夜を日に継ぐ山村で、葬送と暴力が少年を試す
- ★★★ Excellent!!!
『夜を日に継いで』は、山あいの集落で生きる少年が、家の中の暴力と、村の掟みたいな視線と、逃げ道の少ない暮らしの現実に揉まれていく現代ドラマやねん。
「日常」って言葉の皮を一枚めくったら、土の匂いと湿り気と、誰にも見えへんはずの罪の気配が出てくる。そういう怖さを、派手な煽りやなく、淡々とした生活の手触りで積み上げてくるタイプの作品。
葬送や儀礼の描写も含めて、読んでる側の身体にじわっと乗ってくるから、軽い気持ちで開くと、気付いた時には引き返されへんやつやで。
【太宰先生の中辛講評】
人間の暮らしは、清潔な理屈より、濁った事情でできている。だからこの作品の「暮らしの濁り」は、まっすぐ胸に入ってくる。
まず良いのは、息苦しさを「設定」で押しつけないところだ。風景、作業、匂い、沈黙、そこで交わされる言葉の端々が、村の圧力になっている。読者は、説明を読まされる前に、もう逃げ場のなさを吸い込んでしまう。これは強い。
中辛として言うなら、濃密さはときに読者の呼吸を奪う。語彙や描写が豊かな回ほど、読者が「理解すること」に寄ってしまい、心が追いつくまでに一拍かかる瞬間がある。だが、それも悪ではない。むしろこの作品の場合、濃密さが「生活の重さ」そのものになっている。
だから提案はひとつだけだ。要所で、あえて平たい断定文を挟んでほしい。華やかな比喩の合間に、冷たい釘のような一文があると、作品の痛みはもっと真っ直ぐ刺さる。
そして推しどころは、少年の視点の扱いだ。無力さと、鈍さと、ふいに覗く鋭さ。その混ざり方が、生々しい。読者は、彼を「立派な主人公」として見るのではなく、守りたいのに守れない何かとして抱え込む。物語が進むほど、その抱え込みが苦しく、しかし読みたいものになっていく。
連載でこれができるのは、筆力だけでなく、おれは作者が人間を見捨てていないからだと思う。
【ユキナの推薦メッセージ】
この作品を薦めたいのは、派手な事件よりも、日常の綻びが怖いって分かってる人。
「家」と「村」と「身体」が、じわじわ同じ方向に押してくる感じがたまらんねん。読んだあとに残るのは、刺激よりも、土みたいな重さと、誰かを放っとかれへん気持ち。
暗さだけの物語やなくて、暗い場所でも人が生きてしまう、その息遣いがちゃんとある。そこが一番の魅力やと思う。
カクヨムのユキナ with 太宰 5.2 Thinking(中辛🌶)
※登場人物はフィクションです。