第四章「夏の、終わり」

第20話 夏の終わり

 八月三十一日。

 今日で夏休みは終わる。

 太陽はとっくに西の空にしずんで、静かな夜が始まっている。


 ぼくはもう一度、ランドセルの中をかくにんした。

 夏休みの練習帳、計算ドリルと漢字ドリル、漢字書き取り帳、ラジオ体操出席カード、読書感想文などなど。

 発明工夫と自由研究は間に合わなかったけど、出来るものは全部やった。

 もちろん名前は書いてある。


 ポコン。


 FINEファインだ。

 グループメッセージの方か。


 あれ以来、ぼくたち幼なじみ四人は、毎晩のようにグループメッセージをしている。

 内容はまあ、ただのおしゃべりだったり、ちょっとした相談ごとだったり、遊びに行く計画だったり。


 ――あの日。


 YSイースの結界に閉じこめられたぼくたちは、無事に脱出することができた。

 それは月城つきしろ先生のおかげ。

 そして、「リーベル」のおかげだ。

 ぼくが生み出した片足の妖精リーベルは、体当たりでYSを消滅させて自分も、消えた。

 それ以来、一度もぼくの前に現れていない。

 でも、ドリルを解けばちゃんと「ピンポーン」って音がするし、終われば達成感がぼくを包んでくれる。

 それは妖精がいる証拠だって月城先生は言う。

 だからぼくは、気長に待つつもりだ。


 あれから、月城先生はぼくたちにいろいろな話をしてくれた。

 まずYSは元々、澤村さわむら悠真ゆうまが長年かかえつづけてきた、深くて暗い負の感情。


 悠真さんは小学四年の時、お母さんを病気で亡くした。

 その後再婚した新しいお母さんが、悠真さんを虐待ぎゃくたいしつづけたんだそう。

 学校でも孤立するようになった悠真さんは、ひどいいじめを受けることになった。


 そしてとうとう、五年生のある時、悠真さんは自分の命を終わらせることを選んだんだ。

 担任だった月城先生は、悠真さんの命を救うために、禁じられた魔法を使った。

 でも命は救われたけど、負の感情が強烈に抑えられてどんどん濃くなって、それがYSとして自我を持つようになったらしい。

 ぼくが夏祭りの夜に公園で見た青緑の光は、わずかに残った悠真さんの心を消さないようにしていた、月城先生の魔法だったんだ。


 たしかに、僕と似ているかも知れない。

 同じように母親から精神的に追いつめられて、心が病んだ。

 ぼくは逃げられたけど、悠真さんはそれが出来なかった。

 つらかっただろうな。

 YSが消えたあとの悠真さんは、あれからずっと眠り続けていると八神さんが教えてくれた。


 そうそう。

 幼稚園の時の、こうちゃんとぼくの大ゲンカ。

 あれは光ちゃんの早とちりだったらしいんだ。

 たしかに八神やがみさんは、最初にぼくの顔を描いてくれたけど、その後光ちゃんや香坂こうさかさんの顔も描くつもりだったって。

 まったく、光ちゃんらしい。

 同じような勘違いを、香坂さんもしていたってんだから、まったく。


 でも八神さんは、自分が原因でケンカになったことを、両親に教えてもらってから、ぼくたちにずっと謝りたかったって言ってた。

 でも、違う学校になったし、ぼくも引っ越しちゃったからね。

 きっとタイミングが悪かったんだ、いろいろ。


瀧人たきとー、明日の準備は出来てんのかー?』

『もちろん。今もかくにんしてたとこだよ』

『でも残念よね。月城先生はいないなんて』


 月城先生は、禁じられた魔法を使ってカエルになってしまった。

 自分でなったんじゃなくて、罰としてそうさせられたんだって。

 学校にいる間だけ、先生の姿でいることを許可されたとか。


「きみがYSを破ってくれたおかげで、ぼくも澤村くんも救われたんだ。ありがとう、乾くん」


 月城先生は、カエルの姿でそう言った。

 禁じられた魔法を使い、一人の少年からYSなんて化け物を生みだしたことで、月城先生は「消える」ことになっていた。

 でも、許されて元に戻れることが決まったんだそう。

 だから、一度「人間社会」を出る必要があって、先生をやめなきゃならないんだ。


『次の土日、だれか図書館につきあって』

『おれが行くぜ、八神さん』


 ぼくたち四人の関係は、少しだけ変わりそうな感じだ。

 香坂さんも、直接会うとまだ少しモジモジしてるけど、あることを約束したらすごく喜んでくれている。

 

 それは、昔のように名前で呼ぶっていう約束。


 ちょっと気恥ずかしくて、まだ出来ていないけどさ。

 いつかあの置き手紙、読ませてもらえるのかな。


 そして、ぼくには新しい目標ができた。

 それは……月城先生のような、魔法使いになること。

 そのためには、もっともっと勉強をがんばらなきゃね。

 

 そうだ、最後に言っておくよ。


 宿題は――クソなんかじゃない。

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サマータイム・ホームワーク 夏井涼 @natsui_ryo

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