生命エネルギーの吸収を終える。


 生命エネルギーを吸収することには成功したのだが、どうしてもエネルギーのロスがあったことが俺の生命エネルギーの操作力の低さを感じざる終えなかった。


 「これも練習だよな。練度が上がれば創造する時のエネルギーも減るかもだし。」


 いずれはもっとエネルギー操作の練度を上げようと思いながら次のやることをする。


 とりあえず生命エネルギーの回復は終わった。次は精神エネルギーの回復をするために【精神エネルギー循環の苔玉】へと手を伸ばした。


 それから同じように【精神エネルギー循環の苔玉】から精神エネルギーを吸収して最大近くまで精神エネルギーを回復する。


 どちらのエネルギーも最大まで回復した俺は残りの【睡眠香の花】の種にエネルギーを注入していった。


 これで校庭の地面に植えれば【睡眠香の花】を俺の意思で自由に発芽から開花させることが出来るだろう。


 「もう一つの種を用意してから植えさせるかな。」


 眠った人喰い鬼の拘束用の植物の創造。


 今回の植物は根っこをメインに使う予定だったが、根っこじゃなくて蔦に変更することにした。


 イメージをする。蔦の太さは1メートルは太すぎるだろうから50センチに。強靭でしなるくらいには柔らかくて千切れにくい。


 まあイメージはこんな物だろう。


 あとはそんな植物の種を創造するだけだ。どこに人喰い鬼が眠るのか分からないからかなりの数を用意しないといけないのが辛いところだ。


 「イメージも出来たことだし、早速一つ目の種を作っていきますか。」


 先ほどしたイメージを頭の中に思い浮かべながら両手にエネルギーを集めて創造した。


 種に触れて性能を感じ取れば俺がイメージした植物の種になっているのが理解できた。


 「【睡眠香の花】で種を作るよりはエネルギーの消費は少ないな。でも、数をエネルギーの補充も考えればこっちの方が多そうだ。」


 とりあえず植物に【縛り付ける強靭な蔦】と名付けを済ませた俺は【縛り付ける強靭な蔦】の種の量産を始める前に【睡眠香の花】の種を埋めることにした。


 何故なら【縛り付ける強靭な蔦】の種の量産を考えればエネルギーが苔玉を使っても足りなくなるだろうし、それならば確実に埋めておきたい【睡眠香の花】の種を植えておきたいからだ。


 「とりあえず種を持ち運んで埋める植物を作ろう。」


 【樹木猿】でも【睡眠香の花】の種を運んで埋めるのは出来るが、それよりも種を持ち運んで埋める作業や偵察も出来る植物の獣を作った方が今後のためだろう。


 イメージとしてはリスいやネズミが良いかもしれない。ハムスターがひまわりの種を頬袋に大量に詰めているイメージもあるし、ここはネズミのイメージでいこう。


 ネズミを形作るのは木材の骨格と木の繊維を筋肉と毛皮に、皮膚に該当する部位が伸び縮みする。歯と爪が硬質。尻尾は短め。ある程度の自意識を持つ。


 イメージはこんなものかな。あとは名付けだけど、ここは【樹木獣・鼠】にしておこうかな。


 「イメージも固まったし、これで行こう。」


 俺は残っているエネルギーを消費して【樹木獣・鼠】の創造を行なった。


 ごっそりとエネルギーが抜き取られる感じで立ち眩みをしそうになる中で30センチくらいの茶色のネズミが作り出される。


 「はぁ、はぁ、結構エネルギーを消耗したな。思ったよりも多かった。」 


 エネルギーの消費にぐったりする中で作り出した【樹木獣・鼠】が俺のことを見上げていた。


 この【樹木獣・鼠】がこれから雨の中で【睡眠香の花】の種を埋めに向かうのだ。


 「指示を出すから【睡眠香の花】種を頬袋に詰めて校庭の地面にバラバラに埋めるのが仕事だ。案内は【樹木猿】にさせるから案内の元で地面に埋めてくれ。」


 鳴いたりはしないが【樹木獣・鼠】は頷いてみせた。どうやら俺の指示を理解したのだろう。


 それか俺が創造する時にどんな役割をして欲しいのかを思っていたからすんなりと理解したのかもしれないが。


 【樹木獣・鼠】は俺が指示を出した通りに【睡眠香の花】の種を口の中に入れていくのを確認しながら【樹木猿】を呼び出した。


 「お前にも指示を出すぞ。仕事は【樹木獣・鼠】を校庭まで案内すること。他には移動と種を埋めるサポートだ。それとこれを持って行ってくれ。分かったか。」


 地下室の棚の上にいた【樹木猿】を呼び出して指示を出せば、【樹木猿】も俺の指示を理解したようだ。


 俺が新しく創造した【歩く小さな視界の花】を自身の頭の上に【樹木猿】は乗せる。


 【樹木猿】も作ってから出しっぱなしにしているからか知性と理性を感じるように頷いて理解をしてくれているようだ。


 「種を詰め終わったみたいだな。それじゃあ2匹とも向かってくれ。」


 地下室の扉を開けば【樹木猿】を先頭にして【樹木獣・鼠】の2匹は地下室から外に向かって出て行った。


 俺は出て行った2匹に意識を集中して【樹木猿】の頭の上に乗せている【歩く小さな視界の花】に向けた。


 【歩く小さな視界の花】が映し出す映像が脳裏に映ると、俺の指示通りに【樹木猿】が【樹木獣・鼠】をサポートして階段を登っているところだった。


 一段一段と階段を登って進む2匹は最後の階段を登って移動を開始した。


 「穴が空いてるから雨が入り込んで来てるな。」


 人喰い鬼たちが人間を捕まえるために開けた穴から雨水が入り込んでいるのが映像に映っている。


 そんな中で2匹の樹木獣たちが移動して進んで行き校舎の中から校庭に直接出たようだ。


 雨に濡れながら樹木獣たちは地面に穴を掘り始めた。


 樹木獣2匹で穴を掘っているからすぐに穴が掘れて【睡眠香の花】の種を【樹木獣・鼠】が一つだけ口の中からペッと吐き出して穴の中に入れて穴に土をかけ始める。


 それから九箇所それぞれバラバラの位置に穴を掘って【睡眠香の花】の種を樹木獣たちは埋めていった。


 「これで最低限の用意は出来たはずだ。あとは時間をかけてじっくりと外部の2種類のエネルギーの確保をして、それが終われば……。」


 これからの人喰い鬼たちとの戦いを思い浮かべながら樹木獣たちを地下室に戻らせることにした。


 遠隔からの指示を受けた樹木獣たちが校舎に向かうのを【歩く小さな視界の花】の映像で確認し終わると、俺は【縛り付ける強靭な蔦】の種作りを再開するその前に苔玉からエネルギーの補給だ。


 【生命エネルギー循環の苔玉】、【精神エネルギー循環の苔玉】の順番で苔玉からエネルギーを吸収して回復を終えると【縛り付ける強靭な蔦】の種作りを行ない始める。


 今回の量産する【縛り付ける強靭な蔦】は最低でも30個、最高で50個は創造しようと思う。


 人喰い鬼の拘束で千切れたり拘束に失敗しても良いようにするためにだ。


 とりあえずこれくらいの数の【縛り付ける強靭な蔦】を用意しておけば問題はないだろう。


 種の量産とその種にエネルギーを込めることを考えると、【生命エネルギー循環の苔玉】と【精神エネルギー循環の苔玉】に蓄えていたエネルギーが枯渇するかもしれないな。


 苔玉にエネルギーを貯めるのは大変だったのに、使うとするとこんなにも早くエネルギーがなくなるのには苦労したのになんだかなーと言った気持ちになる。


 そんなこんなで【縛り付ける強靭な蔦】の種の創造をしている途中で樹木獣たちが帰還したりしながらも、この日は【縛り付ける強靭な蔦】の種の準備に費やすのだった。

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巨大生物戦争 甲羅に籠る亀 @GOROHIRO

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