第14話 光士郎の嫌味、瀧人の挑戦、芹里菜の落胆
ふれあいホームステイ四日目。
今日は
ぼくは
自分の家なのに、何だか久しぶりに帰る気がして少しドキドキする。
それに今、うちには
少しきんちょうするけど、最近感じてるモヤモヤを何とかするには、ちょうどいい機会だと思う。
ちゃんと話せるといいんだけど。
◇
光ちゃんは、いた。
「よう、
ふつうのあいさつだ。
あまりにもふつうで、ぎゃくにその後どう話を切り出していいのか分からなくなったくらいだ。
午前中のお墓参りも、何ごともなく終わった。
ちなみに光ちゃんの家では、お盆の行事は取り立ててやらないらしい。
そういうところも最近は多いって、お父さんが言っていた。
迎え火については、乾家も他の家と同じように、昨日すませてあったので、午後はもう特に用事がない。
お昼ごはんをすませた後、ぼくと光ちゃんは何となくぼくの部屋にもどった。
(ちょうどいいかも)
これ以上、モヤモヤしたままでいたくない。
光ちゃんとじっくり話をする、いい機会だ。
「ねえ、光ちゃ――」
「瀧人」
ぼくの呼びかけを光ちゃんがさえぎった。
でもきっと、ただのぐうぜん。
「え?」
「お前の部屋、マジで何もないのな」
光ちゃんの顔は窓の外を向いている。
どんな表情をしてるのかよく見えない。
「お前言ってたもんな。テレビもゲーム機も、つくえすらないって」
「あ、うん」
「部屋にいる時って、何してるんだ?」
「そうだね……大体スマホ見てる、かな?」
「スマホで何見てるんだ?」
「動画。列車の先頭にカメラをつけて、終点までの景色をずっと映すやつとか」
「はあ? 推しのユーチューバーとかいねえのかよ」
「そう言うのは、あんまり見ないね。あと小説読んでる」
「小説? マンガじゃなくてか?」
別にマンガが嫌いなわけじゃない。
無料で全部読める小説が多いからなんだけどね。
「ふーん。一日に何時間くらい?」
「え?」
「何時間くらい、スマホ触ってるんだっての」
「どのくらいだろ。ちゃんと測ったことないけど、今は……三時間くらいかな」
「マジか。使いすぎじゃね? おれなんか、一日一時間以内って決められてんだぜ? スマホにそういう機能がついてるみたいでさ」
ペアレンタルコントロールってやつだろうな。
親が設定できる機能。
「制限時間が来ると、スマホごとロックされちまって何も出来ねえ。いいよな、お前はさ」
まあたしかに、ぼくはスマホ時間を制限されてない。
一応自分でも使いすぎには気をつけてるけど、そういう意味では恵まれてるのかも。
「宿題やんなくてよくてさ」
え?
「勉強しなくていいから、時間あるんだもんな。うらやましいぜ」
「いや、ぼくはやらないんじゃなくて、出来ないんだけど」
「そうだっけ。でも夏休みの宿題も、全部免除なんだろ?」
宿題一式は、もらってはある。
でも、ランドセルの中に入れたまま放置してるし、月城先生からは無理にやらなくてもいいって言われてる。
光ちゃんは何が言いたいんだろ。
「お前さあ――――逃げてんじゃねえの?」
ドクン。
「いや、仮病って言ってんじゃねえぜ? 実際、お前が倒れたとこ見てたしさ。でも、どうなのかなって」
(瀧人、逃げたらダメよ)
ドクン、ドクン。
「病気って言ってたっけ? 何病なん?」
(集中すれば、気分が悪いのなんてどこかに行っちゃうから、がんばるの)
ドクン、ドクン、ドクン。
「もしかして、『勉強やりたくない病』なんじゃね?」
(瀧人、逃げないの。さぼっちゃダメなの)
胸が……。
「お、おいっ、だいじょうぶか瀧人」
「だ、だいじょうぶ……」
息を吸うんだ。
そして、吐け。
目の前に、勉強道具は、ない。
あの人も、いないんだ。
「だいじょうぶ」
息苦しさが、少しずつ消えていく。
あの声も、遠くなっていく。
「マジでだいじょぶか?」
「うん。もう平気」
目の前で、真っ青な顔をした光ちゃんがぼくを見てる。
「その……すまん。調子にのりすぎたよ。忘れてくれ。本気で言ったんじゃない」
「分かってるよ」
「おれ、ちょっと図書館に行ってくるわ。じいちゃんたちに伝えといてくれ」
そう言って、そそくさと光ちゃんは部屋を出ていった。
「ふう……」
よかった。
本当にもう、だいじょうぶみたいだ。
それにしても、図書館って。何かとつぜんすぎるって言うか、何しに行くんだろう。
さっきの光ちゃんの言ったこと。あんまり気にしないようにしよう。
初めて言われたことでもないし。ちょっと、ショックだけど。
(お前さあ――――逃げてんじゃねえの?)
光ちゃんの言う通りかも知れない。
ぼくは何のために、月城先生のことを調べようとしたんだ?
魔法使いなら、ぼくの病気を何とかしてくれるかも知れない。
そう思ったから。
でも、本当にそれでいいのか。
自分で何とかしなくちゃいけないんじゃないのか。
他人を頼ってるうちは、治らないんじゃないか。
さっきぼくは、暴れ出した心臓をおさえられた。
やろうと思えば、出来るんじゃないのか?
部屋のすみのランドセル。おそるおそる近づいて、ゆっくりとふたを開ける。
「うっ」
思わず声が出た。
ぎっしりつめこまれた、夏休みの宿題たち。
ぼくはその中から、苦労して計算ドリルを取り出した。
こないだ八神さんが試したのと同じ、計算ドリルを。
ちゃぶ台にのせる。
裏返すと、下の方に名前を書くらんがある。
その横に、お城と三日月のスタンプも。
まずは、名前だ。
間違えたらこまるから、えんぴつにしよう。
ぼくはペンケースから2Bのやつを選んだ。
僕の名前は漢字でたった三文字だけど、「瀧」の字が難関だ。
他の漢字二文字分くらい、ボリュームがあるから。
最初は苗字――
ドクン!
ううっ、いきなり苦しい。でも書いた。
次――
ドクンッ、ドクンッ、ドクンッ、ドクンッ!
ぐ……ぐっ……
ドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクン――
――ぼくは、気を失った。
最後まで書けたかどうか、たしかめる前に。
◇◇◇
一方、
それはもちろん、昨日の午前中に瀧人の部屋から回収してきたものだった。
幼稚園の時、別れを告げる間もなく、引っ越していった瀧人。
せっかく書いた手紙を、当時も渡すことは結局出来なかった。
勇気を出して、書いたのに――――。
幼稚園の時、瀧人に抱いていた淡い想い。
それは今思えば、無邪気な「好き」だった。わざわざ伝えなくても、幼稚園で毎日いっしょに過ごす中で、芹里菜は充分満足していた。
しかし、あの事件。
「しょうがっこうにいっても、なかよくしたいともだちをかこう」と言う活動で、
芹里菜はとっさに、今まで描いていた画用紙をビリビリに破いて、あらためて別の絵を描いた。
もちろん破かれた最初の絵には、瀧人がひとりで笑っていたのだが、なぜか彼女はそれを他の人に見せてはいけないと思ったのである。
最初に、自分の気持ちにふたをした瞬間だった。
そしてあの花火大会の日、ぐうぜん
その気持ちのままに、芹里菜は手紙を書き、ふれあいホームステイの間瀧人がすごす部屋に置いてきたのである。
しかし結局、自分の気持ちにまたしても自分でふたをしてしまった芹里菜。
(どうせ届かない想いなら、初めから届けなければいいんだ)
瀧人と透子が二人でいたことを光士郎に知らされて、強くそう思った。
にぎりしめられた手紙はもう、宛名の人物に届くことは、ない。
そう思うと、あらためて芹里菜の涙はあふれて止まらなくなるのだった。
そうしていつしか泣きつかれて、置き手紙を手にしたまま眠りについた芹里菜の夢枕に不思議な人物が現れて、彼女にこう伝えたのである。
「
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