国道での声……
七倉イルカ
第1話 国道での声……
「どうして、国道の方を通らないの?」
ハンドルを握る俺に、志穂が不思議そうな声で問う。
二人でよく行くデートスポットには、国道を通った方が早いのだが、俺はいつも県道を通り、回り道のルートで行き来するのだ。
「……三年前」
少し悩んでから、俺は口を開いた。
「まだ志穂とつき合う前、あの国道の先で事故を起こしそうになったんだよ。
急にハンドルを取られて、ガードレールに激突しそうになったんだ。
なんとかブレーキが間に合ったんだけど……。
それで、止まった車の中で息を整えていたら、耳元で声が聞こえたんだ。
知らない女性の声で、『またね、大好き』ってね……」
俺は、その声を思い出し、ぞくりと身を震わせた。
「怖い話なの?」
「たぶんね」
志穂の言葉に、俺は小さく頷いた。
「『またね』って言うのは、次、また、いつか会おうねっていう意味だろ」
「『大好き』は?」
「そのとき、俺は一人で車に乗っていたんだ。
普通に考えて、俺のことが大好きって意味じゃないかな。
つまり、あの世にいる何かが、俺のことを好きになって、事故らせようとしたんじゃないかってね……」
「あなたを殺して、あの世で一緒になろうとしたってことか。
で、失敗しちゃったから、『またね』、次こそは……って感じかな」
「怖い話だろ」
俺はそう言った。
「……逆じゃないの?」
「逆?」
俺は志穂に問い返す。
「その声の女性は、いつも、その道を通るあなたを見ていたのよ。
事故は女性のせいじゃなくて、あなたの運転ミス。
女性は不思議な力で、あなたを助けてくれたのよ。
助かったあなたに言った『またね』は、助かったから、またこの道で会おうねっていう意味なんじゃないのかな」
「優しい考え方をするんだな」
俺はそう言った。
志穂のそう言うところが好きなのだ。
「『大好き』は?」
「それはそのまま。その女性、あなたのことが大好きだったんじゃないのかな」
俺は左手を伸ばすと、助手席の志穂の右手をそっと握った。
「だったら、なおさら、あの道は通れないよ」
国道での声…… 七倉イルカ @nuts05
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます