第9話

「な、なんでよ…」

私の目の前に居るのは焦げ付いた死体だった。

でも、それでも、少しだけ顔の一部が残っていて、それは完全に隆一の顔だった。

至る所から血が焼け付いた後があって、手の一部が床に転がっていて、足は膝がまっすぐ上を向いているのに、足首の方は左右に開いている。


死んでいる

即死だったのだと思う

なんで…私はあの時…手を離してしまったんだろ…

隆一…隆一…

「お、お嬢様…」

「嫌だ…帰ってくるって約束したじゃない…私を守るって約束したじゃない!!!!!!なんで嘘つくのよ…なんで約束破るのよ…私は隆一を愛しているのに…」

私のせい…私が…社長で命を狙わているから…

もう…嫌だ…

「鈴木…帰るわよ…」

「え…?で、ですが___」

「帰るって言ってるじゃない!!!!!!!!!!なんで言うこと聞けないのよ!!!!!!!メイドはただ私に従ってればそれでいいのよ!!!!!!!!!」

私は大声で、叫び、鈴木は、驚いたように一歩後退りした。

そして、鈴木は、「し、失礼しましたお嬢様!!」と、頭を下げる。

隆一…

なんで…私は大事なものが無くなっていくのよ…

お父さんも…お母さんも失って…なんで…隆一まで失わなければならないの…


豪壮な玄関から帰り、私は階段を登る。

「お、お嬢様どちらへ…」

「部屋に戻る…付いてこないで…」


大きな椅子のある部屋…

私は、すぐ近くにあったカッターを取り出した。

「すぐ行く…隆一…」

そして、カッターの刃を出し、手首を切る。

すぐさま血が溢れ出るが、痛みすら既に感じない。

「お嬢様…入ります…って、何をやっておられるんですか!?」

すると、直ぐに鈴木が部屋の中へと入ってきた。

血が部屋の中に溢れる。

「な、なんで入ってきたのよ…」

「隆一さんに任されたんです…お嬢様のこと…」

「貴方に隆一の変わりは務まらないわよ…」

「分かってますよ…」

「じゃあ…」

「でも…隆一さんが一番愛したお嬢様を死なせるわけには行きませんよ…」

隆一は…私のことなんか愛してないわよ…

隆一は…私に愛してるなんて言わなかった…

隆一は…私の事を愛してたら…自分のことも…きっと大事に…

私のせいで…隆一は…!!!!!!

「うああああああああああ!!!!!!!!!!」

私はカッターを大きく振り回し、もう一度、手首に向かって振り翳す。

「何やってるんですか!?!?!?!?」

そして、カッターは鈴木によって奪われる。

「渡してよ…死にたいの…」

「駄目です…」

「なんで…私は死にたいって言ってるでしょ!!!!!!メイドにそれを否定する権利なんてないでしょ!!!!!!!!!」

「私は今、1人の人間として言っているんです…隆一さんが死んだ意味を…絶対に無駄になんかしないでください!!!!!!隆一さんはお嬢様をすくために命を落としたんです!!!!!!!!それを無下になんて絶対にさせません!!!!!!!!!!!!!!」

私は叫ぶと、鈴木は、もっと大きな声を出す。

「うあ…ご、ごめんなさい…」

隆一は…私を守るために死んだ…

それを無下に…私は…また隆一を殺そうとしていた…

「お、お嬢様!!!!」

すると、森崎が涙を流しながら私の部屋へと入って来た。

「な、何やってるんですか…」

「森崎ぃぃぃぃ……!!!!!」





タオルを握って私は更衣室のロッカーを開ける。

そして服を全て脱ぎ、タオルを体に巻き付けて、誰も居ないお風呂の扉を開けた。

一般家庭には無いような旅館かと勘違いするかのような大きなお風呂。

シャワーが数個あり、それぞれに鏡がついている。

まずはお風呂に近づいて、水面を眺める。


愛する人の影はない。


そして、私は扉に一番近いシャワーへと胸にタオルを巻き付けたまま、座る。

そして、シャワーヘッドを握って、持ち上げずに手前に引く。

すると、ガチャと音がして鏡が手前側に開いた。


誰も居ない何も無い空間。

鏡の中にはそれだけが広がっていた。


「そうよね…隆一なんて…居るわけないわよね…」


私は鏡の中を閉めようとすると、中で赤く光る何かがあったのが気付いた。


それは、隆一が常に持っていた赤い宝石。

そして、その赤い宝石のしたには、1枚の紙があった。


それは、中央に「アズリア様へ」と書かれており、小さく右下に「隆一より」と刻まれている。


「うぐっ…うわあ……うはあああ!!!!!!!!!!!」


溢れ出る涙。

いくら手で拭き取っても、溢れ出る。

ここがお風呂場で良かった。


「なんで…なんで…!!!!!!うわあああああああああ!!!!!!!」


その時、あの夜の事を思い出す。


あれは所有者の1番愛している人に渡すのがお決まりなんです。


「愛してるなら…愛してるって言ってよ!!!!!!愛してるなら…私のこと幸せにしてよ……」

私はその赤い宝石を胸元でぎゅっと握ると、膝を地面に突いて涙を床へと垂らす。


「うあああああああああ…………!!!!!!!」

そして、私は思いっきり、全ての感情を吐き出した。

声にして、涙にして。


でも、いつかは笑わないとダメだ。

だって、それが隆一の望む私なんでしょ…?




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赤い宝石のボディーガード 最悪な贈り物@萌えを求めて勉強中 @Worstgift37564

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