第13話 迎え盆と光士郎の苦悩

 ふれあいホームステイが始まって、今日で三日目。

 ぼくはいつものように、大勢の家族といっしょに朝ごはんを食べながら、少しずつ自分がこの雰囲気になじんできているのを感じた。

 家がいぬい家と似ているからかも知れない。

 もちろん、こっちの方が全然広いけどね。


瀧人たきとくん、今日は迎え盆だからね。午前中はお墓参りに行って、夕方からは迎え火を焚くの、ちょっといそがしいかも知れないから覚悟しといてね」

「はい」


 お墓参りについては、ふれあいホームステイの間でも例外的に自分の家の方に行くものだって、前もって聞いている。

 乾家のお墓参りは、明日。

 つまりぼくの場合、今日と明日は両方お墓参りに行くってこと。

 そして、今日だけは香坂こうさかさんも帰ってくるってことになるんだ。


 朝食の後、出かけるまでの間をぼくは自分の部屋ですごすことにした。

 そう言えば、ちょっと気になってることがあるんだ。

 ぼくはスマホでFINEファインを開いた。


(やっぱり、誰も会話してない)


 夏祭りの夜に作った、四人の幼なじみグループ。

 出来てまだそんなに経ってないけど、一日の間には誰かしらがメッセージを交換していた。

 特にこうちゃんは、ただのあいさつでもくだらない話でも、必ず投稿してたのに。

 それなのに、昨日は誰一人、グループメッセージを使っていなかった。

 とりあえずぼくは、グループメッセージに『おはよう』と送ってみる。


 ところがしばらく待っても、返事をくれたのは八神やがみさんだけ。

 ぼくのあいさつに対して、既読は「1」。

 つまり、光ちゃんだけじゃなくて香坂さんも、見ていないことになる。

 もしかしたら、ホーム画面の通知だけ見てるか、いわゆる「ブオン機能」で見てるのか、どっちにしても何も返ってこないのは、どう考えてもおかしい。


 無視されるような心当たりは……なくもないか、光ちゃんについては。

 原因は分かってないけど。

 香坂さんについては、まったく分からないけど、この後きっと会うだろうから、その時にたしかめればいいか。


 その時、とつぜんぼくの部屋のとびらがノックされた。


「瀧人くん、いる?」


 香坂さんだ。もう帰ってきたんだ。

 ぼくを呼びに来てくれたのかな。


「う、うん。ちょっと待って」


 ぼくはあわてて立ち上がると、香坂さんを迎えた。


「おはよう、瀧人くん」


 見た感じ、いつも香坂さん。

 特に変わったことはないみたいだけど。


「もうすぐお墓参りに出かけるから、来てって」

「分かった。行こう」

「先に行ってて。わたしも用事をすませたら、すぐに行くから」

「? 分かった」


 いつ呼ばれてもいいように、支度はすんでる。ぼくは居間へと向かった。


    ◇◇◇


 お墓参りも無事にすみ、ぼくたちは香坂家に戻ってきた。

 途中、みんなで昼ごはんを外食したので、もう午後二時近い。


 香坂さんは、いつの間にかいなくなっていた。

 どこが、というわけじゃないけど、何となく変だった。

 何も言わずにホームステイ先にもどるとか……あんまり香坂さんらしくないように思うし、そもそもお墓参り中もよそよそしかった気がする。

 ぼく、何かしたかな。

 そんなだったから、結局FINEのことも聞けなかった。


「さて、それじゃあ迎え火の準備をしましょう。瀧人くんはやったことある?」


 香坂さんのお母さんの質問にぼくは、はいと答えた。

 前の学校に通ってた時も、お盆の時には今住んでる水尾みお市の家に帰省してたんだ。

 うちのおじいちゃんたちは、そういうのをきちんとする人たちなので、ぼくもいっしょうけんめい準備を手伝った。


精霊しょうりょうだなを作るんですよね。精霊しょうりょううまとか精霊しょうりょううしとか飾ったり。あと閼伽水あかすいなんかも」

「あら、よく知ってるわね。他にもいろいろあるから、お手伝い、頼むわね」


 そんなわけで今日は香坂家の一員として、準備をがんばった。

 もやもやすること――光ちゃんや香坂さんのこと――を、集中してると忘れられたのも地味にありがたかった。


 そして、もう日が暮れて、西の空に少しだけ夕焼けが残って見えるころ。

 迎え火の儀式が始まった。


 玄関先に置いた素焼きのお皿の上で、おがらの山に火をつけると、白い煙が立ちのぼり始めた。

 ご先祖様は、この煙を目安に帰ってくるんだそう。

 それから、帰ってきたご先祖様を、いっしょうけんめい作った精霊棚へと案内して、ぼくたちは仏壇の前に集まる。

 手を合わせながら、心の中で「お帰りなさい」とあいさつして、儀式は終わった。

 ご先祖様が目に見えるわけじゃないけど、心の中がきれいになったような気がする。


(うっ!)


 その瞬間、あの青緑あおみどり色の光がまた頭の中で弾けた。

 あの光まさか……いや、違う。

 八神さんは、「入院している」と言っていた。

 それはつまりご先祖様系じゃないってことだ。


「さあ、今夜はお供えしたそうめんと、野菜で煮びたしなんかを作りましょう。お肉がほしい人は、梅でさっぱりさせた豚バラもやしもあるから、安心してね」


 わーい、と声が上がる。

 ぼくも素直によろこびたいけど、いろいろと思い出してしまった。

 ふれあいホームステイも、明日が折り返し地点。

 もやもやしたまま、終わりたくない。


    ◇◇◇


 一方、乾家にホームステイしているさかき光士郎こうしろうは、悩んでいた。


 香坂こうさか芹里菜せりなと同じように、八神やがみ透子とうこに再会してふたたび燃え上がった気持ちと、友情との間で。

 もうとっくに忘れていたはずの、あのくやしい思いまで彼の心を焼き始めている。


 卒園間近のころ、「しょうがっこうにいっても、なかよくしたいともだちをかこう」と言う活動があった。

 光士郎は迷うことなく透子を大きく描き、その横に瀧人と芹里菜を少し小さく描いた。

 そして、透子も同じように描いてくれるはずと、何の疑いもしなかったのに、当の透子が描いたのは瀧人一人だったのだ。


 光士郎はその時悲しみよりも、目の前が真っ赤になるような激しい感情をおぼえ、いつの間にかとなりで絵を描いていた瀧人たきとになぐりかかっていった。

 わけが分からなかった瀧人も、やられっぱなしではなくなぐり返してきたので、教室は大さわぎになった。

 結局仲直りすることなく、瀧人は引っ越していき、透子も別の小学校へ進学したことで、二人との縁は切れた。


 それから五年以上が経ち、瀧人がクラスに転入生として現れた時には、当時のことなどすっかり忘れていて、なつかしい気持ちでいっぱいだった光士郎。


(それなのに)


 運命のいたずらと言うべきか。

 あの夏祭りの夜に、また出会ってしまった。

 そして、二人きりでいるところを、見てしまった。


 光士郎は布団に入っても、たかぶってなかなか寝つけないでいた。

 深夜になり、さすがにうとうとし始めた彼の夢の中に、ふしぎな人物が現れて、彼にこう告げたのだ。


月城つきしろ達也たつやのことを知りたければ、八神透子のことを知りたければ、図書館へ行け」と。

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