エピローグ

「あいつら、どっか行っとるわ」


 久しぶりにやって来たワークスペースで俺はスマホを見ながら隣のお嬢へ話しかける。

 少し前までここで情報の整理をして街の見回りに出る、を繰り返していた日々がやけに遠く感じる。


(まぁそれも今日までなんやろうけどな)


 お嬢から先に聞かされていた話を思い出し、これからの日々に少し気が参った。


「つい数日前まで病室で寝ていたのに、元気なものだな」


 お嬢はノーパソの画面に向かったまま呟くように答えた。

 結局、カネイトくんの処罰は咄嗟に抵抗するしかない状況だったと判断されかなり軽いものになった。


(反省文の提出とボランティアの参加やったっけな)


 高校生、あれくらいの無茶があっても良い。もちろん、命があってこそだけどな、と取調室を出てきてお嬢は小さく笑っていた。


「えーデートかな? 良いなー! どこへ行ってるんですか」


 お嬢の隣からシイさんの声がする。相変わらずどんな時でも元気で騒がしい。


「本とカフェが併設されてる所やな。結構ちゃんとカフェっぽいな」


 投稿された写真を改めて見ながら俺は答えた。

 小慣れた笑顔と共にピースをするアマツカちゃんの隣でぎこちなく口角を上げる硬い表情のカネイトくん、その後ろにズラッと並んだ本が写っている。机には二つの小さな白いマグカップとホットケーキと本が一つずつ。どちらがどちらを選んだのか分かり易い。


「えー! 良いなー! チラッ、チラッ」


 分かりやすく行きたいアピールを出すシイさんに俺は思わず声を出して笑い「だって、お嬢」と声をかけた。


「わかった。どこへ行ったのか、また彼に聞いておこう」


 お嬢は慣れた調子で変わらずキーボードを打ちながら淡々とした口調で答えた。


「彼が解決してくれたおかげで我々もしっかり眠れている」


「ほんとに感謝ですねー!」


 そんな話をしていた時だ。


「失礼します」


 ワークスペースの扉が開き、第十席の各チームリーダー達が部屋に集った。


「さて、と。これで第十席みんな揃ったな」


 お嬢がパソコンから顔を上げて立ち上がる。


「今回の件で外部の何者かがこの街の平穏をおびやかそうとしている事はほぼ間違いないようだ」


 部屋に緊張が走ったのがその場の空気から伝わってくる。

 皆それぞれ少しずつ姿勢を正した。今回の招集の重大さに気がつき始めたようだ。


「これは外部から我が教会管轄地域への侵略、侵攻と見て良いだろう。そして、その進入経路がつい先ほど割れた。我々第十席の一員が解決してくれたおかげで私たちの部隊へ優先的に情報を渡してもらったが上はあまり大事にはしたくないらしい」


 上も十年前の抗争のような大惨事は避けたいのだろう。

 あれだけの武器を揃えて流せる所だ。あの日の抗争以上の被害が出る可能性もある。


「ただ、このまま放っておくわけにもいかず、それが隣町の教会の真意なのか、はたまた別の組織なのかの調査が必要だ。その為、隣町の教会へ潜入、捜査。また万が一のために、隣町へ速やかに侵入し潜入捜査に向かった仲間を奪還できるよう、その作戦の準備までしておく。その具体的な計画を……どうした?」


 一人のチームリーダーが手を上げていた。


「質問失礼します。潜入捜査に向かう人員というのは、どのチームから」


「キドウくんには先に話を通したが彼のチームだ。最近活きの良いのが入ってな。今回の件も大活躍だったし」


 期待されているな、とその責任の重さに俺は苦笑いを浮かべる。先にこのワークスペースへ呼び出された俺はお嬢からカネイトくんを鍛えるようにと言われている。そのためにシイさんも貸し出すらしい。


(あぁ見えて相当な武闘派やしなぁ)


 シイさんの方を横目で見る。何も分かってなさそうな顔をしながらお嬢の言葉に頷いていた。


(まぁ第十席最強は多分彼女やろな)


 あんな化け物を単独で倒せてしまったカネイト君の真の実力を測るためにもシイさんはちょうどいい。


「期待をしているよ」


 ふいにお嬢が俺に向かって言う。

 俺は「任せてくださいよっ!」と親指を立てて返した。

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俺がこの聖戦を支配する 夏草枯々ナツクサカルル @nonnbiri

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