夜の歪みを歩く
三角海域
夜の歪みを歩く
いつもよりもハイペースかつ大量に食事をとった。その日は夕飯までほとんど食事をせず、空腹の極みだったのが大きい。
その結果、腹が重たく感じるほどの満腹となり、座っていることすら苦痛でベッドに転がった。
寝転がると少しは楽になったがそのかわりにひどい眠気におそわれ、そのまま眠ってしまった。
ハッと目を覚ますと、すでに深夜。いつも起床する時刻の30分前だった。
ゆっくりシャワーを浴びる時間はない。体と髪を軽く洗い、仕事の準備をする。
体は重く、睡眠の深さとは裏腹に、気だるさがまとわりついている。
冷たい水をかぶっても目は覚めず、ぼんやりと外へ出る。
月が綺麗な夜だ。だが、妙に月夜が明るく感じられる。きっと呆けているせいだ。
冷たい風が吹く。その冷気を水洗いした髪が吸い込み、体を芯から冷やす。
歩きなれたいつもの道も、頭が半分眠っていると異世界のように感じられる。
コンビニ・交番・清掃中のファミレス。それらが放つ光が世界を歪めている。
おかしな話だけれど、そんな風に捻じれている世界を歩いていると、僕らは世界をそこに「在る」ものとしてとらえているのではなく、そこに在るものを「それ」として脳が認識させているのだなと感じる。
数十分歩き、ようやく頭が冴えてくると、つまみで調整したかのように月の明るさは落ちて、いつも通りの夜になった。
僕らが見ている世界というのは、脳が出力を間違えたらこんなに簡単に歪んでしまう。
日常の風景というものはそれほど変化しない。けれど、人それぞれで見え方は違うのかもしれない。
誰かの目を通してこの世界を見つめたら、どんな風に見えるのだろうか。
少しだけ、誰かの視界をのぞきたくなった。
夜の歪みを歩く 三角海域 @sankakukaiiki
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