第4話
スッキリとした目覚めで目を覚ました。【回復力増量の香るラベンダー】の匂いの効果なのかもしれない。
そんな効果を付けた訳じゃないけど、これは【回復力増量の香るラベンダー】を生み出すのに参考にしたラベンダーの効果なのかも。
「んーー、はぁ。食べてから外の様子を確認しますかね。」
起き上がって身体を伸ばした俺は非常食を食べてから、外に植えてある【歩く小さな視界の花】で外の様子を確認した。
朝日が昇って校庭に日差しが入っているのが脳裏に映し出されており、既に人喰い鬼たちは目覚めているようだ。
人喰い鬼たちはそれぞれ死体の山から死体や瀕死の様子の人間を食べている。音がしたのならバリバリと骨を噛み砕く音が聞こえていたかも。
「はぁ、朝から嫌なものを見たな。」
映像越しだからこそこんなもので済んでいるのだろうか?それともやっぱり精神的に麻痺してるのかも?
「まあ良いか。生き残ることの方がおれにとは重要なんだから。」
俺は別の【歩く小さな視界の花】の視界を脳裏に映し出していく。
視界の端に人喰い鬼たちの姿が映し出されているが、それを気にしないことにして町の様子を確認していった。
やはり町は静まり返っていると思われる。道路には誰も歩いていないし、家の中で静かに音を出さないで隠れ潜んでいるのだと思う。
「やっぱりこんな状況で出歩く人はいないか。」
このまま見ていても人喰い鬼たちが動き出さない限り外の状況も変わらないだろう。と判断した俺はいずれ人喰い鬼たちを一網打尽にする為の準備をすることにした。
脳裏に映し出された映像を切ると、昨日作り出していた【生命エネルギー循環の苔玉】と【精神エネルギー循環の苔玉】を取り寄せる。
「触るだけじゃ意味ないか。」
青色の苔玉である【生命エネルギー循環の苔玉】を右に持ち、紅色の苔玉である【精神エネルギー循環の苔玉】を左に持ってみたがどちらもエネルギーの吸収は起こらない。
「それなら送り込む感じか?」
意識を深く集中する。
そうして集中した俺は異能を発動させる際にいつも消費するエネルギーに意識を向けていく。
「ん、あった。」
生命エネルギーと精神エネルギーを自身に見つけ出した。
「流石に無理だったか。」
同時に生命エネルギーと精神エネルギーを操作することは出来ないようだ。今の段階ではだと思うが。
「一つずつやっていく必要があるってことだな。」
まずは生命エネルギーの方からすることにした。左手の【精神エネルギー循環の苔玉】は床の苔の上に置く。
あぐらをかいて両手の手のひらで包み込む感じで【生命エネルギー循環の苔玉】を持った。
再び意識を集中して生命エネルギーを探りそんなに時間をかけずに見つけ出すと、左右の手のひらに向かって生命エネルギーを動かしていく。
ゆっくりゆっくりと確実に動かして手のひらから【生命エネルギー循環の苔玉】に向かって動かしていった。
「吸収し始めたな。」
カラカラのスポンジに水が染み込んでいくように【生命エネルギー循環の苔玉】に生命エネルギーが入り込んでいくのが感じ取れる。
どんどんと気持ちが良いくらいに入り込んでいく生命エネルギーに、俺は調子を良くして次々に生命エネルギーを流していると生命エネルギーが四分の一を切り始めた。
「ここで一旦終わりにしよ。ふぅ、思った以上に疲れるな、これ。」
【生命エネルギー循環の苔玉】を置いて生命エネルギーの回復が終わるまでの間に、次は【精神エネルギー循環の苔玉】に精神エネルギーを送り込んでいくことにした。
「こっちもすんなりと吸収していくんだな。」
生命エネルギーと同様に精神エネルギーの方もすんなりと【精神エネルギー循環の苔玉】の中に入り込んでいくのを感じながら精神エネルギーを吸収させていく。
そして精神エネルギーの方も四分の一まで消費した段階で【精神エネルギー循環の苔玉】へのエネルギー吸収を終了した。
「ここまでだな。あとはエネルギーの回復を待つだけだけど、こっちの確認もしないと。」
床の苔から生えている葉にエネルギーを貯め込み増幅させる【生命エネルギー増幅草】と【精神エネルギー増幅草】に意識を向ける。
青色の葉をしている【生命エネルギー増幅草】から確認する為に、俺は手のひらサイズの葉の一枚を引き千切って口の中に入れて咀嚼してみた。
「それほど苦くないのか。」
味の方をイメージして作った訳ではないが【生命エネルギー増幅草】は食べられないほどの味ではないのは良かった。
「ん、ん〜〜?回復、してる、かな?」
若干だが生命エネルギーが回復しているのを感じる。けれど、想定していたよりも生命エネルギーの回復量は少ない。
「増幅していないって訳じゃないだろうし、それなら回復するほどの生命エネルギーを葉っぱに蓄えていなかったってことかな?」
昨日の夜に作り出した物だし、それならここまで回復しないのもおかしくはないと思う。
「【精神エネルギー増幅草】の方も回復力はそこまでないかもしれないな。けど、試してみるか。」
紅色の【精神エネルギー増幅草】の葉を先ほどと同じように一枚千切って口の中に放り込む。
咀嚼しながら精神エネルギーが回復しているのかを感じ取ってみていれば、精神エネルギーの方も生命エネルギーと同じくらいの量が回復していた。
「こっちも同じくらいの回復量みたいだ。」
苔の床に生えている【生命エネルギー増幅草】と【精神エネルギー増幅草】は一つずつだけ。
その一つずつだけの【生命エネルギー増幅草】と【精神エネルギー増幅草】に生えている葉は残り3つだ。
残りの3枚ずつの葉はエネルギーを貯め込むまで食べないことにしようと決めた俺はエネルギー回復が終わるまで外の景色を【歩く小さな視界の花】の視界で眺めることにした。
地下室の中をで【極小樹木猿】たちが動き回っているのを耳にしながら外の景色を眺めていると、人喰い鬼たちが高校の外を出る姿を発見した。
塀や校門を跨いで通って移動する人喰い鬼たちは町に向かうようだ。
車が走っていない車道を堂々と歩いて移動する人喰い鬼たちの姿を見送りながら、これから人喰い鬼たちが何をするのかを見える範囲で確認してみることにした。
「積極的に家の中を探す訳じゃないのか?」
見える範囲だが町中を彷徨いている人喰い鬼はキョロキョロと見回るだけで家の中に手を突っ込むようなことはしていなかった。
それでも家の中を窓ガラス越しに覗き込むことはしているので人間を探してはいるのだろうけど、あれなら死角に隠れて黙って静かにしていれば家の中でも暮らしていけるだろうとは思う。
「範囲外に出たか。しょうがないな。次だ。」
【歩く小さな視界の花】の視界内から観察していた人喰い鬼が見えなくなった事で校内やまだ見える範囲の人喰い鬼を観察する事にしたのだが、人喰い鬼が何かしらの特殊な行動に出ることはなく、捕まえた未だに生きている人間で遊んだり、あくびをして横になる個体もいるのが確認できる。
「あの大きさなのにそこまで知能がある訳じゃないのかもしれないな。」
頭の大きさも人間以上あるという事はそれだけ脳も大きい筈だが、脳の大きさに比べて知能のない行動が人喰い鬼たちには目立つ。
あの人喰い鬼たちが現れた裂け目の先にはそこまで苦労しないで食糧にありつける様な環境だったのだろうか?
それともこちらの世界に来れた人喰い鬼の個体は頭の良い個体の人喰い鬼ではないのかもしれない。
「あ、死んだ。」
手足を引っ張ったり地面に叩き付けて人間で遊んでいた人喰い鬼の遊んでいた人間の頭が潰れる瞬間が見えた。
人間が死ぬその瞬間を目撃したのにそこまでショックを受けてはいないのにショックがあるが、やっぱり何処かあの日に心が壊れてしまったのか、それとも元々俺はこんなものだったのかは分からないが。
「直接見ていないのもあるんだろうけど……はぁ、人喰い鬼の観察も飽きてきたなぁ。」
大の字で横になりながら天井の苔を見上げてしまう。流石にスマホも使えない現状には飽き飽きしてきた。
人喰い鬼たちを殺す為にやる事は多いが、それをやるにも必要な生命エネルギーも精神エネルギーも足りないし、エネルギー回復の為に休む時間が増えるばかりで休憩中はやる事がない。
「あーー暇だ。いっそのこと寝るかな。」
眠気はないけど強制的に睡眠状態にする様な植物を作り出すことだって俺の異能なら可能だ。
そうして作り出した植物の効果を使って強制睡眠になれば起きる頃にはエネルギーも回復している筈だろう。
「それじゃあ早速作ってみるかな。あっ、そうだ。寝る時間の調整も出来るようにしてみよう。」
今回は眠る時間調整も可能な植物だ。思い付くのは食べることだが、今回は睡眠効果のあるのは花の蜜にしよう。
エネルギー回復用の増幅草系の葉っぱの味は調整しなかった事もあって美味しくはなかったしな。
「まずは味だな。サラサラの蜂蜜みたいな感じにするか。それなら飲みやすいだろうしな。それと一つの花から取れる蜜で1時間の睡眠にしよう。」
それから大体の作り出す植物の情報を思い浮かべてから植物の創造を開始した。
そうして手のひらに【眠りを誘う蜜の花】が出来上がる。その見た目はツツジの様だ。
「それじゃあ早速飲んでみよう。」
【眠りを誘う蜜の花】の花の萼を取り除いてから口に加える。すると、サラサラとした甘い花の蜜が垂れてきた。
「甘味の薄い蜂蜜みたいな味かな?」
飲んですぐに眠りに付いてしまうほどには睡眠効果がある訳じゃなく、【眠りを誘う蜜の花】の蜜を飲んでから数分はかかり、それからすぐに口を濯いでから横になって眠りに付くのだった。
「ん、んーーはぁ。思ったよりもスッキリと起きられるんだな。」
【眠りを誘う蜜の花】を使った睡眠の目覚めは悪くなかった。スッキリとした目覚めで目を覚ました俺は自身のエネルギーの確認をすることにした。
「なかなか回復してるな。」
眠ったことで生命エネルギーも精神エネルギーも回復している。精神エネルギーの方がより多く回復しているようだが。
とりあえず回復したエネルギー分は2種類の苔玉には使わずに別のことに使うことにした。
「やっぱり味が問題だもんな。」
まずは【生命エネルギー増幅草】を大幅に改変から始めることにした。
いまの【生命エネルギー増幅草】の葉っぱの味は若干の苦味がある様なものだ。それを改変して一口大の果実を実るようにする。イメージとしてはプチトマトみたいなもんだ。
増幅したエネルギーがそのプチトマトの様な果実に溜まっていく様にすればいいだろう。
その果実の味も食べやすいさっぱりとした葡萄味にしよう。【生命エネルギー増幅草】マスカット味にして【精神エネルギー増幅草】は巨峰味だ。
「よしイメージも固まった。やろう。」
イメージを固めて【生命エネルギー増幅草】から開始した。
元々の【生命エネルギー増幅草】から付け加えるようにする改変だからか、それほど難しくはないが創造にしようするエネルギー量は増えてしまう。まあ、これは仕方ないことだが。
「ふぅー、終わった。次だ」
【生命エネルギー増幅草】の改変が終われば、次は【精神エネルギー増幅草】の改変を行なっていく。
次の【精神エネルギー増幅草】は【生命エネルギー増幅草】の改変とほとんど同じだから苦労は少しは減る筈だ。
そして考えていた通りにそれほど【精神エネルギー増幅草】の改変に苦労することはなく改変は終わった。
「味を試してみるその前にこれを食べ切ることからだよな。」
残りの3枚の葉っぱがある【生命エネルギー増幅草】と【精神エネルギー増幅草】を見て葉っぱを千切っていく。
昨日生やした物は味に問題が若干ある物だが、今の俺のエネルギーは2つの植物の改変をした事もあって減少している。
その減少した分のエネルギーの回復をする為にも口の中に千切った6枚の葉っぱを口に入れて食べた。
「いっぺんに食べると味がすごいな。」
若干だった苦味が増して苦いがそれでも消費したエネルギーが少しは回復した。この回復したエネルギーを使って改変したばかりの2つの植物の創造を行なっていこう。まずは【生命エネルギー増幅草】からだ。
「ああ、ここまで減るのかエネルギー。」
思った以上にエネルギーを消費した。睡眠で増えた分と回復した分は使い切ってしまった。
その代わりに今度の【生命エネルギー増幅草】は何度でも果実が実るので使い切りじゃなくなった。
俺は改変した【精神エネルギー増幅草】を創造する為に残ったエネルギーで【眠りを誘う蜜の花】を創造して一眠り付くことにする。
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