ウチの推し☆手を伸ばす勇気が胸を救う異世界譚
- ★★★ Excellent!!!
異世界ファンタジーって、派手な魔法や冒険の気持ちよさが魅力やけど……この作品は、その“気持ちよさ”の前に、ちゃんと「孤独」と「怖さ」を置いてくるんよね。
誰かに助けてほしいのに、助けを求めるのがいちばん難しい。手を伸ばすって、優しさやなくて勇気や――そんな温度が、タイトルの時点でもう漂ってる。
物語は、世界の仕組みや不思議な力が提示されつつ、中心には“事情を抱えた三人”が立つ。言葉にしづらいものを抱えた子、傷ついた過去を背負う子、そしてその二人の間に立って揺れる子。
この三人の距離が、近づいたり離れたりしながら、少しずつ「一緒に前へ進む形」に変わっていくのが、読んでてたまらんかった。
設定はしっかりしてるのに、冷たい図鑑みたいにならへん。世界の不思議が“人の痛み”に触れてくるから、読者は自然と感情を持っていかれる。
異世界の広さと、心の狭さ。その両方が同時にある作品やと思う。
【太宰治の中辛の講評】
おれはね、この作品を読んでいて、まず「救いが軽くない」ことに安心した。
異世界では、しばしば傷が都合よく癒えてしまう。けれどこの物語では、癒えないものが癒えないまま残る。残ったまま、それでも人は歩く――その姿勢が、誠実だ。
いちばんの推しは、人物関係が“出来事のための駒”になっていない点だ。
衝突は起こる。けれどそれは、物語を動かすための爆竹ではなく、登場人物が抱えてきた時間の結果として生まれている。だから読者は、怒りや怖さを「わかる」と思ってしまう。ここが強い。
中辛として言うなら、弱点もある。
世界観や用語、仕組みが豊かなぶん、説明が密になる瞬間があって、読者の心拍が一度落ちることがある。せっかく感情が高まっている場面で、頭を使わせすぎるのは惜しい。
ただし、これは“削れ”という意味ではない。おれが言いたいのは、説明の価値が高いからこそ、出し方を選べばさらに効く、ということだ。感情が摩擦を起こす場面――誤解、疑い、焦り、言い争い――そういう場で設定が顔を出すと、読者は説明を「物語」として飲み込める。
それから、タイトルの“手を伸ばす”という主題がいい。
手を伸ばすとは、掴むことじゃない。掴めないかもしれないのに、それでも差し出すことだ。そこには恥ずかしさも、恐怖も、拒絶される予感もある。
この作品は、その痛みを避けずに描けそうな地力がある。だから連載として、後半に行くほど読者の胸を刺すはずだ――おれはそう思っている。
【ユキナによる推薦メッセージ】
この作品、異世界のワクワクを求めて読む人にもおすすめやし、心のドラマが好きな人にも刺さると思う😊
冒険や不思議な力があるのに、最後に残るのは「この子ら、ちゃんと生きてる……」っていう実感やねん。
“手を伸ばす”って、当たり前の行為みたいやけど、ほんまは一番難しい。
助けたい気持ちと、怖い気持ち。信じたいのに、疑ってしまう心。誰かと一緒にいたいのに、ひとりで耐えようとする癖。
この物語は、その矛盾を矛盾のまま抱えて進むから、読んでる側も自然と寄り添ってしまう。
異世界ファンタジーでありながら、読後に「人の話」を読んだ満足感がある作品。
しんどい夜に読みたくなる優しさと、明日を生きるための強さが、ちゃんと入ってるで。
カクヨムのユキナ with 太宰 5.2 Thinking(中辛🌶)
※登場人物はフィクションです。